第21話 黒蔓と謎の弓士
「あー、もう!」
ブラは機嫌が悪いようだ。実は、1人になってからも相当な距離を歩いており、その道中にきっと何かがあったのだろう。
「あー、もう、嫌んなるなぁー!」
怒りながらも先へ進んで行く。すると、道の先から魔物達の影が見える。
「……あっ! またキッスル!?」
魔物達の影は3匹のキッスルであった……が、発見した直後にソレらを瞬殺。
「これで……26、27、28匹になるじゃん、もう!」
どうやらキッスルとの遭遇率が高いことに腹を立てているようだ。だが、それでも腐らずに先へ進む。
「……!! 二股!?」
すぐ先の道が二股に分かれている。
左側の道は道幅が広く、右側の道は道幅が狭くなっている様子。
「二股……なんて嫌な響きなの……」
二股に反応を見せながらも、ブラはどちらの道を通るかで迷っている。
「うーん……じゃあ、左!」
左側の広い道を選んだブラは、躊躇することなく進んでいく。
警戒しながら進むが魔物の気配は特に感じられず、漸くキッスル地獄から解放されたようだ……ーー
ーー……あれから暫く進んでいるが、今のところ魔物とは遭遇せず。そのうえ、道幅もどんどんと広くなっているので行き止まりの可能性は低いだろう。もしや、このまま下の階への階段が見つかるのでは? とブラは思っていた。しかし、そう上手くはいかない模様。
「……マジ?」
ブラが見たもの、それは幾重にも絡み合った蔓で象られた黒狼の姿をした魔物だった。
「何よ、コイツ……?」
今までに見たことのない魔物にブラは動揺した。恐らくは見た目からして手強そうなところも動揺を誘ったのだろう。
その魔物はまるで、闇が具現化したかのような恐怖心を煽らせる姿だったのだ。
それでもブラは動揺を振り切り、後方へ下がりながら火箭を発動した。
「行っけぇー!」
魔物は大型といっても1体のみ。
後々のことも考えたすえ、先ずは6本の火箭で様子を見ていく。
計6本の火箭が魔物へ放たれ、そのまま魔物に直撃。魔物は轟々と燃え盛り、間もなく炎に包まれた。
暫く経っても炎に包まれている魔物からは抵抗する動きは見られない。これで倒せると踏んだブラは、安堵して気を緩める。
その瞬間、火に包まれているはずの魔物から無数の蔓が放たれ、そしてブラを襲う。
「なっ、何よコレ!」
ブラに絡み付いた蔓はただの蔓ではない。耐火・耐熱性を持つ
しかし、そのことを知らないブラは、火箭を6本のみに妥協してしまっていた。
黒蔓の影響なのか、魔物を包んでいた炎は既に鎮火している。
そして、火箭により熱を帯びた黒蔓がブラを握り潰そうと締め上げる。
「……く、苦しい……熱い……うぅ……」
黒蔓による圧迫と火箭による熱で、ブラは意識が朦朧としてきた。
(……や、ヤバい……このままじゃ……)
その時、後方から1本の矢が放たれ、そのまま魔物の眉間に刺さった。
すると、締め上げていた筈の黒蔓が一瞬だが緩み、それをブラは見逃さなかった。腹筋に「ふっ!」と力を入れ、両腕で全身に絡んだ黒蔓を一気に緩ませると、黒蔓と自身の間に隙間ができたので、透かさず双剣を抜き黒蔓を斬り落とす……と、そのまま魔物に向けて火箭を発動した。
「お返し、受け取りな!」
計18本の火箭が魔物本体へ放たれ、そして全て直撃。魔物は再び炎に包まれた。
「……」
今度はブラも油断をせず、双剣を構えたまま様子を見ている。
本当なら後方にいる謎の弓士に礼をしたい……が、油断に繋がると考慮し、礼を後回しにするしかなかった。
あと、後方にいる謎の弓士からも動く気配は感じられず、恐らく魔物の様子を見ているのだろう。
2人は尚も炎に包まれた魔物の様子を見る。しかし、魔物は動くことも黒蔓を伸ばすこともしない。もしや、このまま燃え尽きるのか……
「……!!」
やはりこのままでは終わらなかったようだ。
再び無数の黒蔓がブラを襲う。
ブラは右方へ跳びながら双剣で黒蔓をいなすと、黒蔓はそのまま謎の弓士へ襲い掛かる……が、ソレを謎の弓士は帽子を抑えながらもひらりと躱した。
