第5話 冒険者ギルドと買取査定


「ま、マジか……」


 思わず俺は驚愕した。

 それは街の外からでは分からなかったが、漫画でよく見る風景よりもずっと近代的だからである。


「へぇ〜」


 地面はコンクリートに似た何かで頑丈に舗装がされており、家の外壁も綺麗に塗装されている様子。

 色彩も鮮やかで前世と比べてもなんら遜色はない。


「ほう……」


 窓ガラスは存在し、井戸ではなく水道が当たり前。

 流石に自転車や自動車は見ないが、走る馬車の揺れはとても少なそうだ。

 恐らく、サスペンションを採用しているのだろう。


「はぁ、残念……」


 これでは前世の知識を用いたチートはできそうにない。非常に、非常に残念だ。


 街の風景に夢中で忙しなくキョロキョロとする俺に対し、4人は苦笑いをしている。

 きっと俺のことを、初めて都会に来た田舎者だと思っているのだろう。今に見ていろ、クックックッ。



 キョロキョロしながら歩いているうちに、いつの間にか冒険者ギルドに到着していた。


「……ん? あ、あれは!?」


 驚くことに出入口の扉が自動ドアではないか! まさか異世界で自動ドアを見るとは……某スライムが転生した案件以外では見たことがない。

 ドキドキしながら自動ドアの前に立ってみると……


「……あれ? 動かない……?」


 反応がない。何故だ? よく見ると、ドアガラスに張り紙が張ってある。

 内容は(故障中です。お隣の扉をご利用下さい。)とのこと。


「ぷっ、恥ずかしっ!」


 声のした方へ振り返るとその声の主はフレアであり、俺は顔を赤く染めながら言い訳を発した。


「し、知ってたし? 張り紙を見てただけだし?」


 俺の苦しい言い訳にフレアは意外な返答を。


「ふーん? まぁ、どうでもイイけど……」


 あれ? てっきりもっとからかわれるのかと思ったのだがそうでもなかった。

 もしや、お腹の調子でもわるいのだろうか?

 

「何してんだ? 早くいくぞー!」


 デニムが俺達を呼んでいる。

 フレアと俺は急いで3人と合流することに。



 3人と合流後、手動の扉からギルドの建物へ入るのだが、扉は大きく立派なつくりとなっており、流石は冒険者達が集まる場所だと感心しながら足を踏み入れた。

 すると、多種多様な冒険者達が目の前に映し出されて、不意に言葉を漏らす。


「すご……」


 凄いと言いたかったが言葉が続かなかった。それほどまでに冒険者達に圧倒されたのだ。

 だが4人は一切の余所見をせずに一直線に受付へ向かっていき、そんな4人に置いてかれないようキョロキョロしながらも付いて行く。

 完全にアウェイなので、付いて行かなければ不安なのである。



 受付へ到着した4人は、受付職員の男性に依頼達成の報告を開始。すると、俺は一目でガッカリ。


(なんだ、野郎か……はぁ……)


 突然ヒマになったので、改めて周囲を見渡した。

 依頼掲示板は木製のボードで、そこに貼られた羊皮紙に依頼内容や達成報酬などが記載されているようだ。

 てっきり黒板かホワイトボードにパルプ用紙の依頼書が貼られているのかと思ったが、見当違いの様子で街の景観との違いに戸惑った。



「……ん?」


 他にも色々と見ていると、偶然1人の女性冒険者と目が合った。


「おぉ、エルフさんだ……」


 それは、金髪ロングで翠眼のとても見目麗しいエルフの女性である。

 その美しさに見惚れていると、そのエルフの女性は右手を少し挙げ、左目でウインクをしてきた。


(ヤバい! 堕とされる!)


