月詠の鏡

音大講師の茂の母は、かつて２年間だけ自分の「生物学上の父」である横井と言う男性と結婚していた。その頃の記憶がない茂は、母宛に送られてきた横井の遺産の件で、全権を任されて横井の住んでいた岐阜へ向かう。　

　父親の遺言を預かる行政書士、高井と、横井の知人でもあった司法書士の野口から父の話を聞いた茂は、12歳上の異母姉、颯乃（その）から遺品についての相談のために面会を申し出られる。
颯乃は、父の幻の作品である「月詠の鏡」を探していると告げる。だが、月詠の鏡は自宅にも、父のアトリエにもなかった。

「ハルにツクヨミノカガミを渡せ」

という手紙しか手掛かりのない中、颯乃の夫律樹（りつき）や、颯乃の教え子、茂のかつての恋人だったつぐみ、父の秘書などを巻き込み、破天荒な生涯を終えた父の足跡を茂は辿っていく。