第6話 商人ギルドと美魔女


「やっと……おい、ついた……」


 4人の元へ追いついた俺は、息を切らしながら独り言。

 しかし4人は初めて訪れたギルドの内部に夢中で、俺の存在に気づいていない様子。

 何度も何度も呼び掛けたすえ、フレアに言われた一言がなんと……


「今忙しいから受付には一人で行ってきて」


「えっ!? 俺一人で!?」


 折角合流したのだが、結局は俺が1人で受付に行くことになった。

 その間4人はギルド内を色々見て回るそうだ。この薄情者どもめ……



「くっそぉ〜、俺だって見て回りたかったのにぃ……」


 不貞腐れながらも受付へ到着したので、受付職員の女性に声を掛けることに。


「こ、こんにちは、商売をしたいのですが……」


「いらっしゃいませ、どのような商売なのでしょうか?」


 初めてのところに緊張してしまい低姿勢で声を掛けてしまうが、受付職員が丁寧に対応してくれたおかげで緊張はすっかり解けていた。

 その受付職員は優しげな笑みを浮かべており、大人な女性という感じがしてとても輝いているように見える。


(多分、25歳くらいかな? 凄く素敵な人だ……)


 そんなことを考えつつ、魔導具屋の件を説明。

 果たして上手く伝わるのだろうか? そんな懸念も少しだけあったのだが……



 「しょ、少々お待ち下さい……」


 その一言だけ残して受付職員はバックヤードの方へ駆けて行った。



 20分ほどは待たされただろうか? 受付職員は戻り次第にこう告げた。


「私と一緒にこちらへお越し下さい」


「えっ?」

(なんだ? 俺、何か余計なことでも話したか?)


 不安になりながらも恐る恐る受付職員に付いて行った。


「こちらです」


 受付職員が案内したのは、なんとギルドマスターの自室ではないか。


(うっ、なんだか動悸がしてきた……)


 既に精神的ダメージを40受けている俺には、とても耐えられそうにない。


「いや、俺は……」


 部屋に入るのを拒もうとしたその時、部屋が内側から開いた。

 すると、室内から出てきたのは黒髪黒眼の美魔女だった。


(黒髪黒眼……まさかな……)


 魔女といっても本物の魔女ではなく、35歳以上のとても若く美しく見える女性のことを例えたのだ。

 因みに、俺には20代後半に見える。うん、凄くイイです!



「……キミが?」


「??」


 開口一番にギルマス……いや、美魔女から聞いたその言葉の意味を理解することができなかった。

 そしてそのまま部屋の中へと足を踏み入れて行くことに。


「……!! 殺気!?」


 部屋の中へ足を踏み入れた瞬間、殺気にも似た気配を感じた。

 その出所の方へ振り向くと、そこにはフードを被った小柄な男が立っているのである。そしてその男を見たときに俺は思った。


(あっ……こいつ、ヤバい奴だ……)


 明らかにカタギではなく、まるで本物の暗殺者のような気を纏っている。

 何故そんなことが分かるのか? それはチノに出会っているからだと思う。


(あぁ、そういえば……)


 一度も口には出さなかったが、チノに初めて出会ったときは特に気にはならなかったはずが、共にいるうちに、あれ? もしや、ヤバい人なのでは? と思うようになったのだ。それはもう、ヤ○ザなんて目じゃないほどに……



(うーん……あの時の言葉は一体……?)


 取り敢えずはソファーに座るよう促されたので素直に座ったが、出会い頭に言われた美魔女の言葉の意味をずっと考えていた。

 俺が考え事をする間、美魔女と受付職員の間で俺の商売に関する話し合いをしていたらしい。



「えっ!? またですか!?」


 話し合いの結果、受付職員に話した内容を再度美魔女へ説明するよう要求され、面倒ではあるが観念して話すしかなかった。



「ーーという内容になります」


 説明を聞いた途端、美魔女は悩み始める。

 その悩んでいるときの、少し俯きながら人差し指をコの字にして下唇に当てる仕草が、堪らなく神秘的に見えた。


『……ん?』


 ふと美魔女と目が合うと、美魔女は優しく微笑んだ。


(ヤバい! また堕とされる!)


