上野原の説明を信じられないのは俺も同感だ。


 しかし五感は悲痛な叫びをあげている。紛れもなく現実だと必死で訴えている。異次元の犬が顕現したなどクトゥルフマニアが冗談で言いそうだが、現実に下谷さんが食い殺されたのだから認めざるを得ない状況なのは確かだ。


「この館は円形ですので、猟犬は入って来ないはずです」


 幸いにしてこの場にいるのは全員がクトゥルフ通なので、全員発狂というバッドエンドは迎えずに済みそうだ。


「本当に、その……カドはないのですか?」


 最後にやってきた青年、坊山ぼうやまさんが怪訝な視線を従者二名に向ける。ちなみに紳士ハットの男性は駒場こまばさんと名乗った。


「ええ。その筈です。皆さんが持ち込んでいなければ」


 途端に不安そうな表情をしたのは坊山さんだけではなかった。


「そ、それなら! 館内で顕現する可能性もあるってことか!?」


 松垣さんの声に再び狂乱ムードに陥りそうになったが、大塚さんがフォローする。


「荷物検査、してもいいですよ? どうですか?」


 拒否する者はいなかった。


 スマホで時刻を確認すると、十六時三〇分過ぎだった。

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