人形は笑わない
刊行日:2001年08月24日
さて、今晩も始まりました「はやみねかおる、全部読む」のお時間です。
今回は、シリーズ7作目(番外編を入れると9作目)の「人形は笑わない」というシリーズです。
だいたいこのあたりから、シリーズを追わなくなったなったのか、記憶がやや曖昧に薄れてくるんですよね。修学旅行まではうっすら読んだ記憶があるんですが……。
まあ、所見で読む楽しさがあるのだとポジティブに考えて、読み進めていきましょう!
□拾われている作品
○本
・『なんとなく、クリスタル』
・田中康夫の小説。一ノ瀬くんが言及。でも時代的にズレている気も。
○映画
・『八つ墓村』『悪魔の手毬唄』
・おどろおどろしいミステリ映画として登場
・『犬神家の一族』『オリエント急行殺人事件』『ナイル殺人事件』
・ミステリ映画の例として紹介
・『犬神家の謎 悪魔は踊る』
・犬神家の一族の映画版ですが、作っている会社が違う版だそうです。
・『クリスタル殺人事件』
・ミステリ映画の例として登場
・『復習するは我にあり』
・レーチが言及する映画として登場
□小ネタ
・ついに三姉妹も中学3年生に
・平日半額のハンバーガー、今の子供には解説が必要かもしれません。実はこの時代、マクドナルドが平日半額というキャンペーンを開始して、ハンバーガー一個が65円というイカれたプライスで発売されていたのです。
今となってはデフレを象徴するような値段ですが、かなり衝撃的な値段でした。ワスもたくさん食べたもんじゃのう……。
・糸電話での送金、アイディアが面白すぎる。
・ITを使いこなす伊藤さん。サイクロン一号の詳細なスペックが書いていないのがちょっと残念。というのも、こういう一昔前の小説に出てくるPCの記述を見て「当時のPCのスペックはこんなもんだったなぁ……」と感慨深い気持ちになるのが好きなので。
・登場人物紹介に書いてある「彼氏」設定、本気じゃなかったんかい!(いままで忘れてた)
・『覆面レスラー研究会』『銀行襲撃は午後二時五十五分』なる謎のクラブが出現。
・一ノ瀬君、中村巧之介の子孫っぽい感じですね。
・パソコン少女、森川美琴、年次的には去年からいたはずですが、今作から登場する新キャラです。
・バイト先の本屋『虹北堂』、店主は恭一郎さんだそうですが、これって『虹北恭助の冒険』のネタでしたっけ?ちょっと記憶が曖昧なんですよね……あとで読む時に確かめてみよっと。
・毬音村があるのはG県。G県はGIFUかGUNMAのどちらかなんですが、どっちなんでしょう?
・毬音村の村おこしに対して『まだ日本がバブルで浮かれていたころ』という説明が入ります。シリーズ一作目(1994年)時点では、オムラ・アミューズメント・パークなんていうバブル建築物がでてきていたのになぁ……感慨深いです。この作品が書かれた2001年にもなると、完全に「バブルは崩壊した」という認識になっているんですね。
・教授の名探偵の定義「難しい事件をみんなが幸せになるように解決する人のことです」というのは非常に素敵な定義です。ただ、事件を解決するだけじゃあ名探偵じゃないんだぜ!という誇りがあります。(大江戸編から使われ始めたんでしたっけ?)
・伊藤さんが運転するバスは「ポチV3」説明するまでもないですが、仮面ライダーネタです。
・村の老人が昔見たという「大きなサルが高いビルにのぼって、飛行機を叩き落としていった」というのはキングコングのことですね。
・「ポロシャツの第一ボタンまでしっかり止めている」ということでキャラを出していくの良いですね。ここで登場した新キャラ、結局「妙なことにこだわりのある変人」だったのですが、後シリーズで絡んだりするんでしょうか?
・「ミステリ漫画なんかで、時々、顔も体もベタ塗りにされた黒ずくめの人物が出てくるだろ」ここらへんのミステリの犯人あるある。コナンくんとかで一気に知られるようになった描写だと思うんですが、やっぱりコナンくんイメージなんですかね。
・「大河内伝次郎の丹下左膳」「鶴田浩二の眠狂四郎」「大友柳太朗が演じる霧の小次郎」列挙される、往年の映画のキャラクター。「夢水清志郎」の元ネタが「眠狂四郎」だと考えると、やっぱり先生このあたりの映画好きなんですよね。
・お爺さんは剣道三段の腕前。剣道、ちらっとやっただけなので、これがどの程度すごいのかイマイチピンときません。誰か教えて!
