第20話 大蒼炎と寝言


「やっぱ便利だなコレ!」


 単独行動中のブリは発光の指輪を眺めて喜ぶ。

 両手を空にして明かりを確保できるのだから当然と言えるだろう。

 そんなご機嫌なままダンジョンを歩き進めていると、何かの気配を察知。

 その何かは徐々に近づいており、一旦足を止めたブリは大剣を握り締めて鞘から抜いた。

 少し経つと何かの足元が見え始める。もうじき全体が発光に照らされるため、警戒したブリは大剣を構えた。



「……!! キッスルか!」


 発光に照らされたのは『キッスル』というチューリップ型の魔植物で、以前に3人で駆逐したことのある魔物だ。

 恐らく、チューとリップがどちらもキスを連想させるからキッスルと銘々されたのだろう。なんて安易な……

 あの時は夜叉椿のみんなを助けるために駆け抜けながら倒したので殆ど印象に残ってはいない……が、あの時は確か、赤・白・黄色の三色が揃っていたハズ。しかし、どうやら今回は赤1色だけのようだ。

 すると、急に魔物がお辞儀をしたかと思いきや、赤い花弁の中心から1本の舌に似た触手が飛び出してきた。


「うおっ、なんだ!?」


 驚きながらもブリは大剣で触手を捌き、透かさず斬りつけて魔物を倒した。


「ふぅ、あっぶね〜」


 突然の攻撃に焦るブリ。こんな攻撃を仕掛けられるとは思わなかったからだ。


「なんでだ? 前に戦ったときはなんで攻撃されなかったんだ……? はっ! そうか!」


 何故あの時は攻撃されなかったのかを歩きながら考えていると、あることに気づく。

 あの時は攻撃される前に倒していたからじゃないか? ずばり、センセー攻撃ってやつだ! そう思い立ったブリはいきなり駆け出した。


「うおぉぉぉーっ!!」


 全速力で駆け抜けるブリ。

 チラホラと出現するキッスル達も速攻で倒していく。物凄い勢いで。


「ぬおぉぉぉーっ!!」


 休むことなく駆け続けるブリ。

 この無尽蔵とも言えるほどの体力と持久力が彼の強みだろう。

 そしてその後も休まず進み続けると、突如前方から緑色のトゲ付き鉄球が飛んできた。

 ブリはその鉄球を大剣で受け止めた……が、途切れなく次々に飛んでくるので2発ほど被弾してしまう。


「ぐはっ、いってぇ〜」


 着込んでいたアイアンプレートのお陰で大事には至っていない。それを知ったブリはホッとしながらふと足元にある鉄球に目を向ける。すると、ソレは鉄球ではなく……


「……オナモミ?」


 ソレの正体は鉄球サイズのオナモミであった。


「……ということは、ピッチグリーンか!」


 暗闇から姿を現した魔物は『ピッチグリーン』というオナモミ型の魔植物のようだ。

 枝分かれした茎の周りには無数の実が実っており、その実をピッチングマシンのように投げてくるという遠距離攻撃を得意とする魔物である。

 何やらそのピッチグリーンは次の攻撃を仕掛けてくる様子。それは茎が伸び始めたからであり即座に理解できた。

 攻撃をされる前に倒そうとピッチグリーンへの接近を試みたブリだったが、突然ピッチグリーンの背後から別の魔物に攻撃されてしまう。


「どわっ、いきなりなんだ!?」


 その攻撃自体はどうにか防げた……が、接近は失敗に終わり、ピッチグリーンの背後からはピッチグリーン似の魔物が姿を現す。


「奴は……バットグリーンか!?」


 ピッチグリーン似の魔物は『バットグリーン』というメナモミ型の魔植物であった。

 ピッチグリーンとの相違点、それはこの魔物の実は釘バットのような形状をしていること。

 その実をバットのように振り回してくる攻撃がインファイターであるブリにとっては非常に戦いづらい。


「くそっ、一旦下がるしかねぇ!」


 ブリは大きく後方へ跳び、間合いを取る。

 しかし、ブリは失念していたのだ。ピッチグリーンが既に攻撃のモーションを取っていたことを……



「ーーがはっ! ぐ、ぐぅ……」


 ピッチグリーンの攻撃を5発ほど被弾したブリは、ダメージが大きかったため片膝を突いてしまう。

 休む間もなくバットグリーンが実を振り回しながら迫ってくるが、ブリはその場から動けそうにない。だが、それでも何故か笑っていた。


「喰らえ……」


 大剣から右手を離し、そのまま右手を前方へ突き出した後、ブリは魔法を発動させた。


「……燐火!」


 目の前に青白く小さな火の玉が2つ出現。

 ゆらゆらと揺れながらゆっくりと魔物達の方へ飛んでいく。


「……あれ? この魔法って、もしかしてショボいやつ?」


 てっきり、もっと派手な魔法かとブリは思っていたらしい。しかも、心なしか魔物達の動きも笑っているように見える。だが、それでも火の玉は魔物達に命中した。

 するとその瞬間、青白く小さな火の玉は螺旋を描きながら火柱を上げ、一気に大蒼炎と化したのだ。

 魔物の背丈を優に超えるほどの蒼い炎はとても美しく幻想的で、火力も相応に高く、2匹の魔物はあっという間に灰となった。単純な火力だけでいえば火箭30発分はあるに違いない。それほどの威力を燐火は有していた。


「す、すげぇ……うっ……」


 片膝を突きながらも燐火の威力と迫力に驚愕しているブリ。

 しかしその直後、目眩と吐き気に襲われる。きっと魔力不足による魔力酔いだろう。


「き、気持ちわりぃ……だが!」


 こんな所で休むのは危険だと気合いで立ち上がり、ブリはそのまま先へ進み始めた。

 大剣を杖代わりにゆっくりと進んで行くと、そこには魔法陣が敷かれているのを発見。その他も探したが特に何も無く、この場所で行き止まりとなっているようだ。


「魔法陣か……ふんっ!」


 ブリは迷わず魔法陣の上に立った。するとその直後に魔法陣は白い光を放ち、そして……




「……うっ、ココは……どこだ……?」


 洞窟内とは思えないほどにココは明るく、目を眩ませながらもブリは辺りを見渡す。

 どうやらあの魔法陣には転移魔法が施されていたらしく、ブリの転移した場所は何かの建物内であった。因みに見当はまるで付いておらず。

 本当は今すぐにでも確認したかったが、魔力酔いがまだ治まっていないため仕方なく断念。

 ただ幸いにも、周囲に魔物がいる気配は全く感じない。寧ろ、安心感を得られるほどだ。

 それが分かるや否や、その場に座り込んで休み始めるブリは、大剣を背もたれにして目を閉じた。まさか寝る気では……



「ーーしだけ、少しだけ……グゥ〜、グゥ〜……」


 すっかり寝てしまったようだ……が、これでまた動けるようになるだろう。

 今は体力と気力、そして魔力を回復させることが最優先であり、それを知ってか知らずかブリは体現しているのだ。


「……くら……え……りん……か……グゥ〜……」


 そんな寝言を呟きながらも、寝回復に努めるブリであった……

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