第二章 親愛なるルルイエへ

「僕が彼を殺した証拠はあるのかね?」


「それは……。と、とにかく! 僕が犯人じゃないのは僕が一番よくわかっている!」


「お話になりませんね」


 二階では駒場さんと坊山さんが言葉の槍を投げ合っていた。


 坊山さんは昨日までの穏やかな表情が一変、殺気立っている。目をカッと見開き、首を振る駒場さんを睨んでいる。駒場さんはトレードマークの紳士ハットを被っている。


「はいはい。喧嘩なら外でどうぞ」


 皮肉を込めた雛田さんの一言で、坊山さんは言葉を吞みこむ。


「ちっくしょう、なんだってこんな目に!」


 頭を掻きむしりながらベンチにドカッと腰を下ろす。隣に座っていた大塚さんが少し距離を取って座り直した。


「レイン、さっきの宿題の答え、聞いてもいいかい?」


 一通り俺が話し終わるまで、上野原はただ黙って聞いていた。


「つまり犯人はクトゥルフ信者で、猟犬を顕現させた挙句、生贄を捧げるつもりだと?」


 小さくニヤッと笑い、


「君にしては上出来だ――みなさん、少しいいですか?」


 続けざまに上野原は昨夜の行動について全員から話を聞いた。


 夕食が終わったのが二十二時頃。坊山さん、駒場さんはすぐに部屋で休んだとのこと。その際、部屋へ入る松垣さんを坊山さんが目撃したらしい。従者二人と大塚さんは片付けをしてすぐに部屋へ戻り、朝まで誰も部屋から出なかったという。


「呑気に探偵ごっこかよ」


 坊山さんは小さく独り言を漏らし、右手甲のホクロを弄っている。


 当の本人はまるで気にする素振りを見せない。


「レイン、いいかい? 現場をもう少し調べたいんだ」

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