機巧館のかぞえ唄

刊行日:1998年06月16日


さーて、本日もはやみねかおるのお時間です。

今回読んでいく「機巧館のかぞえ唄」ですが、とにかくこのお話は難しい!!小学校の図書室でこの本を借りたクラスメイトが「どういう話なんだ??」と混乱していたのをよく覚えています。


なんとか解説しようと思ったんですが、私にとっても「一体どういう話なんだ……?」となってうまく解説できなかったといういわくつきの作品。

何しろ、夢をテーマにしているから、現実なのか夢なのかがさっぱりわからないんですね。そんなよくわからない作風です。


では、早速読みながら小ネタを拾っていくことにしましょう。


□拾われている作品


○本

・横溝正史 『本陣殺人事件』

 ・金田一耕助のデビュー作です。

・高木彬光 『刺青殺人事件』


・アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』

・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』

・横溝正史『獄門島』『悪魔の手毬唄』

 ・これらは亜衣の見立て殺人の例示として登場


・天藤真『あたしと真夏とスパイ 』

 ・亜衣が探していた本


□小ネタ

・前巻に引き続き、冒頭で謎の小説が引用されます。勇嶺薫著『夢迷宮』だそうですが、やはりこれは存在しない架空の小説のようです。もっともはやみね先生が同人誌とかで出しているものかもしれませんが。


・この現実は誰かが見ている夢。前巻での序文でもこのテーマは出てきました。


・メタ的な視点でいうと、小説の中の登場人物にとっては、小説の中の世界は「誰かが見ている夢」であるわけで、それを表しているのかもしれません。まあ、「考えるな、感じろ」の世界なので先に進みましょう。


・第一部は怪談。大量の謎が出てきてはすぐに解かれるボーナスステージみたいな感じ。


・教授の語る怪談「どっちが夢なのか現実なのかわからなくなる」というものは、今回の作品を貫くテーマみたいなものですね。


・3人の侍、和郷わきょう伝椎でんしい厘笙りんしょうなにか元ネタがありそうなのですが、解らず……解った方居ましたらコメントで教えて下さい!


・「オープニング まどろみ」今回は夢がテーマなので、章タイトルもそれっぽくなっています。


・『夢の中の失楽』というキーワードが出てきました。


・いきなりパーティに招待される教授。伊藤さんがいると、やっぱり導入が早いですね!


・平井龍太郎なる架空の小説家、日本語と英語をかけたタイトルが持ち味ですが、小学生の頃は英語さっぱりだったので意味がほとんど分かりませんでした。


・ミステリの最高峰、「鮭紙賞」、絶対元ネタあると思うんですけれど……ミステリに詳しい人教えて!


・語り手である亜衣の口から再び「赤い夢」という単語が。


・平井先生、技術力ガチ勢なんですよね。携帯電話を改造して、かかってきた電話番号を表示する……どういう仕組みだ?


・はやみね先生が乗り移ったように「本格推理小説」について語りだす亜衣。いいコーナーだ!横溝正史が『本陣殺人事件』を連載しはじめたりした時に、平井龍太郎はこういう話を書いていた……!みたいなのは、はやみね先生が「もし現実にこんな小説家がいたら?」と想像を膨らませたんでしょうね。


・今回の舞台、機巧館はG県にあるとのこと。G県は日本に2つあり、GUNMAかGIFUのどちらかです。


・機巧館は、「奇妙な館を設計するので有名な、中村」に依頼したが断られているそう。「総生島」の霧越館と同様に、館シリーズから特別出演させたんでしょうか。


・平井先生の家族、娘たちは花鳥風月から取られているんですね。


・「書生」という存在が読者の皆様にはわからないだろう。という一文、この時代でもそうだったのですから今となってはもはや完全に絶滅ですね。


・推理作家のパーティ「推理作家は笑顔でも目が鋭い」みたいなちょい失礼なこと書いてたりしますが、もしかしてはやみね先生、リアルでこの手のパーティに参加した経験で書いてたりします?


