三度
俺は
グラース…短い付き合いだったが、それでもアイツの言葉で俺は救われた。
戦友を喪い、リアスを失い、グラースも…。
俺はなにをやってる…。
黒の鎧。奴の言っている事が本当なら、洞窟に残っている婆さんやラウラ、サリーが既にダルホスによって殺されてる可能性もある。
…くそっ、最悪な想像ばかりが浮かびやがる。
ダルホス!ダルホス!ダルホス!
アンタが憎い!俺から全てを奪っていくアンタが!
進むこと数分。拠点の洞窟に着くやいなや俺は
「やあ、遅かったじゃないか」
そこには爽やかな声で出迎えるダルホスがいた。
…そして、そんな声色とはかけ離れた惨状が目の前に広がっていた。
足元には
「ダルホス!」
俺は斧を振り被り、怒りに任せダルホスへと突っ込む。
刹那、視界が紫に染まる…。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
洞窟の壁へと叩きつけられ、初めて雷によって弾き飛ばされた事に気付く。
ぐっ…。
「まてまて、そう
「誰がてめえ…なんかと」
「そういえば、
「ダルホス…殺す!」
俺の隣で
「まったく…。これだからガキは…。冷静に考えてみなよ、彼女は敵国の精霊だ。殺した方が反乱の目を摘める。それに、僕は数名の犠牲で
ダルホスの言葉を受け、俺は返す言葉が見つからなかった。
…すると洞窟の奥で震えてた筈のラウラが力強く反論する。
「あんたのどこに正義があるのよ!突然侵攻してきてこれだけの人を殺しておいて。クロムの方がよっぽど正義よ!」
「何が正しいかは立場によって変わってくる。小娘が青臭い言葉を吐くな!」
ダルホスは苛ついた様子で、手にしていた
「やめろ!」
俺の叫び声よりも速く
そして…次の瞬間には
「
「兄さん、悪いがこの子らは見逃して貰えんか?」
突然の
あれだけの血を流していた筈のシウバが
ダルホスを見据え立ち上がっていた。
「まったく、頑丈だね。さすがは“古狼”の異名を持つ婆さんなだけはあるよ」
ダルホスがシウバを警戒して距離を取る。
「そう警戒せずともよい。確かに古い生き物には違いないが既に朽ちかけた身。戦う力なんぞ残っとらんわ」
「ばばあの言う通り、加護のお陰で人より幾分か丈夫なだけで、
俺は、呑気に会話する二人を見て苛つきながら間に入る。
「婆さん、わりいがここは譲る気はねぇ。グラースはたぶん長くない。ルイスも今、必死に戦っている。そんな中で俺だけ逃げる訳にはいかない!」
「それには僕も同意見だ。せっかくこれだけの兵を動かしここまで追い詰めたのに、みすみす見逃すと思うかい?」
俺たちの言葉を受け、シウバは何やら考え込むように顔を伏せる。
「何故逃げずに無謀な戦いを挑んだ?昔は、名の知れた軍略家だったらしいが…老いは判断を鈍らせるようなだな」
ダルホスは下卑た笑みでシウバを見下す。
シウバが軍略家?
思わぬ事実にシウバを横目で見やる。
シウバもその視線に気付き俺の目を見据える。
そのエメラルドグリーンの瞳には一切の迷いが無かった。まるで、こうなることを予期していたみたいに…。
「英雄ダルホスよ。お主こそ、どうして脱走兵にここまでの兵力を割く?この小僧を殺すためか。砦を手薄にしてまで、指揮官が聞いて呆れるのう」
「うるせえくたばり損ないが!コイツは俺に傷を負わせた。それだけで万死に値する」
ダルホスが唾を撒き散らしながらシウバに罵声を浴びせる。どうやら、ダルホスは想像以上に俺に対して私怨を抱いていたようだ。
エウロプ村では撤退を選んだシウバが、今回は戦に臨んだ。もしかして…勝算があるのか?
正直、俺にとって勝ち負けなんてどうでもよかった。ダルホスへの怒り…それだけが全てだった。
「さっさと決着をつけるぞダルホス」
俺が斧を再び構えると、ダルホスが突然、
「はっはっはっはー!まったく、これだからバカは見ていて飽きないな。俺が本気になればコイツらなんて瞬殺できてた。それが、どうしてのんびりお前を待ってたと思う?」
「まさか…」
俺は直ぐにダルホスの意図を察知してラウラとサリーの方へと駆け寄る…。
しかし、それよりも速く雷光が瞬く。
それは一瞬よりも速く、ラウラとサリーが紫電に呑まれる。
次の瞬間には轟音が響き渡り、洞窟の外壁を切り裂き、瞬く間に俺たちの拠点は瓦解していく。
「ラウラー!サリー!」
叫ぶ俺をシウバが強引に押し出し、拠点の外へと弾き出された。
「シウバ!」
シウバが居たであろう場所は崩れた岩で埋め尽くされていた。
「くっくっく。お前のそういう顔が見たかったんだ」
ダルホスはを下卑た笑みを浮かべながら俺の前に立っていた。
「ダルホス!」
俺が斧を振るうより先に、ダルホスの剣である
「ぐっ…」
「勘違いしたバカに相応しい最後だな。あの囮作戦でお前も死んでいれば、名もなき英雄として逝けたのにな」
俺はなんとか繋ぎ留めている意識の中で、自分とダルホスの吐く息が不自然に白い事に気づく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます