遅れてやってきた坊山さんと駒場さんとすれ違い、


「少ししたら二階へ集まって下さい。一連の事件の真相を暴きますので」


 短く上野原はそう言って、一足早く二階へ向かった。


「レイン、犯人を特定したよ」


 唐突に飛んできた言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。


「今、全員とすれ違って確信したよ。わかるかい?」


「は?」


 わかるわけがない。


「では宿題だ。解答を楽しみにしているよ」


 化物が顕現し、二人も殺され、館に閉じ込められているというのに、こいつはサークルでいつものTRPGをプレイしている時のような澄んだ表情をしている。


「はいはい」


 上野原には悪いが、今回は白紙で提出するつもりだ。


 奴の解答を直接書き込んでやる。カンニング上等だ。


 しばらくして二階に全員が集まった。


 昼食どころではなくなったので、残ったスープや唐揚げは既に冷めてしまった。ベンチでは未だショックから立ち直れない那須井さんに大塚さんが寄り添っている。彼女によると厨房の片づけは一通り済み、猟犬顕現のキーである麦茶も出来る限り雑巾に吸わせ、ピッチャーに戻してくれたとのこと。


 フロア中央に展示された【死霊秘法ネクロノミコン】のレプリカの横に上野原が立ち、俺はその近くで待機する。奴の正面壁際の資料の前に坊山さんと駒場さんが立っている。


「真相を暴いてくれるそうだね?」


 口火を切ったのは駒場さん。相変わらず紳士ハットを被り、頬の小さなカサブタを指で弄る。


「一体、誰が犯人なんだ?」


 急くような口調で坊山さんが続く。髪を搔きむしり、一刻も早くここから出たいと顔に書いてある。


「そうですね、長く話すのはあまり得意じゃないので単刀直入に言うことにします」


 どの口が言うか、と思ったが堪える。


「犯人は――あなたです」


 上野原の指先が、真っ直ぐと駒場さんに向けられる。


「失礼しました。正確にと言ったのだから、もっとさせましょうか?」


 一瞬の間を置き、上野原は続ける。


「犯人は――駒場さんの顔に擬態したです。そうですよね? 【深きものども】の駒場さん?」


 奴の言葉を理解するのに一分近くかかった。

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