13.チーム戦開幕

「アリスの弁当……豪華だな~」

「え、そうですか?」

「普通にオレより多いだろ。そんな食えるのか?」

「はい。食べられますよ」


 木陰の下。

 私は二人と一緒に昼食をとる。

 

「美味しそうですね。誰に作ってもらったんです?」

「自分で作りました」

「自分で? アリスさんって料理が出来るんですか?」

「はい。お母さんが忙しくて、使用人もいなかったから自分で作れるように練習したんです」


 二人には、私の家のことを話した。

 お父さんのこと、お母さんのこと、ライカとレナのこと。

 どうして魔術師を目指しているのかも一緒に話して、二人はちゃんと聞いてくれた。


「すっげーな~ 料理なんてしたことないぞ」

「私も全然ですよ」

「イリーナは無理だろ。ガサツだし」

「それライルだけには言われたくないよ」


 二人との会話は楽しい。

 軽快なやり取りに思わず笑ってしまったりして。

 生まれて初めて、同年代で楽しくお話しできる相手を見つけられた。

 お友達と呼んでいいのかわからないけど、そうであってほしい。


「ライル君、イリーナさん、改めてありがとうございます。私に声をかけてくれて」

「別に良いって。オレたちも探してたし」

「そうですよ。それに同い年だし、敬語もやめませんか?」

「……良いんですか?」

 

 イリーナが笑顔で答える。


「もちろん。というより私がそのほうが助かると言いますか。敬語って苦手で」

「ガサツだからな」

「だーかーら! ライルにだけは言われたくない!」


 イリーナはライルの肩をポカポカ叩く。

 見ているだけ面白くて、一緒にいると温かな気持ちになる。

 そんな二人の関係は、ちょっぴり羨ましい。


「ふふっ、わかりました。あ、でも私いきなり砕けた話し方は難しいので、その……ゆっくり」

「おう!」

「もちろん。自分のペースで大丈夫」

「ありがとうございます」


 ホッとして、感謝を口にした。

 同い年の友人がいなかったから、距離感がイマイチわからない。

 せっかく仲良くなれそうだし、嫌われないように注意しよう。

 そんなことを考えながら昼食を終え、改まって実技試験について話し合いをした。

 各々の術式と特徴、戦術を考える。

 即興のチームだから、そこまで凝ったことは出来ないけど、出来る限りの準備をしておきたい。

 

 そうして時間は過ぎて――


 二次試験開始時刻になる。

 会場は学園内にある疑似屋外訓練場。

 室内の一室にあり、特殊な魔導具によって広い空間を構築している。

 本来の部屋の奥行は無関係に、受験者全員が自由に動き回れる大自然が生成されていた。


「すっげぇな……これ全部作り物なんだろ?」

「そうだけど、感心してる暇はないよ。ほら集中!」

「わかってるって。アリスも準備良いか?」

「う、うん」


 私の頭上には球体が浮かんでいる。

 つまり、このチームのリーダーは私になった。

 球体を割られたら終わりのルールだ。

 嫌でも緊張してしまう。


「緊張してるな」

「深呼吸しよ! 大丈夫、私たちも頑張るから!」

「うん」


 大丈夫、きっと勝てる。

 私は私に言い聞かせる。

 今日まで努力してきて、手応えもある。

 何よりも、私は誰の弟子なのかを思い出せ。


「頑張ります」


 先生の名に恥じないように。


 一分後。

 試験開始の合図が鳴り響く。

 高く澄んだ鐘の音が聞こえて、周囲の気配が一斉に動き出す。


「始まったぜ!」

「作戦通りに行こう!」

「うん!」


  ◇◇◇


 開始直後から次々に戦いが起こる。

 一定するまでチームが減れば終了の条件。

 場合によっては戦いを避け、最後まで逃げ切ることも戦術。

 しかし結局はチームが減らなくては終わらない。

 必然的に戦いは起こり、避けられない。


「おい見ろ。あそこに一チームいるぞ」


 森の中、茂みに隠れる三人が見つけたのはアリスたちだった。

 アリスたちは別チームと交戦した後で、球体を持つリーダー以外が負傷している。


「ねらい目だな」

「ああ。奇襲をかけよう」

「了解だ」


 弱っているチームを狙う。

 乱戦で不意を突く。

 過酷な魔術師の世界を生き抜くのに、卑怯などとは言っていられない。

 故に迷いなく、三人はアリスたちに襲い掛かる。


「二人とも後ろ!」

「ちっ!」


 イリーナが感知し、ライルの大きな舌打ちが響く。

 反応したがすでに手遅れ。

 一斉に背後から強襲され、三人とも気絶してしまう。

 

「はっ! 呆気なかったな」


 男の一人が浮かぶ球体に手を伸ばす。

 破壊しようと触れた瞬間、球体が木の根に変化する。


「なっ!」


 咄嗟に話そうとした手に巻き付き、全身をグルグル巻きにして動きを封じる。

 後退しようとした二人の脚にも根が絡まる。

 気付けば倒れていたアリスたちが消え、代わりに太い木の根が地面を這っていた。


「な、何だよこれ!」

「罠か? いやでも、さっきまで確かに……」

「ほらよっと!」


 暴れる三人の背後からライルが飛び出し、浮かんでいた球体を殴り壊した。


「悪いなあんたら。オレたちの勝ちだ」

「そ、そんな……」


 ガクッと力なく倒れる三人。

 そんな彼らを背に、ライルはアリスに親指をたてる。


「完璧だったぜ!」

「うん!」

 

 

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