『ミステリーの館』へ、ようこそ

刊行日:2002年08月29日


さて!シリーズ第10作は、なんとびっくり袋とじの「『ミステリーの館』へ、ようこそ」です!


この作品、なんと出題編の後に解決編があり、そこが袋とじになっているという凝ったしかけであり、なんとそれがまた二重になっているという……。(あとがきによると、全部手作業で実行したのでとても手間がかかったそうです)


いや~袋とじ。びっくりしましたよ。私子供の頃本屋でこれを見つけて「袋とじすげぇ!今度買おう!」と思って結局買うの忘れて20年ぐらい経ってしまいましたからね。買った時に読もうと思ってたので、今回のレビューのために初めて読むことができました。十数年放ったらかしていた宿題をついに終えたような爽やかな気持ちです。


さあ、それはそうとして、今回のテーマはマジック!一作目でもあったネタですが、やっぱミステリとマジックの相性はとても良いんですよね~!


さあ、ということで早速読んでいきましょう。楽しみです!


(あれ?修学旅行編は?)



□拾われている作品


○本

・『月長石』

・『人狼城の恐怖』

・『虚無への供物』

・『匣の中の失楽』

・『ウロボロスの基礎論』

・『ウロボロスの偽書』

・『ミステリ・オペラ』

・『オイディプス症候群』

 ・教授が晴耕雨読のために読もうとしていた本。どれもこれも分厚いミステリ……らしいですが、どの程度なんでしょうか。(詳しい人だったらわかるんでしょうけど)


・『料理長殿、ご用心』

・『料理長が多すぎる』

・『グルメを料理する十の方法』

・『カレーライスは知っていた』

・佐賀島昭『美食倶楽部殺人事件』『グルメ殺人事件』『ラーメン殺人事件』

 ・美食ミステリの例として登場。はやみね先生、もはや読者を赤い夢に引きずり込もうとするスタイルを隠す気がないですね!?


・『諏訪湖マジック』

・『大統領の晩餐』

・『不連続殺人事件』

・『スウェーデン館の謎』

・『クリスマス・プディングの冒険』

 ・推理小説にちなんだ料理を出すコーナーで言及。


・B・S・バリンジャー『歯と爪』

・島田荘司『占星術殺人事件』

 ・あとがきで作者が袋とじのミステリとして紹介。


○絵画

・『マタンゴ』

 ・梅雨時の夢水屋敷を表す言葉として登場


○音楽

・映画『スティング』のテーマソング

 ・伊藤さんが慣らし運転している時に車内で流れる曲。なお、慣らし運転が終了するとトップガンのテーマになります。

 ・映画『スティング』のテーマとは、アメリカが産んだ名曲「ジ・エンターテイナー」です。軽快なリズムとメロディ運びが印象的なこの曲、みなさんもどこかで聞いたことあるのでは?

 ・『スティング』自体、詐欺師の知恵比べを扱った映画なので、ミステリが好きな人はハマると思います。


・『憧れのハワイ航路』

 ・教授がハワイ気分を演出する曲として流しているもの。相当古い曲なので、伝わるか?


□小ネタ

・冒頭で、セ・シーマの記事という形で「勇嶺薫」なる人物のインタビューが挿入されます。漢字表記の「勇嶺薫」は今までなんどか出てきていますが、どれもこれも架空の小説っぽい……んですよね。(この名義でも小説を出しています)


・亜衣が書く小説の主人公、夢水木良朗ゆめみずきよしろう君ネタ、こういう言葉遊び好きです。


・亜衣の書いた密室事件、今回始めて読むので「よし!推理するぞ!」と意気込んでみたものの、結局「最初から鍵がかかっていなかった」部分しか分かりませんでした。部室の何かが倒れてドアを塞いでいるとか、ドアの立て付けが悪い(これは一部正解ですが)とか思ってたんですが……。


・どうでもいいですが、この謎を解く時「最初から居ないものを消すのが一番簡単」という教えが非常に役立ちました。ありがとう、はやみね先生。


・糸電話ネタ。天丼ネタなんですが、好きです。残りのシリーズでもでてこないかな……?


・上下二段に分かれてそれぞれの人物視点で小説が進んでいくスタイル。なかなか面白い試みです。電子書籍で見ると、いきなりレイアウトが違うのでびっくりしました。


・「縦だか横だかわからないようなステーキが食べたい」、松本零士先生の『男おいどん』に同じネタが出てきたんですが、共通の元ネタがどこかにあるんでしょうかね。


・教授は十キロ近く肉を食べれるらしい。刃牙が飲んだのが十四キロの砂糖水なのでそれに比べれば……って刃牙と比べるのは流石に問題ありました。すみません。


・「グレート天野」、元ネタは引田天功っぽいんですが、どうなんでしょうか。「天」しか要素ないですが。


・ポチ一号が殉職し、ポチアマゾンに変更。今度は普通乗用車です。言うまでもなく分かっているとは思いますが、仮面ライダーネタですね。


・「大丈夫。ポチアマゾンにはエアバッグがついているから」「いままでのにはついていなかったってこと?」のやり取りめっちゃ笑いました。伊藤さんのスピード狂ネタ、シリーズを通じたやり取りがるってのはやっぱ嬉しいですね。


・ミステリの館にいる名探偵たち、「りっぱな背広を着た色白で背の高い探偵さん」は結局なんのネタなんですかね。(知っている人いたら教えて!)


