第22話 薄光少女と縁


「おぉ……ここが二階層か……」


 二階層へと降りてきた俺は、一階層との違いに驚いていた。

 目に映る光景はまるで、テレビで見たジャングルそのものだったのである。その光景に驚きながらも前へ進み始めた。



「それにしても、暑いな……」


 熱帯雨林のように蒸し暑く、ただ歩くだけで体力を奪われていく。

 異世界に来て前世より強靭な肉体となっても、暑さや寒さを感じるのは変わらないようだ。

 喉が渇いたので給水の指輪を右手の中指に付け、給水を発動させる。


「み、水……給水……」


 出現した水をそのまま口に含み、水分を身体の中へと行き渡らせた。


「ぷはぁ……美味い!」


 活力を取り戻し、草葉を掻き分け歩幅を広げ進み続ける。

 すると、一体の虎型魔獣と遭遇。

 その魔獣は白色と黒色の虎柄で、遠くからこちらを見つめている。

 無闇に襲い掛かってこないところを見ると、賢く慎重な魔獣なのだろう。


「虎が慎重なのも変な感じだな……」


 そう呟きながらも迂回して進むことにした。

 時間制限があるわけではないので、余分な戦闘を避けたのである。

  俺が迂回を始めると、その魔獣は後ろへ振り返りそのままジャングルの奥へと消えていく。その後ろ姿はただの魔獣では出せない風格を纏っていた。


「そういえば、白と黒って……」


 ふと前世の知識を思い出す。

 もし想像通りの魔獣? ならあの風格も頷けるだろう。



「……くる……たす……」


(……くるたす?)


 どこからか少女のか細い声が聞こえてくる。

 とても苦しそうなため、その声を頼りに少女の元へと向かうことに……




「ここか……」


 声を頼りに向かった先で、ある大樹の元へ辿り着く。

 この大樹は周囲に聳える樹木よりも二回りは大きな樹木であり、なんとも不思議な気配を放っている。

 そして、ここに辿り着いた瞬間「もしや、あの声の主はこの大樹なのでは?」となんとなく感じた。

 

「俺を呼んだのは、君かい?」


 大樹に向けて問い掛けてみる。


「……」


 大樹からはなんの返答もない。


「おっかしいなぁ、確かに呼ばれた気がしたんだけどなぁ……?」


 俺が頭をポリポリと掻いていると、突然大樹から少女が出現。


「うおぉぉぉっ!?」


 そのまま少女が顔の前まで来たので、咄嗟に後ろへ飛び跳ねた。


「あっっぶなぁ! 危うくキスされるところだったぞ!?」


 確かにこの少女は鼻も高くとても整った顔をした美少女ではあるが、見ず知らずの女性に捧げるほど俺の唇は安くない。

 因みに、この少女の見た目はスズと同い年くらいで桃髪なところもスズに似ている……というか、瓜二つなのだ。唯一違うところは目の角度と鼻の高さくらいであり、例えるならスズが可愛い系で、この少女は綺麗系といった感じだろうか。

 それと、何故かこの少女の全身からは白く薄日のような光が放たれている。それは俺が使う『再生』に似た光であった。

 スズに似ていることもそうなのだが、そもそも人は光らない。物凄く気になってしまい、こっそりとこの少女をスキャンした。


(クロシェット HP 30/30・MP 200/6000)


「……!? 現存魔力が少なくなってる……!?」


 現存魔力量が最大魔力量の1割を切ると、生き物は体調に変化が起きやすい。そこに異常があると考え、クロシェットの顔色を窺ってみる。


「……!! やっぱりそうだ!」


 俺の読み通りクロシェットの顔色が明らかに悪い。

 初めは気づかなかったが、よく見ると苦しいのを我慢しているようにも見える。

 その事実に気づくと、すぐさまクロシェットに声を掛けた。


「もしかして、魔力が足りてないから苦しいの?」


「……」


 クロシェットは頷く。


「魔力があれば元気になる?」


「……」


 クロシェットは再び頷く。

 原因は不明だが、魔力さえあれば大丈夫そうだ。


「元気になれば話せるようになる?」


「……」


 クロシェットは首を横に振る。

 どうやら具合が悪いことと無口なことは関係ないらしい。

 それなら魔力の方をどうにかしようと、現存魔力の回復方法を考えるため、今の自分に何ができるのかを考え始めた。


「……付与……加工……魔導具……」


 自分にできることは把握したので、次はそれを活かして魔力の回復方法を考え出す。


「……魔導具で……何かを……そうだ!」


 考えたすえ、魔導具で魔力の回復方法を閃いた。


「ちょっと待っててね?」


「……」


 クロシェットには魔導具製作の旨を伝え、それを聞いたクロシェットは頷く。

 その反応を見た後『ストレージ』から精霊樹の枝を取り出した。


「まさか、この時のために……」


 この時の俺には「星4の素材が勿体無い」という考えは微塵もない。寧ろ、素材ランク星4である精霊樹の枝を手に入れたのは、今必要になるからだと考えていた。

 何故なら、これから付与する創造魔法は、星4以上の素材ではないと付与ができないからである。それを感覚で理解したということは即ち、魔導具師としての成長を意味する。


「テレビで見たように作れば……」


 知ってか知らずか成長していた俺は、前世の記憶を頼りに精霊樹の枝を木糸に加工し、その木糸を編み込んで紐を作り出す。

 次に残りの枝をリング型に加工し、見事に木製ペンダントの完成となった。すると精霊樹による影響なのか、ペンダントが艶を放つ。


「綺麗だ……凄く綺麗だ……」


 その光景に見惚れながらも付与の工程に移る。


「これなら、今後も役に立つハズ……」


 ペンダントトップに『トランスファー』を付与。

 この『トランスファー』は『移行契約』を交わした者同士であれば魔力のやり取りが可能となる創造魔法。

 つまり、互いに移行契約さえすれば俺の魔力をクロシェットの魔力へ移行することが可能となるわけだ。

 因みに、このペンダントは『えにしの首飾り』と命名した。

 命名理由は、互いに契約をする事により『縁』が生まれると思ったからである。



「スズちゃんと出会った時もこの魔法が使えていれば……」


 後悔先に立たず、その言葉を痛感しながらもペンダント改め首飾りを着ける。

 装着後はクロシェットの元へ向かい、次の行動に出た。


「これから君に魔力を渡したいんだけど、その前に俺と1つ契約をしてくれないか?」


「……」


 クロシェットは頷く。


「よし、それじゃあ俺の右手に触れて貰えるかな?」


「……」


 クロシェットは再び頷き、差し出した俺の右手に両手で触れる。


「よし、いくよ? トランスファー!」


 魔法を発動すると、俺とクロシェットは綺麗な薄紫色の光に包まれた。


「えっと、次は魔力をどのくらい渡すかだけど……」


 クロシェットの最大魔力量は多い。満タンとはいかずともせめて8割は渡したいものだ。まぁ、俺の目測では5000あれば間違いない……はず。

 少し悩んだ後、初の魔法に緊張しながらもクロシェットへ魔力を渡す。


「うおっ!? 身体の中から何が抜けていく感覚がする!」


 初めての感覚に思わず驚いてしまう俺。


「……!?」


 どうやらクロシェットも驚いた様子……だが、クロシェットの顔色はすぐに良くなり、俺はホッと一安心。


「身体に異常は無さそうだな……けど、心配だ……」


 念のため、クロシェットをスキャンした。


(クロシェット HP 30/30・MP 5200/6000)


 よかった、これで安心だな……と、安堵する俺にクロシェットは初めて口を開く。


「……ありがとう」


「!? い、今っ、ありがとうって言った!?」


「……うん」


 突然の出来事にとても驚いてしまった。

 その後もクロシェットは喋り、そのまま俺と会話を続けることに。


「……とっても……苦しかった」


「そうだよね……でも、よく頑張ったね」


「……うん……頑張って……苦しいの……我慢した」


「そっか……偉いね」


「……うん」


 余程苦しかったんだな……だけど、本当に偉いよ……そう思いながらクロシェットの頭を撫でると、クロシェットは嬉しそうな表情を見せた。


(やっばいなぁ……可愛すぎるぞ!)


 そんな思いを持つ俺に、クロシェットは言葉を発した。


「……やっばい? ……可愛すぎる?」


「えっ!? うそっ、声に出てた!?」


 驚く俺の言葉に、クロシェットは首を横に振る。


「……思念」


「思念? もしかして、心の声が聞こえるの?」


「……うん」


「そっかぁ……恥ずかしい声を聞かれちゃったなぁ……」


「……ごめんなさい」


 シュンと落ち込むクロシェットの頭を再び撫でる……と、ふと気づいたことがある。それは、クロシェットの身体から発していた光が消えていることだ。


「……必要……無くなった」


「必要無くなった……?」


 もしかすると、あの光は魔力減少を抑える役目があったのかも……そう推測した直後に返事がくる。


「……そう」


「そうなんだ……よし、それなら!」


 どうやら俺の推測は当たりのようだ……しかし、魔力減少の原因が依然として不明なことにはなんら変わらない。

 そんな不安の芽を取り除くため、魔力減少の原因を明らかにしようと思う……

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