第25話 合流と異変


「……うん、どうやら大丈夫そうだな」


 氷漬けの件で少し心配ではあったがやはり無傷のようで、嬉しそうに辺りを飛び回る白い球体もとい精霊。

 その様子を目で追っていると、後方から白虎に乗ったクロシェが俺の隣にきて呟く。


「……ありがと」


 微笑むクロシェが可愛すぎてつい顔を緩ませてしまう……が、ふと白虎の顔を見ると険しい表情で俺を睨んでいた。

 そんなこともあって一旦は顔を引きつらせるも、精霊に近づき「元気そうで何よりだ」と声を掛けると、精霊は目の前に来て光量を落とし「助けてくれてありがとう!」と目一杯の笑顔を浮かべて俺の右肩に座り込む。


 どうやらこの精霊は男のようなのだが緑の葉っぱ1枚だけで股間を隠しており、先程飛び回っていた際も不思議とポロリする様子は見受けられなかった。そしてそれはクロシェにも当て嵌ることであり、そういえば精霊化したクロシェのカラダも何故か大事な所だけ謎の光で守られていたなぁ……とクロシェの顔を見ながら思い返す。


 それから間もなくして、ウッドゴーレムを覆う氷が溶け出したことに気づき、その氷が溶け切ると絡み合った木々は崩れてそのまま土へと還る……と、そこには赤い宝石のようなものだけが残ったのでストレージへ入れ、次の魔物が来る前に階段を降ることにした……ーー




「ーーここが三階層か……今度は木しかないな……」


 最深部である三階層に到達して辺りを見渡すと、点々と木々が立っており、森林とは言い難い異様な空間であると即座に感じた。

 それでも先に進もうと歩き出した直後、右側から2つの生命反応を感知し、短杖を握る左手に力が入る。



「「あっ……!」」


 俺と1人の女性が同時に声を上げて動きを止めた。すると透かさずこちらに駆け寄る女性ことブラは、連れの男性の手を強引に引っ張りながら俺達の元へ。


 合流後すぐに気づいたのだが、ブラが連れている男性は『夜叉椿』の弓士ネルであり、何故か気恥ずかしそうな様子。

 それでも互いが無事なことに喜んでいると、再び右側から複数の生命反応を感知し、そこからは先程と同じ展開でブリと合流することとなる。そして偶然ではあるがブリにも同行者がおり、それはブロード・リネン・ポロの3人であったため『夜叉椿』の方でも無事合流できたことを喜び合う。



「ところでアンタの後ろにいるのは……?」


 ブラの疑問は皆の疑問だったらしく、クロシェや白虎に視線が集まる。そこで俺はクロシェや白虎との出逢い、それと恥ずかしさから透明化している精霊のことも簡単に説明することにし、逆に皆からもここまでの経緯を聞いておこうかと。


 先ず俺が話した内容は、二階層がジャングルだったこととクロシェに呼ばれたこと、それからクロシェを守るために現れた白虎を仲間にして今に至るというところまでで、宝箱を発見したことやクロシェが魔力欠乏症だったことは伏せておいた。


 次にブラの話を聞くと、各自別行動となった後に黒蔓で象られた狼の姿を模した魔樹と戦い、とても厄介だったと苦い表情を見せるも、その戦いに勝てたのはネルのお陰だと嬉しそうに語る。二階層も一階層と造りが一緒ではあったが、特に苦戦するような魔物とは遭遇せずに三階層まで来れたとのこと。


 最後にブリの話では、相性の悪い魔物と遭遇して多少苦戦はしたものの魔法で消し炭にしてやったと自慢気に話す……が、階段を見つける前に魔力不足から寝てしまったと豪快に笑う。


 その後は階段を探している際に誤って転移魔法陣を踏んでしまい、転移した先が二階層ではなくこの三階層であったらしい。因みにブロード達と出逢ったのは転移魔法陣を踏む直前だったそう。

 ……と、皆が話し終えた後、漸く姿を見せた精霊に近づく2つの影。


「「へぇ、精霊ってホントにいるんだぁ」」


 2つの影の正体であるブラとポロは精霊をまじまじと見つめ、その2人の視線に耐え切れなくなった精霊は俺の背中に隠れてしまう。

 そんな怯える精霊に同情したのか、ネルは足音を立てずに精霊に近づき、微笑みながら人差し指を差し出す。すると……



「うわっ!? まっ、眩しい!」


 ネルの人差し指に触れた精霊は突然光り出し、直視したネルは目が眩んで後退りを。慌てて俺も振り返るがその時には光は弱まっており、目視する頃には精霊の姿は既に変わっていた。そして、精霊の変わる姿に俺は思わず呟く。