 そう思った瞬間、咄嗟に顔をそらす。


「ジィーッ……」


 顔をそらした先で見た光景は、フレアとキュロットの冷ややかな視線。

 それに気づくと、苦笑いしながら明後日の方を向いて誤魔化した。



 4人の報告が完了し、次は道中に討伐した魔物の買取査定の話へ移行。

 その場で魔物を出してしまうと大騒ぎになってしまうので、隣の建屋にある解体場へ向かうことに。



 解体場へ着き次第に早速、コブリン3匹・ネロウサギ1羽・グラスウルフ4匹・そしてオーガ1体をストレージから取り出した。

 因みにグラスウルフを1匹だけ出さずにいたのは、何故か今後必要になりそうな気がしたからである。


『おぉぉー!!』


 案の定、解体場は大騒ぎとなり、その騒ぎの真っ只中で査定は開始された。



 暫くすると査定が完了し、査定額が提示された。査定額はなんと、53万ジャスト。


『えっ!? 53万!?』


 俺達は一斉に驚いた。しかし、俺と4人では驚いた内容が違っていたらしい。

 先ず4人の方は、想定より金額が高いので驚いていたようだ。

 てっきり40万に届けば良い方だと思っていたらしく、それが10万以上高ければ驚くのも無理はないだろう。

 次に俺の方だが、この53万という数字を見た瞬間、ある方の戦闘力を思い出したのだ。

 まさか、第一形態で53万もあるとは……実にくだらない話で申し訳ない。


 買取の商談を4人に任せた途端、即決で了承していた。あっという間の商談成立ということは、余程儲かったのだろうな。

 ホクホク顔で解体場から出る4人とついでに俺。



 再度ギルドの受付へ戻り、正式に買取代金を受け取った俺達。

 因みに俺は53万イェンのうち、13万イェンも頂けることになった。

 なんでも、色々と助けてもらった礼らしい。後でメシでも奢るとしよう。


 俺の身分証として冒険者登録証を作る話も出たが断った。

 実は街へ向かう最中、どんな仕事に就こうか熟考していたのである。

 そしてそこで至った結論は、冒険者ではなく商人として商売をすることなのだ。

 商売内容は魔導具屋で商品は勿論、魔導具だ。

 素材さえあればあとは加工も付与もできるのだから、これ以上の天職は皆無だろう。

 冒険者ギルドでの用事が済んだ俺達は、俺の要望により商人ギルドへ行く手筈となった。


 商人ギルドへ向かいながら仕事の件を4人へ伝えると、やはり4人とも驚きの表情を。

 魔法が使えるうえに魔法付与と錬金術が使えるようなものなのだから当然だろう。しかし、それには誤りがある。


 それは俺が魔法を使える理由として、素材に魔法を使えるよう付与したからだ。

 つまり魔導具を装備すれば、誰でも魔法が使えるようになるということである。

 但し、使える魔法は付与された魔法のみで、当然魔力を消費するから無駄遣いは厳禁だ。


 あとは加工の件だが、無条件でどんなモノでも加工できるような神業的なものではなく、あくまでも錬金術の一部だということも正さねばならないだろう。


 以上のことを改めて4人に説明することに。

 キュロットに至っては瞳をランランに輝かせながら説明を聞いていた。


(なんか、既視感を感じるなぁ……まぁ、あの時は見ないフリをしたけど……)



 色々と説明をしている間に、商人ギルドへ到着していたらしい。


「……おっ! あれは!」


 冒険者ギルドと同様、商人ギルドにも自動ドアが設置されており思わず喜ぶ。


「同じ轍は踏まないように……」


 今回は冷静に張り紙の有無を確認してから自動ドアの前に立つと、自動ドアはすんなりと開いてくれた。


「おぉーっ!」


 めちゃくちゃ興奮と感動を覚えた。

 前世では当たり前のことではあったが、異世界だと凄いことだと錯覚してしまうのだ。

 ギルド内にいる人達の視線を強く感じたが、それよりも興奮と感動の方が勝ったのである。



『……』

(他人のフリをしよう……)


 4人は他人のフリをして先に進んだ。

 俺は精神的ダメージを40受けた。


「ぐふっ!」


「あ、危うく吐血しそうになったぜ……あと5ダメージでも受けていたらヤバかったな……」


 そんな独り芝居をしているうちに、4人との距離は離れていき、慌てて4人を追い掛けた。


(よーし! これから商人になって商売無双をしてやる!)


 そんな想いを抱きながら、4人の元へと追い掛けて行った……

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