・「ぺっとんとん」の元ネタは明らかに「たまごっち」ですね。たまごっちは1996年発売なので、この作品の刊行日の二年ほど前にあたります。なので、当時ブーム真っ最中って感じだったんでしょう

ね。


・「ぺっとんとん」800日生きるということは、だいたい二年ぐらいですね。気の長いゲームだ。


・夢水清志郎は、この時点で名探偵として世の中に知られているハズ。ということで推理小説作家にはモテモテになる気もしますが、本人がめちゃくちゃ汚く料理を食べているので、避けられているのかも……?


・「見立て殺人」という言葉に反応して、解説してくれる亜衣。完全にはやみね先生の「よし!いっちょ読者にミステリの基本を叩き込んでやるか~~!!」ってシーンなんですが、このおかげで私は「見立て殺人」を知ることが出来ました。ありがとう、はやみね先生。勉強になりました。


・でんでんむし殺人事件、短い間に怒涛のミステリあるあるが詰め込まれて今読んでも面白い。


・列挙される、見立て殺人を取り扱った小説。ここの「ああ、これらの作品をいまから読めるあなたが、うらやましい!」という一文、20年経ってもしっかりと覚えています。「え!?読んでないの?」じゃなくて「今から読めるアナタが羨ましい!」ですからね。このポジティブな考え方に随分助けられました。

「獄門島」を読み始めた時もこのフレーズが頭に浮かんで「はやみね先生……本当だったぜ!」と思わずにやけてしまったのもいい思い出です。このスタンスで人間生きていきたいものですね。


・なぜ?見立て殺人を行ったのか?をはっきりとさせたい。とのことでしたが、なぜでしたっけ……昔のことなので記憶が曖昧です。読み進めていきましょう。


・悲鳴が上がると同時に動く教授。なんだかんだで事件が起これば有能なんですよね。


・舞台変わって第二の夢スタート。登場人物が一部変わっています。夢の中の夢ってことなんでしょうか?


・「パソコンはおそらくインターネット専用だろう」という一文があります。当時だんだんインターネットが普及し始めたことが分かりますね。


・そう言えば、舞台は秋なんですね。夜光怪人で夏祭りをやってましたね。


・第一の夢は、平井先生が書いた原稿だった。ということなんですが、なぜ平井先生が夢水清志郎や岩崎三姉妹のことを知っていたのかは謎。多分これも夢か作中作か……


・レーチが「何かを消す時、一番簡単な方法は、ないものを消す」という夢水清志郎の言葉を引用するんですが、これは伯爵事件の時に教授が語った内容で、レーチ自体はそれを知らないはず。ってことはまた夢か?


・「本の背表紙だけ並べて作ったカメの甲羅みたいなもの」というのは、江戸川乱歩の小説内で小林少年がやっていたネタですね。


・ここで死人が!このシリーズで明確に死人がでるのは初めてです。ただ、これは現実なのか夢なのかわからない所ありますが……


・「この事件の恐ろしい所は平井龍太郎が死ねないところにある」ってどういう意味でしたっけ?すっかり忘れてしまいました。


・書生の仲村君は作中作の登場人物なので現実には居ないんだ!ここらへんの入れ子になっている構造が非常にややこしいところ。はやみね先生!これ青い鳥文庫ですよ!!?


・美衣がどんどん面白いキャラになっていきますね。こういったキャラの成長(?)は見ていて楽しいですね。


・ベッドで寝るのが嫌なレーチ、家でもこの調子なんでしょうか。もっともこのシーンが夢の中でない証拠はないですが……。


・第二の夢、亜衣が指を刺されて死ぬ……というので終わりって解釈なんでしょうかね。


・第三の夢、リノリウムが出てきてテンションあがりますね。


・結局、第一の夢も第二の夢も作中作。ということになったらしい?


