唯一無二のアーティファクター
るっち
第0章 前世
第0話 トラとウマ
「あ〜、今日が晴れで良かった〜」
空ではなく、スマホを見ながら俺は呟いた。
高校生活最後の日、つまり卒業式の今日は、2年間付き合っている愛しの彼女とのお祝いデートなのだ。
「今日はどこに行くんだろ? 楽しみだな〜」
逸る気持ちを抑えながら、彼女との待ち合わせの噴水公園へ。
「よし、まだ来てないようだな!」
どうやら彼女より先に着けたようだ。
そして彼女を待つことに……
「……ん?」
30分経っても彼女は来ない。
「……んん?」
1時間経っても彼女は来ない。
「……んんん? おかしい……もしかして、彼女の身に何かが起きたのか!?」
そう考えたら、居ても立っても居られなくなり、彼女へ電話をせねばと急いでスマホを手に取った。
「……!? なんだ!?」
彼女へ連絡をしようとしたその時、タイミング良く彼女からライムメッセージが。
慌てて内容を見てみると、そこには……(ごっめーん! 今日は急にバイトが入っちゃって会えそうにないや〜)と。
「マジかよ……」
1時間も待たされた挙句、ドタキャンされてしまう。
怒り・諦め・悲しみが複雑に混ざり合う。某少年雑誌の友情・努力・勝利とはド偉い違いだ。
「はぁ……帰るか……」
家に帰ろうと歩き出す。
歩きながら自宅の鍵を探すため、バッグの中を弄った。しかし、自宅の鍵が見当たらない。
「……!? う、嘘だろ!?」
どこで鍵を落としたのか検討もつかない。
無い頭をフル回転させて今日の出来事を必死に思い出そうとする。
「……!! あっ、思い出した!」
なんと、鍵は学校に置き忘れたのだ。
今日は卒業式なのに何故か荷物検査があり、その時に鍵を机の中に入れていたのを今更思い出す。
仕方ないと思いつつ、学校へ進路変更することにした。
「……はぁ、はぁ、着いた……はぁ、はぁ……」
息を切らしながらも学校へ到着して、息を整える間もなく教室へと向かう。
「……ん? 誰かいる……?」
教室の目の前まで来ると、中から男女の話し声が聞こえてくる。しかも女性の方はよく聞く声だった。
「今日は彼氏とデートじゃなかったっけ?」
「いいの。だってお金欲しいし、バイトも気持ちいいから」
「まさか彼氏も、彼女がこんなことしてるなんて思わないよな〜?」
「……いいから、早くキスしてよ!」
「はいはい」
そのあと、教室内から濡るようなが聞こえてきた。
気になったのでドアの隙間から中の様子を覗いてみる。
すると男女が深いキスをし、そしてキスのあとに魅せた、女性の恍惚とした表情だけがハッキリと目に映る。
「そ、そんな……許せない……」
あの光景を目の当たりにした俺は、怒りを原動力に教室のドアを全開まで開けた。
『!?』
中にいた男女は驚き、動きが止まる。
「……」
そして目撃してしまう。彼女が下着姿で机の上に脚を組みながら座り、見知らぬ男と再びキスをしているところを……
「……ねぇ、ナニしてるの?」
「こ、これはバイトよ! ライムで送ったでしょ?」
「コレがバイト? ふざけるな!」
「お金を貰ってシてるんだからバイトでしょ?」
「はぁー、最悪だ……」
俺達が口論をしている間に男は走って逃げ、そして教室には俺と彼女の2人だけ。
恐らく、彼女は今までもこんなことを続けていたのだろう。全く悪びれる様子は見られない。
「早く服を着なよ」
「え? シないの?」
「は? するわけないだろ? 見たあとだぞ!?」
「なら、それはナニ?」
彼女が指差した先には、俺のナニが膨らんでいた。
「説得力が無いんだけど?」
「こっ、コレは、違う……」
「ふーん、まぁいいや。その代わり、今まで通り彼氏でいてくれるよね?」
「何を言ってるんだ? 別れるに決まってるだろ!」
「は? なんでよ? イミフなんですけど?」
「はぁ、分からないなら尚更だよ……」
「やだ! 別れたくない! 私は大好きなの!!」
急に彼女は泣き出した。
そして、乞うように縋り出す。だけど、それでも俺は……
「……ごめん」
俺はその場から逃げるように教室から出た。
そしてひたすら走る。彼女の泣き顔が頭から離れないまま……
「俺も大好きだけど、とても耐えられないよ……」
とにかく走る、走る、走る、そして恥じる。
何故、両想いなのに許すことができないのか。
そんな自分を恥じ、そして泣きながら走り続けた。
「ここは……」
気がつくとそこは、彼女との待ち合わせにしていた噴水公園だった。
今にもつりそうな足を無理矢理動かして噴水の手前まで歩く。
「うぅ……なんで……なんで……」
そこでスマホの待受にした、彼女とのツーショット写真を見ては、再び泣いた。
「きっと、俺がダメな奴だから……だから、あんなことをしたのかよ……」
俺の中に巣食う自己否定が姿を現し、あの時の光景を思い出させる。
「うぅ、あの時の表情が、今も頭から離れない……く、苦しいよ……これが、トラ……ウマ……?」
今日の衝撃的な出来事は、トラウマとして俺の心に深く深く刻まれるのであった……
「あっ!?」
泣きじゃくるうちについ手を滑らし、噴水で溜まった水の中にスマホを落としてしまった。
「や、ヤバい、早く取らなきゃ!」
慌てて腕を水中に突っ込んだ。
すると丁度のタイミングで足をつり、そのまま水中へダイヴ。
あまり深くはないはずなのに、水中から抜け出すことができずにいた。
(く、苦しい……)
そして、そのまま意識を失うことに……
「……サキ……」
意識を失う瞬間に思い出した記憶は、ドアの隙間から覗いたときに魅せた、サキの恍惚とした表情であった……
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