青い鳥

 初の防衛任務から数日が経過した。

 あれからジーク第一師団長も防衛任務に参加して下さり、第二師団はしばし休暇を与えられた。


 幸いにも逢魔の影すらなく平穏な日々が続いている。ただ…俺のせいで人間関係はぎくしゃくしたままだ。


 リーナ師団長は俺からは一定の距離を保ち、口も聞いてくれない。

 アミーラも俺を避けていて、目が合うと泣き出しそうになる。


 …アミーラには悪い事をしたか。


 俺はどうも流されてしまうから今後は理性を持って行動しないとな。

 いや…でもなあ、リーナ師団長と接近して理性を保つ方が難しい。


 そんな事を考えながら気分転換に城内を歩いているといつの間にかバルコニーに出ていた。


 ふとバルコニーの柵に、襟足を二本に結んでいる青髪の少女が座っていた。

 少女は片足を柵からだらんと下ろし、もう片方の足は柵の上で膝を立てている。


 少女の黒のスカートの中から白の下着が微かに見え隠れしていた。


 その一瞬を逃すまいと目を凝らしていると少女がこちらに気付き声をかけてきた。


「あれ…あなたは?」


「おっと…」

 早くも理性の外へ飛び出していたと被りを振る。


「俺は第二師団所属のクロムといいます。この城であまりお見受けしませんが、あなたは?」


 少女バルコニーの柵から降りると、黒のスカートを整え挨拶をする。

「私は第一師団副官のユイナ・ロングバートです。あなたが噂になってる…クロムさんですか」


「いえいえ、そんな大したことはしてませんよ…」

 先日の活躍で俺も英雄に名を連ねたか?

 …いや、この流れは身に覚えがある。


「またまた謙遜しないでください。“色欲のクロム”と、この城では有名ですよ。噂によるとカタリーナ第二師団長の寝込みを襲ったり、純粋な少女の純潔を散らした挙げ句にそのまま捨てたり…老若男女節操なく手を出すとかで、男性兵士たちも怯えてましたよ?」


「なんか…噂が大変な方向に拡がっている気が…。ちなみにその噂って誰から聞きました?」


「確か…アイナ副官だったような」


「やっぱりアイツか!」

 リーナ師団長はプライドが高いから自分から病室での出来事は話さないとだろうし、アミーラも俺への腹いせで悪い噂を流すような人じゃない。


「フフッ」

 ユイナ副官は俺の反応をみて微笑む。

 背丈はアミーラより少し高いぐらいで彼女も女性の中では小柄な方だろう。


「どうして笑うんですか?」


「いえ、ジーク師団長があなたのこと褒めてましたよ。彼のお陰で命拾いしたと…。でも、ここまで良い評価と悪い評価が混在する方は珍しいですよ」

 そう言ってユイナ副官は再び微笑む。


「そうですか…」

 俺はどう反応していいか分からず困惑していた。


「それよりこんなところで何をしてるんですか?」


「そっか、元エウリオ兵だったら私の事は知らないわよね。私は各地点へ伝令を送る役割をしているの」


「伝令って…こんなところでですか?」


 ユイナ副官は返事をする代わりに手から蒼い焔を出し、それは次第に青い鳥へと形を成す。


 そのまま俺に目掛けて青い鳥を飛ばしてきた。


「ちょっ…」

 俺は慌ててその場から飛び退く。


 すると青い鳥は俺の立っていた場所に衝突して、一瞬だけ蒼く発火する。


地面には炭で書かれた文字のみが残されていた。


 “あなたには期待してますよ加護星さん”

 地面にはそう書かれている。

 ユイナ副官の方に視線を戻した時には彼女の姿は消えていた。


不思議な人だ…。

「…さて今夜は作戦会議か…気が重い」

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 夜天やてん十八じゅうはちの刻。

 夕食後に城の一室で作戦会議が開かれる。


 早速、ジーク師団長が本題に入る。

「先ほど伝令があり約二十万ものエウリオ軍が既に海都の庭アクエガーデンの手前まで侵攻しているそうだ。最初のうちは敵軍を加護領域かごりょういきに引き込んで、少しずつ兵力を削っていたが、エウリオ軍は加護領域かごりょういきに引き込まれないよう陸地まで退避し、戦況は膠着こうちゃく状態だ。続いてこちらの状況だが…アイナくん」


 ジーク師団長に話を振られアイナが説明を引き継ぐ。

「はーい!私の千里眼は北海ノースダークの映像は見透しづらいんだけど、ものすごい数の逢魔がこちらに接近しているわ」



「逢魔側もこの機を狙ってきているな。…以前からこちらの状況や作戦が外部に漏れている節がある。先日襲撃してきたマー・サーリンの口振りからも内通者がいる可能性が高いだろう」

 リーナ師団長がそう言うと、俺を睨みつける。


「そうだな…先刻からの作戦会議に参加している者は副官以上のため、今後の方針を知っている者は限られている。悪いが念のためだ、クロムくん、君を拘束させてもらうよ」

 ジーク師団長は多少は申し訳なさそうにしているが、俺を疑っているのは明らかだ。


「そんな!待ってください。確かに俺は元エウリオ軍だが、リーナ師団長に誓いを立てました」


「ほう…先日、あんなことしておいてまだ貴様を信用しろというのか?」


「確かにあの時のは無礼をはたらきましたが不可抗力で…それにマー・サーリンを殺す手助けだってしてます!」


「それがどうした、旗色が悪くなったからマー・サーリンを切り捨てたのだけだろう?聞いた話によるとお前は最後まで標的にされなかったらしいじゃないか」

 リーナ師団長は完全に俺の弁明を突っぱねる。


「アリーナ!何とか言ってくれ」

 アリーナは俺と目が合うとそっぽを向き口を閉ざしていた。


「…そんな」


「もとよりお前は祖国を裏切った奴だ。一度裏切る奴は何度でも裏切るさ…」

 リーナ師団長のとどめの言葉で打ちのめされる。そのまま俺は兵士に連行され、城の地下牢へとぶち込まれた。






 







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