第3話 食料調達とリベンジ戦
「はぁ、仕方ないか……」
デニムの急な提案に動揺したが、渋々食料調達に行くことにした。
食料調達のメンバーは、デニムとフレア、あと俺の3人。
かなり暗くなってきたので、時間短縮のため3人にしたらしい。うん、実に合理的だ。
だがそれほどまでに夜は危険だということであるのだろう。
あくまでも同行者として2人に付いて行く。
しかし、幾ら探しても魔物が見当たらない。何故だ? ゲームなら夜の方がエンカウントし易かったり、敵が強力になったりするはずなのだが。やはりゲームとは違うということか……
「ねぇ、さっきから何をブツブツ言ってるの? なんか怖いんだけど」
「えっ!?」
俺はショックを受けた。
まさかゲームの件を聞かれていたとは。いや、ブツブツと言っていたからまともに聞かれていたわけでは無さそうだ。
それでも女性に怖いと言われるのは精神的にクるものがある。
(コイツ、またブツブツ言ってる……怖っ!)
なんて思っていそうな目で俺を見るフレア。
気不味くなり顔をそらした俺は、無言のまま2人のあとを付いて行く。
「うーむ、魔物が全くいない……」
そう呟いたあと、バレないようにしながらレーダーを発動した。
(……!! おっ、反応あり!)
「コホンッ、こちらの方向へ行ってみませんか?」
生命反応を探知したので2人を誘導してみると……
「あぁ、いいぞ! な?」
「はぁ、しょうがないわね」
2人は思ったよりすんなりと誘導に従ってくれた。
その2人の話では誘導した先には森があるようで、それを聞いた瞬間にその森付近に魔物がいるのだろうと推測。
「……ん? 2人は一体何を……?」
ふと気づくと、2人は進みながら野草を摘んでおり、見様見真似で俺も野草を摘んでみた。
野草を摘んでいると、中学生時代に汗だくでグラウンドの草毟りをしていた記憶と重なり、懐かしくも大変だったことを思い出しては小さく苦笑い。
800mほど進むと暗くて見づらいが、角を生やした黒ウサギが3羽彷徨っているのが見える。
どうやらこちらの存在に気づいているようだ。
するとデニムは相手に向かって駆け出し、フレアは詠唱を始めた。
「燃えろよ燃えろ、今すぐ燃えろ、ファイア!」
詠唱に関しては何も言うまい。
しかし流石は魔導士様だ。黒ウサギにファイアを浴びせ、あっという間に1羽を倒してしまうとは。
「おりゃっ!」
どうやらデニムも1羽を斬ったようだ。
だがここで残りの1羽が後ろへ振り返り逃げようとしている。
それを目にした俺は、透かさずビームを唱えた。
「ビーム!」
脱兎のごとく逃げ出す黒ウサギにビームが追いつき直撃。
すると黒ウサギは倒れて戦闘不能に。つまりはこれで3羽の黒ウサギを全て倒したことになる。
その光景を見た2人は呆気に取られ動かない。その間に念押しで黒ウサギ達をスキャン。
(ネロウサギ HP 0/30・MP 6/6)
(ネロウサギ HP 0/30・MP 6/6)
(ネロウサギ HP 0/35・MP 7/7)
「よし、今回もきちんと倒せてるな。それより名前が黒ウサギじゃなくてネロウサギというのか……惜しいなぁ、ニアミスってやつ?」
スキャンが済み、3羽のネロウサギの亡骸はデニムが2羽で俺が1羽を持ち運ぶことになったが、そこは俺のストレージに全て収納。
2人はまたもや驚いていたが、すぐに落ち着きを取り戻し、このあとはチノやキュロットのいる場所まで戻ることになった。
「グオォォォー!」
戻ろうと振り返った瞬間、後方から怒号が鳴り響く。
「!? この声は……!!」
デニムはそう呟くと共に険しい表情へと変わる。
もしや、あの怒号の主を知っているのだろうか? 何かを知ろうとフレアを見るが、フレアもまた険しい表情に変わっていた。
後ろには森があり、声はそこから響いてきた。そして今も、こちらに近づく足音が響いている。2人は既に臨戦態勢、どうやら戦うようだ。
(はぁ、やるしかないか……)
俺も渋々臨戦態勢に入る。
すると、声と足音の主が森の中から姿を表わす。どうやら人型の魔物のようだ。
「ゴブリン? いや、違う……それよりもっと大きい、まるで大鬼だ!」
狼狽えながらも魔物に向けスキャンを発動。
(オーガ HP 2850/5000・MP 30/50)
(HPが半分近く減ってる? もしかしてデニムさん達がやったのか?)
