④
「猟犬顕現の演出じゃないかな。HPになかった?」
「いや、なかったような気がするぜ」
上野原も例のオブジェに気付いたらしい。特に気にする様子はないので、隠し演出の一環だと納得する。危うく正気を失うところだった。
正面入口の扉を開ける。
円柱形の館とあって、内部も円の形をしている。入って十字を切る位置に円形の窓があり、右側の窓近くには二階へ向かう階段がある。時計に見立てると、窓はそれぞれ零時、三時、九時の方向にあり階段は三時の窓近くにあることになる。六時方向には正面入口の扉があるので、窓は七時付近とすこしズレた位置にある。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐに設けられた受付で、メイドさんみたいな恰好をした女の子が立っていて小さくお辞儀をした。胸のネームプレートに『
予約した旨を伝えると、那須井さんはリストにチェックした。
ここは資料館にしては珍しく、事前予約が必須だ。サイトによるとファンが押しかけたことがあり、それ以来予約制になったらしい。
「三名様の虹川様ですね。本日はお暑い中、ありがとうございます」
那須井さんは再び、小さく会釈した。
黒髪ロングヘアが両肩の前でさらりと揺れ、白いカチューシャがまるで猫耳みたいだ。白と黒のチェックワンピースに黒パンプスを合わせ、胸ではオレンジのリボンがアクセントになっている。
「では入館の前に、冷たいドリンクをどうぞ」
那須井さんはリストを置き、脇に置いてあったピッチャーを手に取る。中には茶色の液体が入っていて、慣れた手つきでコップに注いだ。
「当館自慢の時間
これはHP通りの流れだ。
まるで神話世界に迷い込んだ一人の旅人の気分。
乾いていた喉に麦茶のうま味は格別だ。上野原も大塚さんも一気に飲み干した。
「どうだ上野原? 臭うか?」
「残念ながら、資料の良い匂いしかしないな」
大塚さんがくすりと笑い、野球帽を脱いでハンドバックに入れた。
「今まで出現したことはあるのですか?」
那須井さんは急に真面目な表情になり、
「ええ。それはそれは遠い昔に、一度だけあると記録が……」
異次元からの視線に怯えつつ、唯一無二の空気を楽しみながら近くの資料へ足を運ぶ。
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