第15話 恐怖と絶望


「えっ!? 何コレ!?」


 ブラは早速、オートマッピングと罠察知を発動したようだ。

 すると1人で驚くブラ。それを見てニヤつく俺。

 ブラの脳内には自分を中心にマップと罠の箇所が反映されているハズ。

 これで毎回手書きでマップや罠を書いたり、ソレを見ながら進む必要が無くなるのだ。


 今まではブリが先頭を歩いていたが、今回からはブラが先頭を歩くことに。


「やりぃー!」


「嘘だろ!?」


 どうやらブラは乗り気みたいで、逆にブリはショックを受けたようだな。


 ブラが先頭を歩いてからは進むペースが格段に上がった。すると、急にブラが立ち止まる。


「ちょっと待った! これって……罠?」


 ブラの話だと近くに罠があるらしい。

 道の中央に罠が1箇所あるようなので、道の右端に沿って歩くことに。


「コレ、ほんと便利ね!」


 見事に罠を回避出来たようだ。



 罠のあった場所から少し進むと、二股の分かれ道に行き当たる。

 聞きたくない単語が2つもあるではないか。


(二股とわかれ……失恋を連想させる2大ワードだよな……)


 そんな仕様も無いことを考えていると、右側の道の奥から何かが這って来るような音が聞こえてくる。

 俺達は警戒を強め、襲撃に備えるのだった。



「一体、なんの音だ……?」


 ブリは俺達に聞こえる程の声で呟いた。

 何かが這う音が段々と近付いて来る。

 俺達の緊張と警戒は強まるばかりだ。

 すると、急に這う音が早まり出す。


「そろそろ見えてきそうね」


 ブラは冷静に話し、俺達は無言で頷く。

 そこで万が一を考え、俺はレーダーを発動した。



「……!」


 レーダーに反応あり。それも1つではなく、3つもだ。

 どうやら3体ともこちらに向かって来ている様子。


「魔物は1体だけじゃない! 3体だ!」


『!? ……』


 咄嗟に2人へ伝えると、2人は一瞬驚いたがすぐに持ち直した。


 魔物達の姿が見えてきた。一見すると蔦のように見える。

 しかし、アレが本体では無いだろうから倒すのに手間取りそうだ。



「……!! よし、アレを試してみるか!」


 俺はある策を閃く。

 少し間合いを取るよう2人に指示し、追加でブラには魔法を使うよう頼んだ。


「OK! ぶっ放してやるわ!」


 ブラは後方へ跳びながら、火箭を発動した。


「火箭!」


 炎で象られた矢が1つ、2つ、3つ……と急速に増えていく。


「行っけぇー!」


 ブラは勢い良く火箭を発射。

 計24本の火箭は、蔦を操る3体の魔物へ目掛けて一直線に飛んで行く。

 そして全ての魔物へ刺さると次々に燃え盛り、魔物達は苦しみ出す。

 すると、あっという間に魔物達は丸焦げとなり、次第に動かなくなった。


「すっ、凄い……」


 驚愕するブリとブラ。


「すっ……凄すぎる……」


 2人以上に驚愕する俺。

 3体の魔物に生えた蔦や葉は燃え果て、本体を露わにする。

 燃やせるものが無くなったのか、炎は自然と消えた。


「多少焦げてはいるけど、なんとか見えるな」


 その姿を見て俺は呟いた。

 魔物の本体は巨大なマリモのような姿で、色は元々黒いのだろう。焦げ目との境が曖昧だ。


 何故か無性に名前が気になったので、1体だけスキャンしてみることに。


(ズーモ HP 0/1500・MP 800/800)


(ズーモ……ス○モみたいだな……)


 そんな事を考えながらも3体のズーモをストレージへ収納し、俺達はズーモ達が来た道を進む事にした。



「それにしても、さっきの火魔法は凄かったな! 俺も早くぶっ放したいぜ!」


 ブラの火箭を見て、ブリも燐火を使いたくなったようである。


(ブリの言う通り、確かに火箭は凄かったな……)


