ハワイ幽霊城の謎
刊行日:2006年09月22日
前作の刊行から二年。少し間をおいて、刊行された夢水清志郎。なんと今回の舞台はハワイ!常夏の島ですよ奥さん!
一体どうなるのか、ワクワクが止まりません。
まずは逸る気持ちを抑えて、登場人物を確認。アロハ山田って名前はどこらへんで区切るのかが気になりますね。
それはそうと、中村巧之介と夢水清志郎左衛門がいるんですけど????
マジで??大江戸編って時代劇パロみたいなもので本編に絡まないんじゃないの???
かなり混乱しましたが、あとがきによると、この「ハワイ幽霊城の謎」はあくまでも番外編の位置づけで、時系列も特に決まっていないそうです。(てっきり前作の続きで三年時かと思ったら違うんですね。受験シーズンにハワイには行かないか)
では、実際に小ネタを拾いながら読んでいくことにしましょう。
□拾われている作品
○本
・『黄金の13』
・13冊の推理小説で作られるシリーズ……だそうです。シリーズと言っていいのか、レーベルというべきか。えーい、もう詳しい話はググってください!
・北村薫『秋の花』
・近藤史恵『ねむりねずみ』
・ロバート・A・ハインライン『歪んだ家』
・時空が歪んだ家として言及。ミステリ以外に言及するのは珍しいですね。前巻の『夏への扉』も含め、ハインライン好きなんでしょうか?
□小ネタ
・冒頭、海賊船の宝箱が出てきますが本編には絡みません。クイーンのシリーズで回収されるのか???
・「神社の御神木が歩いた事件」ここまで何回も言及されているのに、まだ描かれる気配がありません。あと一巻しかないってことは、拾われないのかな……?
・今作は過去編と現代編が交互に来る構成。そのためか、毎回恒例になっている冒頭のちょっとした謎解きはありません。
・超マニアッククイズ、マニアック過ぎてつ、ついていけねぇ……流石に拾うことも難しいです。
・参加者もそれぞれキャラが立っているんですが、これ以降でてこないのかな?
・「鼻の頭も乾いていないし」犬扱いされる清志郎。
・「なぜYUMEMIZUに聞かないのか?」大江戸編とクロスオーバー、まじでするんだ……!?
・こうなってくると、夢水清志郎という存在、実は太古の昔から地球を彷徨っている謎の生命体なんじゃないかって気がしてきましたね。長寿と引き換えに記憶力が落ちているの。怖くなってきた。いかん、これは特別編、特別編……
・挿絵ですら、ネズミ扱いになる教授、もはや人外……
・黒電話、割ともう見たこと無い人も多いのでは?(というか、回線が適応しているのかな?)
・天真流「神手」、出た!飛ぶ斬撃!飛ぶ斬撃でた!!やっぱ一回はやりたいですよね飛ぶ斬撃!!
・200億で一杯500円のラーメンを食べると全部食べるのに一日五杯で2万年。億ってめちゃくちゃでかい数字なんですよね。こうやって置き換えてみると改めてその大きさを実感した人も多いのでは?
・「日本の田舎の町をゴムのシートの上につくる。そしてそのシートを四方八方からうにょーんとひっぱったら、ハワイの街になるんじゃないかな」
この表現、秀逸すぎて脱帽しました。ハワイの街にそれほど詳しいわけじゃないですが、一発で理解できました。小学生でもスッと分かる表現を使っているのがワザマエ!
