第10話 迷い人と凪


「……ココ、どこ?」


 どうやら俺は道に迷ったみたいである。

 適当に歩いて宿屋を探していたらこのザマだ。

 何やら不気味な場所に迷い込んでしまった……


「なんだ……この場所は……?」


 辺りを見渡しながら歩いていると、路上の端で寝転ぶ爺さんや、簡素な作りの露店を開く怪しげな露店商、終いには路地裏から誘ってくる女性までもがよく目に付く。

 一瞬、路地裏にお呼ばれしようかとも思ったが、気を強く持ちどうにか堪えた。



「……なっ!?」


 暫く歩を進めると、路上の端に1人の少女が倒れている。俺は急いで少女の元へと駆け付けた。


 少女の元へ到着すると、すぐに顔色を覗く。

 桃色で腰まである長く綺麗な髪をした12、13才位の美少女だが、顔色が悪くとても苦しそうだ。

  慌てながらも少女へ声を掛けた。


「だっ、大丈夫!?」


 少女からの返答は無い。

 尚も苦しむ少女の状態が気になる為、早急に少女をスキャンした。


(スズ HP 8/20・MP 5200/4000)


「えっ!? なんだこれ!?」


 少女のステータスを見て思わず驚いてしまった。

 最大魔力量より現存魔力量の方が多くなっており、それは本来ならあり得ない事なのである。

 緊急性を感じ取り原因を確かめる為、詳細を見るべく強く念じた。


(スズ 魔力過多症 魔力発作)


「魔力過多症に魔力発作……」


 恐らく、少女……スズは体内にある魔力が多すぎて魔力の制御が出来ていないのだろう。

 その様な状態が続いた為、魔力発作を併発したと思われる。


(魔力発作が長引くと、生命力が削られるのか?)


 スズの生命力回復を願い、俺は再生を発動した。


「再生!」


 スズの身体を白く淡い光が包む。

 するとスズの顔色は良くなり、穏やかな表情へと変わってゆく。

 容態確認の為、再びスズをスキャンした。


(スズ HP 20/20・MP 5200/4000)


(スズ 魔力過多症 健康)


(やっぱり完全には治せないのか……何か対策を考えなきゃ……)


 取り敢えずは家に送り届けよう。しかし、住居が分からない。

 途方に暮れていた俺に、背後から誰かが近付いて来た。


「よぅ兄ちゃん、どうしたんだ?」


 先刻見掛けたあの、路上の端で寝転んでいた爺さんだった。

 見た目は白髪碧眼で、まるでサンタクロースのような白髭まで生やしている。

 俺は警戒しつつもスズが倒れていた事を話し、住居の所在を聞いてみた。

 すると、爺さんは指を差しながらこう言った。


「あ〜、あそこの宿屋の子だよ」


 爺さんが指差した方向を見ると、見た目はかなり古いが確かに宿屋がある。

 俺は爺さんにお辞儀をし、スズを抱き上げてその宿屋に向かった。

 その時、後方から妙な視線を感じたが、今はそれどころではないので無視をした。


(そういえば、サキにもお姫様抱っこをした事があったなぁ……んん?)


 やはり全く思い出せない。

 分かる事といえば、サキという名の女性が俺にとって特別な存在だったのでは? という疑問だけである。



 疑問を抱えながらも宿屋へ到着。

 およそ50mは歩いただろうか。俺はそのまま宿屋に足を踏み入れた。

 