 そう思ったので咄嗟に顔をそらす。



「……よし、なら実践して貰おう!」


 どうやら悩みの答えが出たようだ。

 美魔女の話では、俺が所持している魔導具の性能を確認したいらしい。


(まぁ、しょうがないか……はぁ……)


 本当なら見せ物にはしたくないが商売ができなくなるのは困るので、ため息をつきながらもその話に乗ることにした。

 但し、全てを晒すのは気が引けたので3つだけ披露するつもりである。


 初めは精査の眼鏡に付与されたスキャンを披露することに。

 要は美魔女を分析したということだ。


(ナオ HP 4500/4500・MP 300/300)


(嘘だろ……色々マジか……)


 スキャンによると美魔女の本名は「ナオ」で、オーガに匹敵するほどの強者だと分かった。

 まさか冒険者ギルドの方ではなく、商人ギルドのマスターがここまで強いとは。

 しかも脳筋である可能性が極めて高い。

 一応、その話を美魔女に伝えた。ただ、脳筋の話だけは伏せたけど。



「そんな馬鹿な……」


 分析結果を聞いた美魔女は、予想以上の驚きを見せた。


(何故だ? 普通に鑑定眼や分析魔法があると思うのだが……)


 しかし、それは間違いだと判明。


 どうやら調査系はスキル・魔法を問わず、非常にレアな存在らしい。

 そのうえ、美魔女が所持しているレア魔導具の中には情報隠蔽の効果を発動するものもあるので、本来は分析自体が無理な話のようだ。


(看破の効果か……もしかして、マズい?)


 そう思ったが結果は全く違い、なんと美魔女は興奮し始めたのだ。

 瞳をランランと輝かせては次の魔導具を催促してくる始末。

 その姿を見た俺は、自然と呟いていたらしい。


「どっかの誰かさんと同じだ……」



「ハクチュッ! ……??」


 キュロットはクシャミをした。

 何か違和感があったのか、困惑している様子。



 次に披露したのは、腕輪に付与されたストレージ。

 部屋の中で広い場所を借り、そこへグラスウルフを取り出した。

 するとあのヤバい男は臨戦態勢に入り、それを制止する美魔女に只々驚く受付職員。


(なんだ? このカオスは?)


 そう思いながらも3人を見て微笑ましく思う俺。

 すると、どうにか落ち着いたようで先へ進むことになるが……



「はぁ、はぁ、つ、次はなんだっ!?」


 美魔女は再び興奮し、次は次はと催促する。

 

 最後は指輪に付与されたオートガードを披露するつもりだ。

 本当はガードだけで良かったのだが、あの野郎を一泡吹かせたいと思い敢えてこちらに変更。

 美魔女には許可を得て、あの野郎に攻撃して貰うことになった。


「そこの人、俺に攻撃してみて下さい。まぁ無駄だとは思いますが」


 あの野郎は挑発に乗り、瞬時に俺を斬り刻みに掛かる。

 しかし、あの野郎の双剣による怒涛の20連撃でも自動障壁の前にはなす術も無かったようだ。

 要は全て障壁に防がれたわけである。


「……はぁ、はぁ、くそぅ……はぁ、はぁ……」


あの野郎は息を切らし、四つん這いの格好で悔しがっていた。

 一方、美魔女は声にならないほど興奮したらしい。


(興奮し過ぎてヨダレが出てる!?)


 結果的に商売の許可を得られ、あとは商人登録さえ完了すれば商人になれるそうだ。

 そして受付場所まで戻る手間を省くため、そのままこの部屋で商人登録をするらしい。

 一応、受付職員からランクなど諸々の説明もあるようだが、美魔女……ギルマスの特権で登録を優先してくれることになった。




「誰か! 誰か助けて! そんな、いやぁぁぁーっ!!」


 商人登録を済ませ、諸々の説明を聞こうとしたその時、助けを呼ぶ悲痛な叫び声が部屋の外から聞こえてきた。


 そしてその悲痛な叫び声は、俺達の頭から離れぬほどに響いていたのであった……

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