③
俺たちが通う亜科武大学はT県中央に位置する総合大学だ。
偏差値も平均的、至って普通の大学なのだがクトゥルフマニアの間では聖地の一つに数えられている。大学名が、神話中の架空都市【アーカム】と同じだからだ。入学を決めた理由が、まさにこれだった。
サークルではクトゥルフ神話についてメンバーらと語り合い、ボードゲームであるTRPGやオリジナルの創作を日夜楽しんでいる。
クトゥルフ神話とは怪奇小説家ラヴクラフトと彼の友人たちによって築き上げられた宇宙的恐怖を体現したオリジナルの神話体系である。
神話の中で【ティンダロスの猟犬】は異次元に存在する獰猛な犬のような生き物として描かれている。
奴らは異次元に潜み、常に獲物を探し求めている。一度感知されると逃げ切ることは不可能に近い。とはいっても、普通の生活を送る分には奴らとの接点がないので、襲われることはまずない。
一見危険がないと思われる猟犬との接点は、時間を
神話によると、時間を遡る特殊な薬を飲み本来の時間軸に逆らうような行為をした時のみ、猟犬の敏感な嗅覚に引っかかってしまうとある。
その際、猟犬はカドを通り抜けてこの世界にやってくるので、四隅を無くした空間に閉じこもれば難を逃れる確率が上がる。さらに顕現する直前、鼻をつく異臭がするらしいので心当たりがある際は用心することをおススメする、とある。
「あら? これなにかしら?」
大塚さんが地面に落ちているものを指差す。
野球ボールを細長く楕円形にしたような形で、ギザギザした棘がウニのように四方に伸びている。星型に見えなくもない。
「カドがびっしりだね」
猟犬が好きそうな形である。演出か何かだろうか。
「お二人さん、デートは後にしてくれないかな! ショゴスみたいになりそうだ」
上野原は正面入口で暑さのためか、ぐったりしている。俺たちは視線を交わし、彼のもとへ急いだ。
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