「おぅ、いらっしゃい」


 宿屋の店主だろう男性が店の奥からやってきた。

 俺が抱えているスズの姿を見ると、男性はすぐさま目の前まで駆けて来た。


「スズ! 大丈夫か!?」


 スズを心配するその姿は、父親以外の何者でも無い。

 そのままスズの寝所まで案内して貰い、俺はベッドの上にスズを寝かせた。

 その後はスズの父親に事の経緯を話し、今の現状と何か対策は有るのかを聞いてみた。すると……


「スズを助けてくれて、ありがとう……」


 スズの父親から礼と感謝をされ、その後に現状や対策を教えて貰うことに。

 スズがこの病気を発症したのは約2年前で、普段は薬で病気を抑えているそうだ。

 スズは現在12才だが、15歳の成人に成れば病気も落ち着くらしい。

 なので、15歳までは今まで通り薬で抑え続ける予定とのことだ。


 しかし、最近は病気の抑制があまり効かず、発作の頻度も多くなったという。

 今回も、本来なら後2時間程度は薬の効果がある筈だったのだが……


「ゔっ!?」


 もし俺が見付ける事が出来なかったらと想像するだけで、背筋も凍る思いだった。


 魔力過多症の原因は、体内にある魔力の制御が出来ずに溢れてしまう事が原因なのである。

 そこで俺は、何か出来ないものかと考えた。



「……そうだ!」


 俺は閃いた。

 自動で魔力制御を可能にする魔導具を作製すれば良いのだと。

 その発想を思い付いてからは早かった。

 スズの父親には事情を説明し、寝所から出て貰うことに。

 先ずは神様から頂いたミスリルをストレージから出し、肌身離さぬようネックレス型のアイテムにミスリルを加工する。

 次に創造魔法で魔力を制御する「マジコン」をネックレスに付与すれば……


「よし! 完成だ!」


 俺はこのネックレスの名称を「凪の首飾り」と命名した。

 スズが穏やかに過ごせますようにとの願いを込めて命名したのだ。

 あとは創造した通りの効果があるかが心配だ。


(上手く出来ていれば良いが……)


 俺は凪の首飾りをスキャンした。


(凪の首飾り 星3 ミスリル製のネックレス マジコン・リジェネ)


「よっしゃー!」


 魔法付与も完璧な事が判明し、俺はガッツポーズをしながら歓喜した。

 追加でオリジナルの自然治癒魔法「リジェネ」も付与してあるので、万が一怪我をしても大丈夫だろう。

 その後はスズに首飾りを着け、その状態でスキャンを実施。


(スズ HP 20/20・MP 4000/4000)


(スズ 魔力過多症・抑制中 健康)


(良かった、どうやら上手く行ったようだ……)


 急に安堵感が来たようでチカラが抜けていく。

 そして俺の歓喜の声を聞き付けたのか、スズの父親が慌てながら寝所へ入室。

 俺はスズの父親に向け無言で親指を立てる。

 すると、スズの父親はその場に崩れ泣き出した。

 それはそうだろう。最近のスズはかなり危険な状態だったのだから。

 しかし、まだ油断は禁物だ。出来れば経過観察をしたいところだが……


 そんな時、スズの父親……いや、レイが何か礼をしたいと言い出したのだ。決してダジャレじゃないぞ。

 因みに、名前は先程レイから教えて貰っていたのだ。

 奥さんの名前はベルというらしく、この一家とは何故か縁のような絆を感じる。


 話を戻すが、レイからの礼は宿屋に半額で泊まれる事に決定した。

 レイからはタダで良いと言われたが、タダより怖いモノは無い。

 なので、通常の半額で宿泊が出来るという条件にしたのだ。

 これで毎日スズの様子が見れる。まさに、一石二鳥である。


 早速レイに部屋を案内して貰い、少し仮眠を取ることに。

 昨晩はすし詰め状態での就寝だったので、実は身体の調子がイマイチだったのだ。

 自分に再生を使えば良いのだろうが、あれは魔力の消費が半端ないので出来れば温存しておきたい。


 そして俺は部屋に入るなりベッドにダイヴし、大の字になってそのまま本気寝を。


「今日は良い日だ……スゥ……」


 今日は思わぬ形で宿を見付けられた上に、異世界へ来て初の魔導具を作った充足感で、とても気持ち良く眠る事が出来たのであった……

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