⑨
部屋に手荷物などを置き、早速館の中を見て回ることにする。
ちなみに部屋も当然、丸形でドーム状だった。備え付けられたベッドが壁に沿うように湾曲していて、窓がなく圧迫感を感じるが致し方ない。ベッドの他には小さな机とイスがあるのみで、テレビや冷蔵庫もない。部屋というより、ベッドを置いただけの倉庫といった印象だ。
図では隣の上野原の部屋と壁がくっついているが、部屋の中から行き来は出来ない。壁を触ったりしたが、隠し扉の類は発見できなかった。
「うおっ! 見ろよレイン」
バタバタしてろくに見学できなかった二階に入る。
「すごい……これ有名な本だよね?」
大塚さんがフロア中央に展示された数枚のボロボロの紙片を眺めている。
「【
この書はクトゥルフ神話における最重要の書物の一つにして、禁断の魔術書である。世界の主要な図書館に所蔵されているがどれも一部の章が欠けていて、完本は存在しないとされている。
展示された紙片にはラテン語らしき文字が書かれているが、生憎ラテン語の知識はゼロなので読むことが出来ない。
今までは作中作として見ていたが、【ティンダロスの猟犬】が顕現した今、この書物の邪悪な力が働いているのではと感じ、寒気を覚える。
「それはないよ、レイン」
きっぱりと上野原が言い放つ。
「この書は
前者は太古の地球に飛来したものたちで、代表格に【大いなるクトゥルフ】がいる。
後者は全宇宙を支配する超自然的存在で【アザトース】が王として君臨している。
フロアには他に【ルルイエ異本】や【ナコト写本】などいずれも貴重な書物のレプリカの一部が展示してある。
一通り見た後、休憩スペースのベンチに腰を下ろす。
「奴ら、走って撒けないかな」
ベンチ近くの窓から薄暗い外を見渡していると、猟犬の唸り声がした。未だに周辺をうろついているみたいだ。
「無理だろうね」
「うちら、ずっとこのままなの?」
不安そうな大塚さんに声をかけてあげたいが、無責任な言葉しか浮かばない。
そのうち諦めるだろう……それを今は待つしかない。
しばしの休憩の後、館を散策した結果、どこにもカドらしき箇所は見当たらなかった。
荷物検査の結果と合わせ、館内部に顕現する可能性はひとまず棄却できた。
その後、従者二人が丁寧にも夕飯を用意してくれたので、三階に向かうことにした。
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