・無敵の教授が焦っている様に見えるのが緊迫感ありますね。


・教授が解説する「見えない人」として郵便配達人をあげるの、これ外国の有名なミステリのネタだったはずなんですが、タイトルを失念してしまいました。分かった人いたらコメントで教えて下さい。


・「そう、犯人はゲーム脳を利用して殺人事件を行ったんだよ!!」というのは、「催眠術を使ったんだよ!」並に雑なんですが、夢の中なのか、現実なのかがわからない為よくわからないという……。


・機巧館にからくりなんてなかったんだ!!という先入観を使うトリック、中村氏に依頼している所も含めて、館シリーズオマージュなんでしょうね。


・ここからの謎解き、全般的にぼやかされているので感じるしかないんですが、非常にややこしいんですよね。はやみね先生!これ青い鳥文庫ですよ!!


・エッ……?結局全部みんな赤い夢の住民だったって……コト?


・第三部はうって変わって愉快な短編。口直しって感じですね。


・子育て回が来るの、完全に作者の私生活が元ネタですね。


・上越警部のことを山陽警部と間違える教授。新幹線つながりですね。


・創人くん、大きくなって名探偵になるそうですが、のちのシリーズで拾われるんでしょうか?


□総評

今回も、冒頭で細かい謎解きをするというスタイルを保っています。怪談をしながらの謎解きという形で一気に大量の謎を説いていきます。まるでジャブのラッシュみたいな感じですね。


こうして、小説を分解して見ていくと、ぶっちゃけた話、起承転結で物語を作るなんて話は嘘だと思うんですよ。大体起承転結は物語を表した言葉ではないので。

これだけが正解というわけではないんですが、色々と見ていくと、冒頭で読者を引きつけるジャブを放ってるんですよね。そしてフックで興味を引いてそのまま怒涛のラッシュ、ストレート!最後に大きく振りかぶってのアッパー!FATALITY!って方が実際の構成に近いんじゃないでしょうか。(なんのこっちゃ?)


さて、今回のお話はすっごい複雑。夢がモチーフというか、物語が入れ子になってるんですね。目次は


第一部 怪談


第二部 夢の中の失楽


オープニング まどろみ

第一の夢 レム睡眠

第二の夢 ノンレム睡眠

第三の夢 覚醒


三部 さよなら天使


という構成になってまして、

一部は皆で怪談をして、怒涛の謎解き。でも最後に教授が「現実と見分けがつかない夢が一番怖い」と今回のテーマに通じることを言い出して、あやふやな感じで終わります。


第二部は、本編。小ネタで紹介したように、入れ子に次ぐ入れ子になっていて、非常に複雑。


第三部は、口直しと言うか、子どもが生まれたはやみね先生の実体験をそのまま小説にしたような内容です。


さて、この第二部なんですが、夢モチーフということもあり、

レム睡眠、ノンレム睡眠と睡眠にまつわる章タイトルが付いています。

第一の夢と第二の夢はそれぞれ、「まぼろし文庫」という架空の文庫の表紙がついています。作中作であること言うことを示しているんでしょうね。なお、なぜかたぬきと狐の絵が描かれています。(なにか理由あるのか?)


今回このレビューを書くにあたって二十年ぶりぐらいに読み返してみたんですが、やっぱりはっきりとはわからない。平井龍太郎が告白しなかった罪、結局なんだったんでしょうかね。とか……。


全般的にトリックには無理がある感じなんですが、教授をして「このトリックには問題がある」と語らせているので、そこは今回のメインではないんでしょうね。


あと、今作、このシリーズでは珍しく人が死ぬんですよ。(劇中作ですけれど)そこも含めてかなり異色な作品です。なんていうか、はやみね先生、ついに自分の趣味に走り始めたというか?


何度もなんども出てくる「赤い夢」というフレーズですが、これを「探偵小説の世界」と考えると、「この世界が現実かどうかなんて意味があるんですか?」という作中人物のセリフは「探偵小説の中の人間のセリフ」として結構重みがあるかもです。


ある意味「自分が探偵小説の中の人物だと気がついてしまった人間の独白」とでもいいますか。


さて、何が夢で何が現実かあやふやになった所で、今日は終わりにしましょう。次回は、大江戸編です!

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