終章 旧支配者の落胆

 ティンダロス館を命からがら脱出した後、電波圏内に入ってすぐに警察へ通報した。駆け付けた警察官に事情を説明するも、どこか馬鹿にするような表情で対応され、時間遡行薬が染み込んだ手で殴ってやろうかと思ったがグッと堪えた。


 その後は近くの警察署に連れていかれ、みっちり絞られた。解放されたのは夕方近くだった。おかげで聖地巡礼の旅日程が台無しになったのだから、やっぱり殴っておけばよかったかもしれない。


 後日の新聞欄に【山奥の資料館で変死体発見】という記事が載っていた。


 これによると館内部から三人の死体が発見され、どれも損壊が激しく身元の特定が困難だという。記事は『犯人の足取りを追っている』と冷淡な言葉で締めくくられ、猟犬の存在は闇に葬られていた。あるいは、はじめから存在していなかったのか……。


 那須井さんは重要参考人としてさらに事情聴取を受けていると、休憩中に急いで打ったらしい文章で連絡がきた。坊山さんとは解放されてすぐに別れた。同じ世界を旅する旅人同士、またどこかで再会するだろう。


『レイン、脱出前に言った言葉覚えているよね?』


 昼下がり、自室のベッドで長い夢から覚めた気分で寛いでいると、上野原からメッセージアプリを通してメッセージが届く。


『フライパンで窓ガラスは割れるのか、だっけ』


『その前だよ』


『ハルピン・チャーマズだっけ?』


『わざと言ってるでしょ? 補習だよ、補習!』


 しまった。赤点評価を食らっていたのを忘れていた。


『明日、大学でみっちり叩き込むよ。大塚さんにも言っておくから。旅日程も改めて決めたいしね』


 明日は確かバイトのシフトが入っていた気がする。


『かしこまり』


 返事を早々に送り、バイト先とのやり取りページを開いてシフト変更を願い出る。


「願ったり叶ったりだよ」


 明日が楽しみだ。

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