踊る夜光怪人
刊行日:1997年07月15日
さて、シリーズ第五弾は、「踊る夜光怪人」!江戸川乱歩の世界っぽい怪人と、暗号の謎解きが光る秀作です。
前作、前前作で、本格の楽しさを子どもに叩き込む楽しさに目覚めたっぽいはやみね先生ですが、今作では昭和のジュブナイルっぽいどこか懐かしい感じのミステリといった仕上がりです。
さて、実際に小ネタを拾って読んでいくことにしましょう!
□拾われている作品
○本
・13人目の名探偵
・教授がソファーで読んでいるk,アドベンチャー形式の本だそうです。教授は古本屋で200円で買ったそうですが、現時点(2021/07/27)AMAZONで見ると32000円してびっくりしました。
・地底探検
・ジュール・ヴェルヌの名作。
・江戸川乱歩『二銭銅貨』
・小栗虫太郎『完全犯罪』『黒死館殺人事件』
・エドガー・アラン・ポー『黄金虫』
・コナン・ドイル『踊る人形』
・モーリス・ルブラン「奇巌城」
・以上は教授が解説する暗号を扱った推理小説郡。作者から読者への推奨書籍ですね。
○映画
・ハワイの若大将
・暗号を解いてお金を手に入れた教授が部屋を回想したときに亜衣が感想を述べる。今の子供わかるのかな……?
・「サイコ」
・テーマソングを流したらピッタリ。という使われ方をしている。
□小ネタ
・「夜光怪人」実は横溝正史先生がそのまんま『夜光怪人』という子供向けのミステリを書いています。(筋は全然違いますが)
・冒頭でいきなり、「赤い夢」にまつわる一節が引用されます。(勇嶺薫著『赤い夢』より抜粋)という注釈がついています。子供の頃、この本が本当にあるのかと思ってたんですが、どうも調べるとこの本自体が架空のものみたいですね。同人誌とかで出しているのかもしれませんが。
・赤い夢、何度か言及されていましたが、今作では冒頭で引用されるので、かなり推しが強くなってきた模様。
・冒頭のサラッとした謎解き、今回は暗号ネタです!本編でも暗号が使われるので、その準備ですね。
・夢水インターネットサービス、この時代1997年はインターネット黎明期。はやみね先生も気になってたみたいです。
・めっちゃハワイ感だしている教授。これが羨ましくて、私は大人になっても沖縄そばを食べながら沖縄音楽を流して旅行にいった気分になったりしています。
・「大阪弁をしゃべるランニングにすててこの宇宙人」はやみね先生のデビュー作「怪盗道化師」に同じ描写の宇宙人が出てきます。好きなんでしょうね。このイメージ。
・オープニングがわりのうわさ話(江戸川乱歩ふうに)という一文、江戸川乱歩、こんな導入してた!!!と思わず笑ってしまいました。再現度高い。「この怪人が東京都民の話題に登らぬ日はなかった」みたいな描写入れてくるんですよね。
・教授がクーラーを買わない理由。機会があったら教えるね。とありますが、結局明かされたんでしょうか?
・「怪人なんているわけ無いだろ」と教授のまっとうな意見。「わざわざ目立つ格好をして怪人を名乗る犯罪者なんているわけない。リアリティがない」という立場なんですが、実際この巻の犯人は名乗りたくて名乗ったわけではないので、この意見は正しいんですよね。周りの人が勝手に夜光怪人だって騒いでいるだけで。ここらへん、はやみね先生が好きだった、怪人とか怪盗が出てくるお話に対するアンサー的な部分があるのかなと思ったり。
・でも、この世界怪盗クイーンやら、わざわざ名乗って事件を起こす伯爵なんて存在がいるんですけれどね。リアリティとは……?
・片桐部長、通称カマキリ先輩。部長に昇格しています。この巻では結構活躍してくれる。
・文芸部の合宿、なんか重大なイベントっぽいんですが、のちの巻で拾われたりするのかしら?
・錬金術のトリック、釜を磁石にした。というものなのですが、実は磁石は熱を加えると磁性を失う(キュリー点といいます)ので、下から直火で当てている鍋に使うのは結構厳しそうです。キュリー点は100度より上なので、鍋に水が入っている状態ならうまくいくかもしれませんが……。かき混ぜる棒を磁石にしたほうがいいかもしれません。
・第4幕のタイトル「
年代的にも15年前なので、はやみね先生が多感な時期に読んでいないとも限りません。なお、たがみよしひさ先生の「
・「超常現象研究会の会長、中村さんを研究する会」再び出てきました。この後も出てくるのかなぁ……
・住職が乗っているのは川崎のZⅡ、有名な大型バイクです。
・住職のセリフ「……キガチガウガ、シカタガナイ」これは金田一耕助の『獄門島』における有名なセリフのオマージュですね。ちなみに元ネタの方は「キチガイジャガ、シカタガナイ」なので、ちょっと子供向けに改変されてますね。
・コウダヨシサルの謎、普通に「前から順番におして、最後は真ん中以外」とかの口伝じゃだめだったんでしょうか。まあそれいい出すと暗号自体おかしくなりますが……
・フィクションによくある、謎スイッチ。動作原理は?とか機構は?とか考えると頭おかしくなりそうですが、こういうのはサラッと流して進みましょう。謎スイッチの動作原理を考えるより、謎スイッチでぽっかりとあいた洞窟の中を覗き込む時のドキドキ感を大事にして生きていきていくべきだと思わんか?なあ?
・純文学、純文学とうるさいくせに、「部長の文学体験は、ぜったいに江戸川乱歩から始まっている」という片桐部長、好きなんですよね。多分はやみね先生も、江戸川乱歩から始まった人なんじゃないかなと。
・ヒカリゴケ、実際にある苔なんですが、このような本文中のイメージとは異なり、自分では発光しません。弱い光でも光合成できるようにレンズのような組織を持った苔で、外からの光を反射して光っているように見える。というだけですので。
(なお、発光性のキノコや発光バクテリアは実際に光ります)
もっとも、ドラえもんでも「実際に光を放つヒカリゴケ」がひみつ道具としてでてきたりするので、そこらへんから誤解が広がったとも言えるでしょう。
しかし、このヒカリゴケがあるからこそ、夜光怪人が生まれるわけですし、何しろ地下の幻想的な空間を描写できるようになるわけで、ここはチンケなリアリティより、作劇のために大胆な嘘を優先させてよかったと思います。
・教授に暗号を解いてもらいたいけれども、教授は面倒くさいのと、すでにお金を持っているから協力してくれない。こんな感じの構図を作っておくと「どうやって教授に暗号を解かせるか?」で展開を作れるのでいいですね。
・宗歩の暗号、大抵の謎を瞬時に解いてきた教授が悩むのは珍しいパターンです。
・いざとなったら原稿を代筆。中学生に書かせていいんですかい?伊藤さん!
・岩清水慎太郎刑事、確か夜光怪人が初出だったと思うんですが、すでに知っているような描写がされているのが気になります。他の事件で会ってたのかしら。
岩清水刑事はファッションに気を使っているものの、いきなり中学生に手錠を取り出したりと、中々キレてるキャラとして描かれています。
・夢水清志郎の暗号講座。これ読者であるキッズにミステリの暗号ものの基礎を教え込もうとする魂胆があるに違いないとみた。課題図書まであるしな!
・本堂でステーキを食べる教授。ええんか。罰当たりにならんか?
・読者への挑戦コーナー。当時人気だった刑事ドラマ『古畑任三郎』の決め台詞をパロディにした一文があります。今回の謎は一点だけ気がつけば簡単(というか、暗号の解き方まで「この考え方で間違いない」ってヒントだされてますしね!)なので、これを読む小学生でも解けるような謎にしてみた。ということなんでしょうかね。
・いろは歌には暗号が隠されていたんだよ!というネタ、当時流行ってたんでしょうかね。なお、この手の話は元ネタを散々いじくりまわして結論に達するのでかなり怪しいものがあったりします。(ちょっとググっただけで、いろは歌にはユダヤ真実が隠されているんだ!みたいなのまで出てきますし)
・夜光怪人を葬るために何をするべきか?という所で、今までのシリーズの犯人を総出演させるのはアツい。この展開、すごい好きでした。シリーズ総決算って感じで(でも別に終わるわけじゃあないですが)
・電話の前で電話をかけようかどうか悩むレーチ。今は大分状況が変わったので、固定電話で好きな人の家に電話をかけるかどうか悩むなんて体験はなくなったかもしれませんが、それはそうとして、このドキドキ感はいつの時代も変わらないものだと私は信じているのです。
・夜光怪人が仏像を落としたM川、舞台がM件(MIE)だとすると、はやみね先生の故郷である伊勢市を流れるMIYAKAWAですかね。
・なんと今回は読者への挑戦が二本立てになっています。とはいえ、今回位のネタは割と単純なので小学生でもわかるかも?私は確か分かった記憶があります。
・今作のラスト、「亜衣が教授の行動を推理する」という亜衣の成長が垣間見えるラストになっています。
・ところで仏像、回収する必要あった???そのまま祠に置いておけばええんちゃう……?
□総評
なんていうか、今作は「子どもに実際に謎を解かせる」ことを意識しているような作品だなと思いました。難易度が低いとも言えるんですが、やっぱ自分の力で謎を解く!みたいな快感を味わってほしかったのかもなと。
元ネタの「夜光怪人」が子供向け小説だったことを考えると、横溝正史や江戸川乱歩のジュブナイルで育ったはやみね先生が、もう一度その手の要素を拾って一作かきあげてみた。というような感じがするんですよね。
「怪人なんて嘘さ。本当にいるわけないのさ」なんて言い訳しながら、やっぱ怪人を
出したくなっちゃうものなんですよね。
さて、謎も解けた所で、次に進みましょう。次回は当時の小学生(私も含め)を散々戸惑わせた「機巧館のかぞえ唄」です!
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