「やるぅ〜!」
ブラは謎の弓士をご機嫌に褒め、その後すぐ魔物へ向けて駆け出す。
そして駆け出す最中、ブラは別の双剣に取り替えた。きっと何かを仕掛けるつもりだろう。加えて、謎の弓士も何やら仕掛ける気満々の様子。
伸ばした黒蔓を戻す間も与えず、ブラは双剣に込められた魔法を発動した。
「キリキリマイ!」
双剣を振る度に真空の刃が発生し、魔物を斬り刻むと、炎に包まれたままの魔物から次々と黒蔓が剥がれ落ちていく。
すると魔物の身体が露わになり、そこには赤色の宝石に似た何かが埋め込まれているのが見えた。
そして隙を狙うが如く、一筋の雷光がその何かに命中。魔物はその場に倒れ、伸ばした黒蔓も力なく地に落ちた。つまり、遂に魔物を倒したということだ。因みに雷光の出所は勿論、謎の弓士である。
「やっりぃー!」
飛び跳ねながら勝利に歓喜するブラ。
そんなブラの元へ、謎の弓士が歩み寄り口を開く。
「いや〜、まさかあんな魔物がいるなんて知らなかったよ〜」
「……」
思っていた感じと違うことにブラは唖然とした。
想像ではもっとクールな感じの男かと思っていたからだ。
「……!!」
その男の顔をよく見ると、以前に出会ったあの夜叉椿の弓士と同じ顔だと気づく。そう、謎の弓士とは、夜叉椿の弓士である「ネル」のことであったのだ。それを知ったブラは驚き、再び唖然とする。
「実は仲間の3人とはぐれちゃってさ〜」
再びネルは口を開いた。
どうやらネルは、例の三股の分かれ道で仲間の3人とはぐれてしまったようだ。
「あははっ! それって迷子じゃん! ダッサ!」
ブラが笑いながらそう言い放つと、ネルは俯き顔を赤くしてプルプルと震え出す。ただ、それは怒りからではなく、恥ずかしさからくる行動だろう。
その姿を見たブラは、仕方ないなといった表情で言葉を掛けた。
「ならさぁ、一緒に行く?」
その言葉を聞いたネルは、思わず顔を上げ喜びの表情を見せる。
なんか子犬のような男だな〜とブラは思いながらも、嫌な気は全くしなかった。
こうして、2人は共に行動することとなり、倒した魔物のところへと向かい出す。
「……!?」
魔物を見た2人は同時に驚く。
その魔物の身体は、狼の形をした黒色の樹木であり、そこに黒蔓を宿していたようなのだ。
要は、この魔物は狼系魔獣ではなく、黒狼を模した魔樹だったということ。
「……ん?」
ブラの足元で何かが赤く光り、それはまるで宝石のよう。徐ろにその宝石に似た何かを拾い、ブラはふと呟く。
「これって、魔石じゃん……」
ブラが拾った宝石に似た何かは魔石だったらしい。
魔石自体はそこまで珍しくはないが、この大きさの魔石は初めて見たようだ。
それはそうだろう、魔石の大きさは親指程度が一般的だが、今回の魔石は握り拳大の大きさはあるのだから。
「これ、いる?」
ブラはネルに魔石を差し出す……が、ネルはそれを断る。
「ソレは君が貰ってよ。その代わり……」
そう言うとネルは、魔物の方をマジックバッグへ収納した。
「……こっちは僕が貰うからさ!」
「ははっ、そうきたか」
ネルが満面の笑みを浮かべると、ブラも釣られて微笑みながら、差し出した魔石をマジックポーチへ収納。そして……
「よしっ! それじゃあ先へ進もう!」
元気良くネルは先を歩き出し、ブラもそれに付いていく。
少し進むと道幅が徐々に狭くなり、結果として道幅が広くなる前と同様の広さにまで戻った。
その後も2人は進み続けると、ネルは何かを発見する。
「あっ、あった! 階段だ!」
ネルが発見したのは、下の階へ続く階段であった。
「あ〜、行き止まりじゃなくてよかった〜」
ブラがそう言うと2人は安堵し、そして笑い合う。
そのまま2人は下の階へ行くため、階段を降り始める。
(コイツと一緒だと、なんか楽しいかも……)
嬉しそうにブラは、ネルと共に下の階へと降りていった……
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