貧乏アリスの不思議な魔法 ~父は裏切り母は過労で倒れ、貴族界を追放された私は家族を守るため、忘れられた大賢者様の弟子になりました。想像を現実に変える魔術で全ての理不尽を打倒します~

日之影ソラ

1.没落貴族の令嬢

 穏やかな朝。

 日差しの眩しさで目が覚めたけど、ほんのり暖かな陽気に包まれていて、身体は起きたくないと言っている。

 チラッと時計を見たら、まだ朝の七時だった。


「ふぅわ~」


 まだ眠いけど、私はベッドから起きて大きく背伸びをする。

 ベッドの横にある机の上には、これから着替える服が用意されていた。

 寝ぼけている身体を起こすためにも、ちゃんとした服に着替えた方がいい。

 私は寝間着を脱いで、用意された服に着替えた。

 鏡を見ながら身なりを整える。

 お母様と同じ薄黄色の髪と青い瞳は、私の自慢だったりする。

 

「よし。二人ともまだ寝てるかな?」


 頭に思い浮かんだのは、すやすや寝ている可愛い寝顔だった。

 私はくすりと笑い、部屋を出て二人の元へ向かう。

 大きく広い廊下を歩いているのは私一人。

 朝早いからでなくて、いつものこと。

 それから、二人の寝室の前までたどり着き、トントンとノックする。


「ライカ! レナ! 入るよー」


 ドン、トントントン――

 飛び降りたような音がした後、小さな二つの足音が聞こえてくる。

 そのままバタンと勢いよく扉が開いて、二人が私に跳びかかってきた。


「うわっ!」

「姉ちゃんおはよー!」

「おはよう! アリスお姉ちゃん!」

「びっくりした~ 二人とも急に出てこないでよぉ」


 私が驚いた様子を見せると、二人ともニカッと笑顔見せる。


「姉ちゃんビックリしたって! 大成功だなレナ!」

「うん! 大成功だねライカ!」


 やれやれ。

 二人とも朝から元気いっぱいみたいだ。

 私の五つ離れた弟と妹。

 二人は双子で、男の子のほうはライカ、女の子はレナ。

 タンポポみたいな黄色い髪と目は一緒で、分け目が逆という以外は見分けがつかない程そっくり。

 性別も同じだったら、お姉ちゃんの私でも間違えてしまうかもしれない。


「二人ともまだ寝間着じゃない。早く着替えて」

「「はーい!」」


 二人はいそいそと部屋に戻っていく。

 私も一緒に部屋に入って、二人の着替えを手伝ってあげた。

 二人ともしっかりしているけど、まだ五歳なんだ。

 出来ないことは、お姉ちゃんの私が手伝ってあげている。


「着替えたよ姉ちゃん!」

「ライカそれ反対だよー」

「ん? あ、ホントだ~ レナもボタン外れてるー」

「レナは今から付けるの!」


 ワイワイ言いながら着替え終わる。


「お姉ちゃん今日は何して遊ぶ?」

「まだよレナ。その前に、お母様に朝のご挨拶をしないと」

「そうだったー」

「じゃあ行きましょう」

「「はーい!」」


 私の右手にライカが、左手にレナが掴まって部屋を出る。

 誰もいない廊下を話しながら歩いて、一番奥の大きな扉の前で立ち止まる。

 

 トントンン。


 ドアをノックすると、中から透き通るような綺麗な声が返ってくる。


「どうぞ」

「失礼します」


 その声を聞いてから、私はドアをよいっしょと開けた。

 扉を開けた先は、大きくて立派な机がある。

 机に向ってお仕事をしていたお母様が、私たちを見てニコリと笑う。


「おはようございます。お母様」

「「おはようございます!」」

「ええ、おはよう。三人とも早起きで立派ね」


 この人が私たちのお母様。

 クレイスター家現当主、フレア・クレイスター。

 見た目通り優しくて、とっても綺麗な人。


 ライカがお母様に言う。


「お母様は今日もお仕事なの?」

「ええ」

「えぇ~ レナ、お母様とも遊びたいよぉ」

「ごめんなさい。お仕事が終わったら行くから、それまでお姉ちゃんが遊んでくれるわ。お姉ちゃんと遊ぶのは好きでしょ?」

「うん! 大好きだよ!」


 レナは元気よくそう言ってくれた。

 私は嬉しくて、ついついニコニコしてしまう。

 

「でもお母さんとも遊びたいよー」

「私もよ、ライカ。頑張って早く仕事を終わらせるわ。終わったらすぐ行くから」

「本当? じゃあ待ってるね!」

「ええ」

「やったー! レナ遊びに行こう!」

「あ、待ってよライカ!」


 はしゃぎながらライカが駆け出して、レナもそれについて行ってしまった。

 私は慌てて二人を追いかけようとする。


「二人とも待って」

「アリス」


 すると、後ろからお母様が私の名前を呼んでくれた。

 私はドアに手をかけたまま振り返る。


「いつもありがとう、二人の相手をしてくれて。お陰でお仕事も捗るわ」


 お母様はそう言って微笑みかけてくれた。

 ちょっぴり申し訳なさそうな感じがして、切なげな笑顔だった。

 きっと、二人の相手をしてあげられないことを後ろめたく思っているのだと思う。

 幼い私は何となく、直感的にお母様が悲しんでいるように見えて、思わず言う。


「ライカとレナのことは私に任せて! 私はお姉ちゃんだから!」

「アリス……そうね。任せるわ」

「はい!」

 

 私は大きく返事をして、扉から部屋の外へ出る。

 閉まる扉の隙間から見えたお母様は、真剣な顔で机に向っていた。

 お母様は毎日、お仕事で頑張っている。

 だから私も、お姉ちゃんとして頑張ろうと思った。

 お母様が少しでもお仕事に集中できるように、二人のことは私がしっかり見ておかなきゃ、と。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


新作ファンタジーになります!

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