第一章 異次元の犬
②
八月の熱い日差しはまさに暴力だ。
七月末まで続いた期末試験をヒイヒイ言いながら切り抜けたのも束の間、最寄り駅から歩くこと既に一時間弱――ようやく目的地であるティンダロス館が眼前に姿を現した。
共に歩いていた
巨大な円柱形をした館で、正面に円形のドアが見える。
別名円柱館――ティンダロス館にはカドが存在しない。これは館の名前にもなっている【ティンダロスの猟犬】に由来する。
こいつらは異次元に存在し、こちらの世界にはカドを通り抜けることでしか顕現できないのだ。万が一現れてもこの館にいれば安全と館HPは謳っている。愛好家の間でも人気が絶えないスポットだ。
俺らは
「おいレイン、写真! 他の奴らに自慢してやらねば」
上野原はこちらを見ながらアングルの指示を次々と飛ばす。撮るごとに探偵のように深く考え込み、いつしか脳内会議に没頭している。染めた形跡のない黒髪で、前髪は両目にかかっている。銀縁メガネのフレームが日光でキラリと光る。黄色と紺のチェックシャツは見た目アウトドア派だが、俺と同じ生粋のインドア派。くたびれたジーパンとスニーカーを履いている。
レインとは俺のあだ名だ。名前が
今日は山道を歩くことがわかっていたのでジーパンとスニーカー、トップスはお気に入りのブランドの青ポロシャツをチョイスした。
「ねえね虹川くん! うちも入れて撮って!」
今回の旅の紅一点、大塚さんがスマホのフレームの中でピースポーズをとる。
黒髪ポニーテールで、メジャーリーグチームのロゴが入った野球帽を被っている。サイズ調整のベルトと帽子本体の隙間からテールを出しているのが可愛らしく、何度もシャッターを切ってしまった。白ブラウスの首元でパープルリボンがそよ風で揺れ、赤と紺のチェックスカートとも相まって、まるで高校の制服のようだ。童顔な彼女ならまだまだJKを謳歌できるだろう。綺麗な生脚がスカートから伸び、歩きやすいためかローファーに似たスニーカーを履いている。
数枚撮って、仕上がりを彼女に見せる。
「虹川くん、センスいいじゃん!」
「イメトレした甲斐があったな」
次は自撮りでも――続けようとして、上野原の姿が見えないことに気付く。
「あっ! もうあんなところに」
脳内会議を終えたらしい上野原は、既に館の入口前で立っていた。
俺と大塚さんは並んで歩きだす。
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