「おいおいおい……マ、マジかよ……」


 姿を変えた精霊……それは、ネルが幼くなったような容姿をしており、まるでクロシェから聞いた〝スズのそっくりさん現象〟と同じだと感じた。だがこの2人には魔力の異常は見られず、ただ容姿を真似ただけのよう。てっきり姿を写し取った際に魔力に異常を来たすものだと考えていたので、それについては改めて考え直さねばならない。

 なお、ネル似の精霊は『ネラ』と名付けられ、名付け親であるブラに名の理由を聞いたら何故かぶん殴られた。

 当のネラはというと、いつの間にか白虎の背に乗って眠っている模様。


「ま、まぁ、人生何が起きても不思議じゃないからな……と、とにかく、先へ進もう」


 ネラの変身に動揺しつつも皆をまとめるブロード。流石はBランクパーティ『夜叉椿』のリーダー、見事なまでにリーダーシップを発揮している。 

 その甲斐もあって、思いの外平静な心持ちで先へ進むことができ、クロシェの指し示す方へ向かう際も反論されずに向かうことができた。



「……こっち……宝箱」


 クロシェが指差す先は木の真上であり、生やす葉の多さに目視では発見できず。それならばと、ブラは軽やかに木を登っていき、宝箱を見つけて「あった!」と声を上げてから中身を確認する。


【トレントの枝・☆2・トレントが落とす枝】


 ブラがアイテムだけを持って降りようとしたので「ちょっと待った!」と制止し、ついでに宝箱を落としてくれと頼んでみる。すると頭上に〝?〟を浮かばせながらも注文通り宝箱を落とし、間もなくブラ自身も降りてきた。


 皆が見てる中で堂々と宝箱をストレージへ入れ、何食わぬ顔で先に進む……が、やはり見逃してはくれず『夜叉椿』の面々から一斉に「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」と呼び止められてしまい、渋々戻ることに。


 案の定、4人は目を丸くしながら説明を要求してきたので魔導具によるものだと正直に明かすと、当然の如く驚かれたが『清適の足輪』の件もあったのですぐに納得してもらえた。

 一応、他者には言わぬよう念押ししたが、もしバラされても恨むつもりはない。どうせいずれは誰もが知ることになるからな。


 それから肝心の【トレントの枝】は功労者のブラが貰えることとなり、アイテムを手に入れた俺とブラは顔を合わせて同時に笑う……が、その時に感じたネルの視線には寒気を覚えた。


「さ、さ〜て、アイテムも仕舞ったことだし、早く先へ進みますかぁ……」


 ネルの冷たい視線に耐え切れず先へ進むよう促すと、すぐに寒気は治まりホッと胸を撫で下ろす。とはいえ、何故ネルは冷たい視線を俺に向けたのだろうか? と不思議に思うが、結局答えは分からず……ーー




 ーー……あれから、再度クロシェの指し示す方へ進んでいると「……止まって」と急に制止を掛けるクロシェ。

 初めて制止されたため理由を聞いてみたところ、目の前に立つ2本の木の間を通らなければならないとクロシェは云う。

 それならばと、木々の間を通ろうと接近した途端、2本の木が畝り出して本性を現す。


「コイツらは……まさか、トレントか!?」


 気づいたブリは驚く。

 何故なら、本来であればトレントはこの『呪樹のダンジョン』のボスであり、それ以外で木に扮している魔物は『ミニトレント』しかいないと事前に情報を得ていたからだ。


「なるほど、どうりで木がデカいわけだ……」


 ブロードの話によると、ミニトレントの大きさはトレントの半分ほどしかないらしく、今まで見た限りではそこまで小さい木々は見当たらなかったとのこと。そして、その事実はダンジョンの異変を示すものだとも語る。


「けどさぁ、どっちにしても倒すしかないんでしょ? ならさ、やっちゃいましょうよ!」


 2本のトレントを前にしても臆することなく詠唱を始めるポロ。するとトレントたちは魔法を使わせてまいと、ポロを目掛けて枝の鞭を同時に放つ。


「そうはさせません!」


 ポロの目の前に立ち、祈ることで結界を張るリネン。トレントの動きを先読みしていたようで、自身に張った小結界で2本の枝の鞭を余裕で防ぐ。


「よしっ、今なら当て放題だ!」


 トレント達の攻撃対象がポロからリネンに変更したのを機に、左側のトレントに矢を連射してダメージを稼ぐネル。立ち位置も本物の木の陰にいることで枝の鞭から逃れているのがより上手い。


「うん、これなら余裕っしょ!」


 ……ということで、俺はクロシェたちと共に後方で眺めることにした……

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唯一無二のアーティファクター るっち @Rucchi_108

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