・ミステリの館に展示されている、ミステリ小説の舞台のミニチュア、「垣根の中につくられた離れ屋(庭に雪が積もっている)」「明るい朱色のレンガで作られた3階建ての箱型の建物」「自動車路や礼拝堂がある建物」「十五階建ての巨大アパートのかげに、かくれるように作られた建物」「館の周りに水路と水車が作られた建物」などがあるんですが、コレ全部元ネタあるんでしょうね。私は一つも分かりませんでした……どなたか知っている方いたら教えて下さい。


・それはそうと、「十五階建ての巨大アパートのかげに、かくれるように作られた建物」は、はやみね先生のデビュー作「怪盗道化師」っぽくもあるんですが、過去作ネタだったりして……?


・今回の鍵のトリック、回答編の前に袋とじがあります。「よーし、十数年分の宿題を解いちゃうか~~!」と気合を入れて挑んでみたけれど、これが難しい。

「最初に何かが入っているようなことには言及されているし、外箱と同じ素材で出来ていて、破片になったのか?」みたいなことを考えていたら、半分正解みたいなものでした。フハハ!私もこの数十年遊んでいたわけじゃあないんですよ!!


・ここで、新キャラ、N大学の民俗学研究室にいる井上快人なる人物と、川村春奈のコンビが登場します。


・この二人、いいキャラしているので、別シリーズからの登場人物だったりするのでしょうか?(まだそこまで読めていないですが)


・川村春奈はなんとびっくり超能力者!ええんか?そんなの出して?ま、まあ超能力者が出てきてもミステリは成り立ちますしね。逆転裁判とかが良い例です。あと美味しんぼも無駄に超能力者が出てきた回とかありましたしね(基準が美味しんぼなのはどうなんだと思いますが)


・「ゲーム開発に何年もかけたら、時代遅れになるのでは?」という指摘、たしかにこの部分は重要なんですよね。PSだって、もう5まで出てますしね……。


・今作で紹介されるゲーム、とにかく自由度が高いのがウリのようです。今で言うオープンワールドゲームみたいなものですかね。高い自由度で知られたシェンムー(ジャンルはFREEを自称していました)が1999年なので、そこらへんからヒントを得たのかも?


・ポンコツ化する岩清水刑事、なんかポンコツ化が急速に進んでいませんか?


・岩清水刑事は怪盗クイーンの隠れ家から脱出したこともあるそうです。これ、どこの回だったかな……そんなシーンがあったような記憶も……飛行船に拉致されてたよな……。まあ、ここはあとでシリーズ読む時確認してみましょう。


・巨大なゴキブリ扱いされる夢水清志郎、シリーズを追うごとにどんどんキャラが先鋭化していきますね。


・無煙薪、さらっと「は?あるんだが?常識なんだが?」って感じでだされると「お、おう……」と納得していまいます。こういう勢いって大切ですよね。なお、実際煙の出にくい(全く出ないわけではない)「無煙薪ストーブ」はあるようですが、無煙薪という存在は見当たりません。無煙炭ならあるんですが。


・中学校の生徒指導の先生の顔になる上越警部、岩清水刑事がポンコツ化していくのと対象的に、どんどん良識的なキャラクターになっていきます。第一作で一般人に向かって拳銃をつきつけていた時代が嘘みたいだぜ!


・「謎解きをする時には、さて――で初めなければならない」という掟を教えてもらった快人。後のシリーズでも出てきてくれないかしら。


・透視で謎解き……ええんか?って一瞬思いましたが、いいんです。事件のトリックが超能力でない限りは!


・「通信教育で空手をやっていた」ネタ、古典的なギャグですがいい。


・それはそうと、ミステリの登場人物、やたらとカラテが強い人がいる印象なんですが、これは共通認識があるんでしょうか。まあ、カラテが強くないと、クローズドサークルの犯人にとっての最適解は「全員殺せばよかろうなのだ」になるでしょうしね。やはり筋肉は正義。


・マジシャンは謎を謎にしておきたい。でも名探偵はそれを解いてしまう。これについて犯人は「覚めることのない赤い夢の世界を紡ぎ出していきたい」みたいに表現しているんですね。夢水清志郎は、その後「僕にふさわしいのは、赤い夢の世界なんですかね」等と語ります。


・赤い夢=探偵小説の世界って考えると、筋は通ってるんですよね。単純にイコールではないとは思いますが。



□総評

マジック!ミステリ!袋とじ!と、毎回といえばそうなのですが、今作もはやみね先生がやりたかったことを全部詰め込んできたような作品に仕上がっています。(あと超能力者も出てくる)


この巻を読んで疑惑を深めたんですが、やっぱりはやみね先生、赤い夢に読者を引きずり込もうとしているのを隠さなくなってきている感じありますね。

「悪ぃ……俺、やっぱ、ミステリが好きだからよ!!」とでもいいたげに、古今東西のミステリネタを散りばめ、読者を本格ミステリの世界に「入門」させようとしてくる。


でも、その試みは成功したと思います。この作品をきっかけにミステリの楽しさに目覚めた子どもって、全国にたくさんいると思うんですよ。

丁度、私がこうやってレビューを書いているように……ね。


今回のテキストを書いてて、はやみね先生が上げたミステリの数々にも興味が出てきました。この「全部読む」企画が終わったらそこにもチャレンジしたいと思います。


それでは次の作品に行きましょう!







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