・「お城の住居部分をダンジョンという」という解説ですが、ダンジョンは地下牢だったはず……と思って調べてみると、もともとはお城の住居部分→そのうち地下牢の意味が出てきた。という流れなんですね。ということで伊藤さんの話は正しい。
・「この世の中に、赤い夢にあこがれる子どもがひとりでもいる限り、名探偵が絶滅することはないのです」最高のパンチラインだ。
・対に、大江戸編の一行が写真で現代編の教授たちと遭遇……。一ノ瀬君とか子孫だと思うんですが、どうなんですかね。
・「推理小説好き人間にとって『館の見取り図』と『家系図』は外せない重要アイテムだ」なんとなく、分かる気も?私は面倒くさがりなのでそれほどじっくり見たりはしないのですが。
・家系図、潤太郎、穣太郎、万太郎、京太郎、那由、といった人々の名前は大きな数字の単位から取られていますね。「潤、穣、万、京、那由多」が数の単位にあたります。初代の仙太郎も考えてみれば「千」なんですね。法則に従わない人も混じっては居ますが…
・お父さんの書いたお話、遊園地を作るとか、砂浜に紋章を作るとか、悪者を部屋から消すとか、今回の事件を彷彿とさせるものがあるのが特徴的ですね。
・居候の金田さん。「赤い夢を見る人間がいるってことにね」と呟くことで一気に空気が変わる演出好きです。なお、登場人物で気がつくべきでしたが、金田さんの正式名称は「金田ファースト」そう、金田一なのです!!
・金田ファーストさん、はやみね先生が横溝正史の金田一耕助シリーズが好きすぎるのは今までのシリーズを通しておなじみだと思うんですが、ここにきて対に憧れの探偵登場!って感じでテンションが上がります。(設定的には日本を離れた後ハワイに流れ着いた金田一?)
・磁気異常が幽霊の正体だったんだよ!!と教授は言っていますが、幽霊の正体にはかなり幻覚が絡んでいるのでは?みたいな説があるんですよね。どちらかというと、磁気異常より「その家系の人は生まれつき幻覚を見やすい」とかの説明の方が納得感はあるんですが、この手の話は「精神疾患は遺伝する」という偏見を助長することもあり、正直書くなら相当の配慮が必要な話ではあります。(ここの話は非常にデリケートで今後の研究によって変わってくる部分が多しなので、皆さんも現在の常識を鵜呑みにしないことを推奨します)
教授はキャラクター的にそれを知りつつも、磁気異常という説明で乗り切りそうな気もするから判断が難しい。
まあ、「皆が幸せになれるように事件を解決するのが名探偵」なので、真相は教授の説明ということにしておきましょう。
・ヒイアカさんが語るタロウさん消失秘話ですが、わざわざトリックを使わなくても口裏を合わせればいいだけなんですよね。タロウさん。トリックを使ったつもりはなく、ただ自分のおじと同じ消え方をしたという設定で消えたかったのかしら?
・城は二つあったッ!!のトリックはどでかいんですが、家を継いだ時に相続で財産の整理とかしなかったんですかね。様子を見る限り、家の敷地にこんなのがあるとは思ってなかったみたいですが。
・「日本には名探偵が100人以上仕事をしているビルがある」ってのは何のネタなんですかね?(清涼院流水?)知っている方いたら教えて下さい。
□総評
南国リゾート編!といえば、長期シリーズに突然ニュッと入ることでお馴染みの展開ですが、今作はそんな特別編の空気も漂わせつつ、ちゃんと推理してくれるのが良いところ。
過去編と現在編が交互に来るという変則的な構成の今作、「ハワイ」をただの南国と描かず、割と地元の風俗や歴史と絡めて描いているのは中々面白い書き方です。
ここまでしっかり地盤固めしてハワイを描くの、児童向けなのに珍しい感じ。(児童向けなら手を抜いて良いという話ではないですが)
過去のハワイ編は「皆が幸せになれるように事件を解決するのが名探偵」という哲学に沿っています。現在編に関しては「それはそうと、お父さん息子ともっと話し合って!!」という気持ちにはなりますが。
ハワイと幽霊城という全く真逆のベクトルを組み合わせてみたというチャレンジも、結構面白い空気を出しています。
今作、読んでいるうちに、「ああ、そうだ。この雰囲気が好きだったんだよなぁ……」と思わずにやけながら一気読みしてしまいました。あの瞬間、私は確かに小学校の図書室に戻っていたと思います。
こんな気持ちで本を読むの、本当に久々でした。突発的にはじめた企画でしたが、良かったと思っています。
さて!次回はいよいよ最終巻、「卒業」です! ああ、ついに、シリーズが終わってしまうのか……読みたいような読みたくないような、そんな複雑な気持ちを抱えて、次回もまたお会いしましょう!
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