第14話 初ダンジョンと円
「……はっ!?」
目が覚めると、知ってる白い天井だ……それはそうだ。何故なら昨日もこの部屋で寝たのだから。
恐らくは2人が来る筈なので、今の内に出発の準備をしておかねば。
「えっと、身の回りの整理整頓と装備品の点検、それから……食事だ!」
ダンジョン攻略が長丁場になると考えた俺は、急いで食堂へ向かった。
食堂に着くと、そこにはレイと桃髪碧眼の美しい女性が佇んでいる。
「おはようございます」
2人に挨拶をすると、レイが女性の紹介を始める。その女性こそが、レイの妻でありスズの母親でもあるベルであった。
「スズを救って下さり、ありがとうございました……」
ベルは礼を述べながら深々とお辞儀をする。
きっとベルも不安だったのだろう。
ベルはお辞儀をしながら涙を流し、レイはベルの背中にそっと手を触れていた。
「あぁ……いいなぁ……」
その光景を目の当たりにした俺は、貰い泣きを我慢しながらも夫婦っていいなぁと思い、自然と呟いていた……
その後2人には、これから3名でダンジョンに行く旨を伝え、同時に食事の手配もお願いしてみる。それを2人は快く引き受けてくれた。
料理が出来上がるまでの間、俺はレイと会話をすることに。
レイとの会話の主な内容だが、最近この辺りが物騒になってきた件と、あとはスズが天使過ぎる件であった。
最近の物騒な件とは、俺が宿に来る3日前頃から不審な輩が多くなってきたようだ。
未だ大事には至っていないが、何か事件が起こる前触れではないかと思われているらしい。
(一応、俺も用心しておこう……)
そして本命のスズが天使過ぎる件なのだが、今までに一度もイタズラや誘拐をされた事がないという事実が発覚し、俺は驚きを隠せなかった。
(寧ろ、そこいらの男どもは正気か?)
そう思う程なのだ。
それ程までに、スズが天使過ぎるという訳である。
「おまたせ〜」
厨房からベルの声が聞こえてくる。
レイとの会話が弾む中、ベルが料理を作り上げたようだ。
ベルが拵えた料理は3人前あり、有難く頂戴する事にした。
本当は俺の分だけで良かったのだが、きっと気を利かせてくれたのだろう。
「まぁ、もし2人が用意していたら、俺が3人前頂きますから安心して下さい!」
俺は2人の前でつい大口を叩いてしまう。
その後は2人に礼を述べ、笑顔で自室へ戻って行く。
自室へ戻ると部屋の前にはブリとブラが既に待っていた。
「どこに行ってたんだよ!」
突然怒り出すブリ。
「いや……ダンジョンに行くので、料理を作って貰ってました……」
申し訳無さそうにする俺。演技だけど。
「……マジで?」
「勿論、お二人の分もありますよ?」
「マジか! よっしゃー!」
「これで許して貰えますか?」
「あぁ! 許す許す! ヒャッハー!」
(ププッ、あんなに喜んじゃって……勝った!)
料理が用意されている事を無邪気に喜ぶブリを見た俺は、ニコニコと笑いながら勝ち誇っていた。
「……」
(はぁ、何やってんだか……)
ブラは俺達を見て呆れている様子。
そんな仕様もないやり取りをした後、ふと我に帰った俺達は漸くダンジョンへと向かい出した。
宿屋から出発した俺達は、そのまま西門から街を出て、そのまま真西へと歩を進める。
街から出てすぐは南側と変わらぬ平原に見えたが、少し先へ進むと草木が生い茂る草原に姿を変えた。
そこで警戒の為、俺はレーダーを発動する。
「……反応あり。どうやら50m程先に魔物が1匹だけいるようだな……」
草原を迂回せずそのまま反応地点へ突き進むと、10m先に生える草叢が急に揺れた。
(やっぱり、何かいるのか?)
念の為、俺は短杖を手にした。
ゆっくりと近付いて行くと、草叢から1匹の魔物が飛び出して来た。
(アレは……天道虫!?)
見た目は天道虫だが前世のソレよりもかなり大きい。およそ20cmはあるだろう。
背中にある赤色の甲殻には、無数の黒斑が見える。好奇心が湧いた俺は魔物をスキャンした。
(七十七星テントウ HP 10/10・MP 20/20)
(流石にHPやMPは77では無いか……)
俺がそんな事を考える間に、ブリがテントウに攻撃を仕掛けた。
しかし、テントウはビクともしない。
「コイツ! すっげぇ硬いぞ!」
どうやら低い生命力とは裏腹に、かなり頑丈のようだ。
続いてブラが4連撃を仕掛けた。
しかし、テントウは動じない。
「硬っ! 手が痛いし!」
2人の攻撃が通用しないとは……それでも俺は様子を見る事に。
すると、テントウが俺の方へ寄って来るではないか。
中々に可愛らしい顔をしていたので、俺は片膝を付いて右手をテントウの前に差し出した。
(シャァァー!)