スキャン中、再び怒号が鳴り響く。
「グガァァァー!」
突如オーガは叫びながら、物凄い勢いで突進してきた。
「させん!」
デニムは前進し大盾を構え、そしてオーガの突進を止めた。
だが徐々に押し込まれている。このままでは押し負けてしまうだろう。
「……燃えろ……」
フレアは詠唱を始める。
この詠唱はファイアだ。森からは近いが火事になる距離じゃないのは織り込み済みだろう。
フレアはオーガの左側に回り込み、ファイアを放つ。
ファイアはヒットし、透かさずデニムが剣で斬り付ける。凄い、流れるような連携だ。
オーガは痛みからか再び叫ぶが、まだ倒れる様子はない。
俺は右側に回り込んでビームを発動。ビームは直撃したが、やはりまだ倒れる様子は見えず。
「こうなったら、アレをやるしかないか……」
俺は短杖をオーガに向けたまま足を止める。
すると短杖の先端が光り出し、徐々に輝きが増していく。
それを見たオーガは、ターゲットをデニムから俺に変更。
しかしデニムが立ち塞がり、それに合わせるようにフレアは再び詠唱を始める。
フレアの魔法に気づいたデニムは、瞬時に後ろへ跳んで距離を取る。
(風よ研げ研げ、無数に刻め、ウインドエッジ!)
どうやら真空の刃とは違うようだ。
無数の風を起こしながらオーガを斬り刻んでいく。それでもまだ倒れる様子は見受けられない。俺の方は……あと少しだ。
デニムは再び前に出てオーガを足止めするが、それも長くは続かず。
デニムは吹き飛ばされ、オーガは俺ではなくフレアを襲いに向かう。
「させるかよっ!」
光が充分に溜まり、フレアを護るために俺はハイビームを放つ。
オーガがこちらを見た瞬間、オーガの胴体にはバレーボールサイズの風穴が空く。
オーガはその場に倒れ、そして動かなくなった。
その光景を見たデニムとフレアは愕然とする。
俺は気を緩めず、再びオーガにスキャン。
(オーガ HP 0/5000・MP 30/50)
「ふぅ……やっと倒せたか……」
安堵して思わず呟くと、デニムも安堵してへたり込んでいることに気づく。
デニム達からしたらリベンジ戦になるのだからへたり込んで当然だ。
すると、フレアがこちらに近づいてきて一言だけ発する。
「……ありがと」
思わぬ言葉に俺はポカンとする。
フレアは頬を赤く染めてソワソワしている様子。そこにデニムが近づき一言。
「お前らさぁ、付き合っちゃえば?」
俺まで頬を赤く染め、フレアはデニムを睨み付けるがそんなデニムは笑っている。
そんな緩い雰囲気のなか、デニムに問い掛けてみた。
「あのオーガ、どうします?」
「どうするって、討伐部位だけ切り取るしかないだろ?」
どうやらオーガが大きすぎて、丸ごとは無理らしい。
基本的に大型の魔物は、討伐部位だけを切り取って持ち帰るようだ。
(うーん、勿体無い……取り敢えず、やってみるか?)
そう思うと、なんの気無しにオーガへ近づきストレージを発動してみると、なんの問題もなくオーガを収納できた。
それを見た2人は呆気に取られ動かない。確か、前にも見た表情だけど、いつ見ても飽きないな。
「さっ、帰りましょ?」
そう言って俺は1人で歩き始める。
2人は何か言いたそうな顔をしながら俺に追い付き、そしてチノとキュロットが待つあの場所へ3人で戻るのであった……
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