・「学校でやる農業体験なんて、ただ上っ面をなぞっただけ」みたいなセリフ、レーチらしいといえばそうなんですが、納得してしまいました。
・ボサボサの老婆が届けに来る不吉な手紙、教授も「どうせなら『おりん』と名乗って欲しかった」と言っているように、これは横溝正史の『悪魔の手毬唄』ネタですね。(そういう不気味な老婆が出てくるんです)
・今回のトリック、最初の殺人事件はトリックとは言えない、いわば偶然の殺人なんですが、それから後のトリックはわりかしちゃんとしています。
・後書きによると、「本来は修学旅行編だったのが変更した」とのことです。道理で記憶にないわけだ……。
□総評
自主制作映画、いいですよね。私も経験あります。
今回の夢水清志郎事件ノートは映画ネタ。かつて「総生島」事件で映画ネタをやっているので二回目なのですが、今回は出演者ではなく、映画を撮る方、そう自主制作映画回なのです。
自主制作映画のために、人里離れた場所に行って事件に巻き込まれ……というパターンなのですね。
ところで、自主制作映画といえば、失敗の代名詞みたいなものがあります。
一人で作れる小説と違って、いろんな人に声をかけなければならないし、素人にはセットも衣装も難しいし、脚本にしたって、役者にしたって、大抵ド素人のスタッフが兼任したりするものです。だから作中でも触れられているように、出来はひどい(と単純な言葉で総括してしまって良いのか分かりませんが)ものになりがち。
レーチの「映画で借金を返す」というアイディアも結局パーになるわけですが、この結果も自主制作あるあるネタといえばそうです。
……でも、楽しいんですよ。実際に映画を作ってみるってのは。失敗したっていいじゃないですか。その分明日から「本職の監督はすごいなぁ!」と映画を見る目が変わりますしね。それに作っている時の楽しさって別格なんですよ。徹夜で編集してから皆でラーメン食べに行ったり、チャリンコ漕いでロケ地を探したり。マイクの質が悪くてアフレコしようとして失敗したり。フリーのBGMを探しあさってああでもないこうでもないと議論したり。
最終的に出来上がったものの質はどうであれ、生涯残るいい思い出になります。
そんな楽しい自主制作映画ですが、一つ、落とし穴があると思ってまして、あまりにも楽しいが故に、観客を置いてきぼりにしてしまいがち。という問題があるんですよね。
楽しむのはいい、いいんですが。他人に見せようとするなら、やっぱり「お客さんに楽しんでもらおう」という思いを込めたものがやっぱり伝わりやすくて、変に芸術方面に舵を切って「どうだい?僕たちはすごいだろう」という作品を作ってもあんまりウケは良くないもの。
漫画家の藤田和日郎先生が著書で「あえて王道の展開を外して、ハッピーエンドにせず、意外性をもたせた漫画」についてですね、
「君はこの漫画で読者にどういう気持ちになってもらいたかったの? 嫌な気持ちになってもらいたかったの? 残念だけれど、伝わってくるのは君の『こんな展開考えつく僕ってすごいでしょ』という思いだけ」と一刀両断してまして「うぎゃっ!」ってなったんですが、なんていうかそんな感じなんですよね。自主制作映画で迷走しちゃうのって。
なんでこんな話をしたのかと言いますと、はやみね先生も似たようなこと考えているんじゃないかなって思ったからです。
作中、レーチが映画研究会と喧嘩をした理由が、「最初の映画は他人を楽しませようという思いがあった」「でも最後の映画はそれを忘れてしまった」ってものなんですよね。
それは、なにもレーチの勝手な言いがかりではなく、映画研究会も感じて反省していることで、だからこそ彼らは最後にレーチを認めてくれるわけですが。
よく「エンタメ性と芸術性の対立」って話題が出るじゃないですか。本来は対立する概念ではなく、両方満たすことも可能だとは思うのですが、時々「エンタメはあくまでも娯楽であって芸術じゃない」みたいなことを言い出す困った人が出てきてしまうんですよね。(ここらへん異論が死ぬほどある分野だと思いますので、これ以上の言及は控えさせていただきますが)
はやみね先生は「エンタメで何が悪いんだ?僕はそれが好きなんだ」というう思いがどこかにあるんじゃないかなと思うんですよね。今作で拾われる映画ネタにしたって、チャンバラ時代劇とか、探偵映画とか、「エンタメ」として作られた作品が沢山言及されるわけです。「エンタメで結構!その分読者を楽しませることに全力をだそう!」みたいな気取らない覚悟がシリーズを通してしっかりしているから、はやみね先生の小説は面白いのかもなと思うんです。
さて、長々と語ってしまいましたが、なにはともあれ映画を作ってみるのは、とってもいい思い出になります。皆さんも、学生のうちに一回はチャレンジしてみてはどうでしょうか?それでは、また次回をお楽しみに!
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