テントウは大口を開けて襲い掛かりに来る。まるでプレ○ターの様な口の開き方だ。
俺は右手を引きはしたが、その場からは動かなかった。
(ギャッ!?)
テントウは何かに衝突した模様。そして俺の目前には障壁が出現している。
つまり、テントウは障壁に衝突したということだ。
「よし、作戦通りだ!」
実は、宿の自室で装備品の点検中にオートガードを発動しておいたのだ。フッフッフッ……
障壁に衝突したテントウは引っ繰り返り、瀕死の状態となった。
トドメは俺……ではなく、ブリがトドメを刺した。文字通りに大剣を刺したのである。
その後、思い出すように2人は驚き出した。
きっとオートガードに驚いたのだろう。俺はドヤ顔でテントウをストレージへ収納した。
「さぁ、先に進みましょう!」
何食わぬ顔で俺は歩き出す。
何か言いたげな2人だったが、無言のまま付いて来た。
暫く歩いたが、アレ以降は魔物に遭遇をしていない。
すると、ブリから報告があった。どうやらもう少しでダンジョンに着くようだ。
道中に魔物の素材を入手出来なかったのは残念だが、ダンジョンの為に体力を温存していたと思う事にしたらなんだか気が楽になった。
「凄い、ここが……」
とうとう初のダンジョンに到着。
このダンジョンの名称は「
呪樹とは文字通りに呪いの樹木という意味であって、決して女性歌手とは無関係だ。早まるな。
俺達は警戒をしながらダンジョンの中へ足を踏み入れた。
(想像以上に暗いな……)
ダンジョンの中はやはり暗い。
ブラが松明を灯そうとしていたので、俺はブラを止める。
代わりに左手の人差し指に指輪を嵌め、魔法を唱えた。
「発光!」
すると、俺の目の前に光の玉が出現。
その光の玉は優しい光を放っており、全く眩しくない。
光の玉を操作し、前方を照らすようにしながら先へ進み始める。
「待て、俺が前を歩く!」
宣言通り、ブリが警戒をしながら先頭を歩き、後方にいるブラと俺は情報共有の為に会話をした。
そのブラからの情報なのだが、このダンジョンは地下3階までととても浅いがその分とても広いらしく、今いる地下1階は「根のエリア」と呼ばれているそうだ。
確かに壁や地面には巨根が這っており、完全に悪路と化していて歩き辛い。
「ここがこうなってて……あん? こっちか?」
ブリは手書きの地図を見ながら先頭を歩いている。
これは危険だと思った俺は、一旦2人を引き留めた。
ブリは不機嫌そうにしていたが、ブラはそうでも無いようだ。
このままの状態で進むのは危険だと2人には説明し、魔導具を制作する時間を貰う。2人は頷き、各自警戒を厳しくした。
「よし、やるか!」
早速、俺は魔導具制作に取り掛かる。
先ずは白色の牙1本と少量の銀をストレージから取り出し、牙の形状を維持したまま、銀のチェーンピアスに加工した。
「2つ……これは便利だな」
牙の部分と銀の部分の計2箇所に付与が可能なようだ。
先に牙の部分には「オートマッピング」の創造魔法を付与し、次に銀の部分には「罠察知」の創造魔法を付与したのである。
「くそっ、ダメか……でも……」
実を言うと、牙には「ナビゲーション」の創造魔法を付与したかったのだが付与容量が足りず、また銀の方も「罠探知」若くは「罠感知」の創造魔法を付与したかったのだが、どちらも付与容量が足りなかったので断念したのだ。
思い通りに行かずとても悔しいが、良い勉強になったと考えこれからに活かすと決心。
兎にも角にも魔導具が完成し、俺はこの魔導具を「サークルピアス」と命名した。
理由として、使用者を中心にオートマッピングと罠察知が「円」のように展開されるからだ。
命名も済んだので、警戒中の2人を呼び戻す。
俺の裁量でサークルピアスはブラに着けて貰うことに決定。
ブラは喜んでいたが、ブリは又もや不機嫌そうにしている。
仕方無しに後々ブリにも魔導具を1つプレゼントするハメに……はぁ……
「なんで男にプレゼントを……はぁ……」
俺は2度の溜め息をしつつ、2人と共に先へ進むのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます