第17話 アプローチと兄妹喧嘩


「いいなぁ〜、欲しいなぁ〜、いいなぁ〜……」


 ポロが物欲しそうにずっと繰り返している。

 仕方がないので、初めに製作した分はポロに授けることにした。


「きゃーっ! いいんですか!? ありがとうございます! 一生大事にしますね! これはある意味、婚約指輪ですよね!?」


「い、いえ……そういうわけでは……」


 ポロの食いつきと圧が凄かった……

 実は元々3つ分は製作する予定でおり、このあとに残り2つ分の製作もしようと思っていたところである。

 折角なので、ポロからの退避も兼ねて残りの魔導具を今すぐ製作することに。




      (魔導具製作中……)




 残り2つ分の足輪も完成し、1つはブリへ、もう1つは自分で所持して早速装備を。


「よっしゃ!」


 ブリは凄く喜んでくれたようで何よりだ。これであの時の約束は果たしたぞ。

 そう思っていると、早くもブリがバリアを発動させる。


「俺達を守れ! バリア!」


 青色透明なドーム型の結界がブリのいた地点を中心に出現。

 色のイメージは水でかなり薄めたブルーハワイであり、とても透き通った綺麗な色をしている。

 仮令は青みのあるガラスでも良かったのかもしれないが、それではつまらない気がしたのだ。


「おぉ〜!!」


 一斉に歓声が上がる。5人ともバリアを見て感動したようだ。

 その様子を見た俺はドヤ顔をして一言。


「バリアは皆のロマンだ!」


 その時、ブロードの指がピクリと動いた。


「う、うぅ……うん? ……あれ? 確か……魔物に丸呑みにされて……?」


 ブロードが起き上がり右手で顔を触りながら喋るが、どうやら記憶が曖昧のようで現状を把握できていない様子。


「ぶ、ブロードォ〜!」


 ネルを皮切りに仲間の3人がブロードに抱きつき、その光景を見たブリは泣きながら鼻水を垂らしており、実はブリが涙脆いという事実に驚いてしまった。ということは……


(もしかして、ブラも……?)


 気になったのでブラの方へ振り向くと……


「……」


(ノーリアクション……兄妹でもこんなに違うものなのか……)


 ブラはなんの反応も示さずにただ見てるだけであり、あまりの反応の違いに思わず2人を交互に見てしまう。



「そこの御三方、俺を助けてくれてありがとう!」


 ブロードが俺達に礼を述べにきた。

 どうやら仲間の3人が助けた経緯を説明したようで、余程感謝しているのか何度も何度も礼を述べてくる。

 すると他の3人もあとから来ては感謝の言葉を述べ始め、特にポロは俺の手まで握ってくる始末。


(だ、誰か助けてくれ〜!)


 ポロに苦笑いをしながらそう思ってるいると、急に気の抜けるような音が聞こえてくる。



「くぅ〜……」


 誰かのお腹が鳴ったようで、皆が皆の顔を見合わせる。その時、無言で右手を挙げる者が1人。



「り、リネンさん……」


 無意識に名を口にしてしまったが、お腹を鳴らしたのは確かにリネンである。

 皆の視線を集めたリネンは俯きながら顔を真っ赤に染めており、出会った瞬間はもっと無愛想な女性かと思ったのだが、モザイク案件な表情をしたりお腹が鳴ったりと意外に面白いところがあって逆に好感が持てた。



「遅くなりましたが、食事にしましょう!」


 リネンが今にも泣きそうな表情をしているので、皆の気をそらすために食事を取る流れに持っていこうかと。

 そして案の定、満場一致で食事パートへ突入することになるが、反対する者がいなかったのは、あのお腹の音を聞いたから誰も断れなかったのだろう。

 


(よっしゃ! やっとベルさんが作った料理が食べられるんだ!)


 実は密かに楽しみにしており、ウキウキの表情でストレージから弁当を3つ取り出す。

 各自で食の挨拶をし、食事を取りながら今後の行動予定を共有することになったのだが、その際に全員で再び自己紹介をすることになり、この4人は「夜叉椿やしゃつばき」という格好良すぎる名前のパーティーだと知った。


(夜叉椿……ヤシャツバキ……めっちゃ格好良いな!)