 俺の私見だが、例えロケット花火が100本あってもあそこまでの迫力は到底出せないだろう。

 あとスキャンして分かったのだが、本体ならもっと苦戦する魔物だった筈だ。

 やはり神様から貰ったこのスキルはチート級だという事なのだろう。



 その後も魔導具の構想や商売の不安などを考えながら歩を進めていると、発動したままのレーダーに反応が。


「この先1000m程で多数の反応があります。しかもその内の4つは……人間!?」


 明らかに異なる生命反応が4つ見受けられた。

 この反応はブリやブラの反応と酷似しているので、先ず間違いは無いだろう。

 俺達は反応地点へ急いで駆け出した。まるで、疾駆する駿馬のように……





「……これはもう、無理なんじゃ……」


 どうする事も出来ず、嘆く弓士の男。

 

「もうお終いだわ……まだ、彼氏が出来た事すら無いのに……」


 絶望する魔導士の女。


「嗚呼、シャーペンノしんよ……どうか私達をお救い下さい……」


 変わった名の神に祈る神官の女。


「まだだ! まだ諦めるには早いぞ!」


 3人を鼓舞する槍士の男。


 今4人の周囲には、およそ50匹はいるだろう魔物達が4人を捕食する為に群がっていた。

 最早、4人が襲われるのも時間の問題だろう……





「まだ4人の所へは着かないのか!?」


 ブリが焦りながら俺に問い掛けた。


「……まだですね……あと、600mはあります」


 冷静に返答する俺。しかし、心の中では相当焦っていたのである。


「大丈夫! 骨は拾ってあげるわ!」


 勝手に間に合わなかった事にするブラ。

 今はツッコミを入れる余裕は無い。とにかく俺達は、4人の元へ全速力で駆けて行くしかない。


 

 残り300m程になると、チューリップ型の魔物達をチラホラ見掛けるようになる。

 俺達は駆け抜けながら魔物達を駆逐していく。勿論、俺もビームを連射し駆逐に貢献した。


「なんだソレ!? メチャクチャ格好良いな!」


 俺の放つビームにブリは喜び燥いでいた。


「でしょ? やっぱりビームは男のロマンですよ!」


 MY持論が証明され、俺まで喜び燥ぐ。


「……」

(2人が燥ぐ理由が分からないわ……)


 ブラは無言で俺達の会話を聞いていた。


 先程までの張り詰めた空気が、ブリの一言によって程良く緩和されたらしい。


 余談にはなるが、本当は駆逐した全ての魔物をストレージへ収納したかった。

 しかし、今はそれどころでは無いので惜しくも諦めたのである。


「あぁ、勿体無い……」


 惜しみながらも俺はレーダーを確認した。



「あの4人までの距離は……うん、100mを切ってるな……ん? んんっ!?」


 途中、レーダーにおかしな反応が見受けられた為、思わず2度見してしまう俺。


「な、なんだコレ!? レーダーの反応が、4人と魔物で重なり合っている!?」


 とうとう魔物達が4人に襲い掛かったようだ。

 俺達は息を切らしながらも駆け続ける。


「あともう少しだから、それまで粘ってくれ!」


 2人には聞こえない程の声で、俺は強く祈りながら呟いた。





「そんな……嘘だろ……」


 弓士の男は茫然とする。


「あぁぁっ……イヤッ、イヤッ、イヤッ……」


 魔導士の女は錯乱している。


「お、お願いです! 神様! 私はまだ死にたくなんかありませんっ!」


 神官の女は神に命乞いをする。

 しかし、奇跡は起こらなかった。


 この中に、槍士の男の姿は見当たらない。あるのは槍士の男が持っていた槍だけだ。

 そう、あの時3人が見た光景は、魔物が槍士の男を丸呑みにした瞬間なのである。


 そして、魔物に対する恐怖と絶望により身体が動かず、3人は只々死を待つだけであった……

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