 そう思っていると、突然ポロが俺の隣へ来て喋り始める。


「あのぉ……確か、恋人はいないんですよねぇ?」


「えっ!? え、えぇ、まぁ……」


 ポロの瞳には再びハートマークが浮かび上がり、ポロからの強い圧により俺は引き気味になるが、それでもポロの喋りは止まらない。


「私の好きな物なんですけどぉ、スイーツ全般でしょ? ミルクでしょ? タピオカでしょ? あとはぁ……恋っ!」


「へ、へぇ、そうなんだ……」


「そうなんですっ! 特に恋が好きでぇ、やっぱり恋はするものじゃなくて落ちるものだと思うんですよねぇ?」


「う、うん、そうだね……」


「やっぱりそう思いますかっ!? あぁ、同じことを考えるなんて……やっぱり運命の人なんですねっ!?」


「う、う〜ん、それはどうかな……」


「ぜぇ〜ったいにそうですっ! それ以外にはあり得ませんっ!」


「は、はぁ……」


 ポロの強過ぎる圧に圧倒される俺を見兼ねてブロードが口を開く。


「ポロ……もうその辺にしとけ? 奴さん困ってるじゃないか」


「えぇ〜っ! 今いいとこなんだから邪魔しないでよぉ〜っ!」


「はぁ……奴さんに嫌われても知らんぞ?」


「!! ご、ごめんなさいっ!」


「ふぅ……すまんな? ポロは恋に落ちるといつもこの調子なんだよ」

 

「そ、そうなんですか……凄いですね……」


 ポロからのアプローチは物凄かったが、ブロードのおかけでどうにか落ち着いてくれた。


「た、助かった……」


 ホッとした俺はボソッと呟く。



 結局、自己紹介は強制終了となり、今後の行動予定を話し合うことになった。

 先ずは俺達がこのままダンジョンを攻略する予定だと説明をすると、夜叉椿の4人は本来なら下見だけの予定であったが俺達と出会ったことで、俺達同様に攻略する予定に変更したらしい。

 そして行動自体は別行動だが、ピンチの時は互いに助け合う協力関係を結んだ。

 こうして話し合いは終了し、本格的に食事を取ることに。



「この白パン、ふわふわでうまい!」


 こんなに柔らかいパンは前世でも食べたことがない。


「この肉巻きアスパラ、超美味しい!」


 ブラは肉とアスパラが好きなので最高の組み合わせだろう。


「このブリの照り焼きは……絶品だ!」


 ブリが……共喰いをしている……?

 このように美味しい料理を食べていて感じたことが1つある。

 パンツァーの4人と食事をした時は料理に感謝しながら黙々と食べていたが、今回は料理の味を楽しみながら会話をしている。

 甲乙つけ難く、どちらも大切なことなんだと染み染み感じたのだ。



 食事を終え、俺達は先に出発することにしたが、夜叉椿の4人はもう少し休憩してから出発するようだ。

 

「それじゃあ、またあとで」


 最後の別れフラグが立たぬよう「またあとで」と伝え、俺達は出発を始める。




「あっ、分かれ道だ、しかも三ツ股! ……ん? ミツマタ!?」


 歩を進める俺達の前に三ツ股の分かれ道があり、先に発見したブラは「ミツマタ」という言葉に反応しては機嫌を悪くした。

 ブラを宥めながらどの道に行くかを悩んでいると、ブリから提案が。


「折角だし、3人別々の道に行こうぜ!」


 お前、正気か? と思ったが、口には出さなかった。


「兄貴、正気なの?」


 あぁ、ブラが言ったしまったようだ。


「は? 正気に決まってんだろ? ブラ、お前こそ正気か?」


 腹が立つ言い方をするブリ。


「あたしの方が、は? だよ!?」


 応戦するブラ。


「いや! 俺の方が、は? だからな!?」


 更に応戦するブリ。


「いやいや! あたしの方が、は? だから!?」


 また更に応戦するブラ。

 2人による兄妹喧嘩は加熱する一方で、このままでは埒が明かないと思った俺は2人にある提案を。


「今の状態では連携も図りづらいと思うので、一層のこと3人別々のルートへ行きましょう!」


 正直、リスクを伴うので提案したくはなかったが、これ以上険悪になるのも避けたかったのだ。

 そして、結果として俺達3人は別々のルートへ行くことに決定。

 先ずは中央のルートをブリが、次に右側のルートをブラが、そして最後に左側のルートを俺がそれぞれ進むことになり、もし自分のルートが行き止まりや他の理由で通れない場合は、初めに左側以外のルートへ行くよう取り決めをした。



「2人にコレを渡しときますね?」


 ストレージの中から2つの指輪を取り出し、ブリとブラに1つずつ渡す。

 2人に渡した指輪は発光の指輪であり、この指輪があれば松明を持つ必要がなくなるのでダンジョン攻略も楽になるだろう。

 すると2人は嬉しそうに指輪を嵌めたあと、すぐに発光を発動させた。


「それでは、また会いましょう!」


 そう言って振り返ることなく自身のルートへ足を踏み入れると、ブリとブラも無言で頷き、それぞれのルートへ足を踏み入れた。


「この先は自分1人で攻略をしてみせる!」


 自らを奮い立たせながら、先へ歩を進めるのであった……

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