もう一人の英雄
幾星歴1346年、
後に“
「おい…ツヴァイトの奴がまたやらかしたぞ」
「まったく、凶暴で手に負えんな…」
フェリン帝国の象徴である黒い鎧を身に纏った兵士が慌ただしくヨーギ村の発掘現場へ集まっていた。
ここヨーギ村は当時、黒曜の発掘にご執心だった皇帝、ガルフェリオン・バルムント・オービタス7世が黒曜の発掘現場を中心に建設された村。発掘作業にあたる者は奴隷や犯罪者が大半であった。
そんな中、長い黒髪を後ろ手に一括りにまとめ上げた黒髪の少年が今日も駐留兵と揉めていた。
素手の少年に対して、大人の兵士が十人掛かりで何とか押さえつけていた。
「くそっ、離せ!」
少年は頭を地面に押さえつけられてもなお抵抗を続けていた。
「おいカルロス大佐を呼んでこい…俺たちじゃ手に負えん」
「まったく、大佐はツヴァイトや奴隷たちに対して甘すぎるんだ。だからこうして付け上がる」
ツヴァイトと呼ばれる少年は兵士から頭を殴りつけられそのまま気絶した。
ツヴァイトが次に目覚めた時には駐留テント内の柱の後ろに手を回しロープで縛られた状態だった。
「くそっ…解きやがれ!」
「…カルロス大佐、こちらです」
そこにカルロス大佐と呼ばれた初老の男が、やれやれといった様子で駐留テント内に入ってきた。
「まったく…少年、少しは大人しくしたらどうだい。君が暴れる度に他の奴隷の肩身が狭くなるんだよ」
「だって…カルロスのおっさん、アイツら俺よりも小さい病気の子どもを殴り付けやがったんだぞ!」
「だから…前も言った通りその時は暴れる前に私に報告してくれ。その兵士を処罰するから」
「だいたい、おっさんの威厳が足りないから兵士たちが言う事聞かないんだろ」
「ははは…それを言われると耳が痛い…」
「大佐…私は大佐の事を尊敬しておりますので」
カルロスの背後にいた若い金髪の兵士がさりげなくフォローを入れる。
「慰められると逆にツラくなるから止めてくれ」
カルロスは笑いながら綺麗に剃られた自分の顎を触る。
「とりあえず彼の縄を解いてくれ、そして頭の手当を…それと子どもを殴るのは関心しないねえ」
「俺は子どもじゃねえ」
「大佐、確かに彼は子ども離れした力です。殴られた兵は鎧を着てたにも関わらず肋骨が折れていたそうです」
「ありゃりゃ…じゃあ少年、その兵士は充分な罰を受けてるね。軽いお咎めだけにしとくか」
「いやまだだ!殴りたりねえ」
「まったく元気な事で、これなら発掘現場で働かせるよりも村の警備に当たってもらった方が良さそうだ…最近、不穏な動きが見られるからね」
カルロス大佐の言葉に若い金髪の兵が慌てて反論する。
「流石にそれは皇帝陛下の命に背く事になるのでお止め下さい」
「ははは…そうなれば俺は斬首だろうな」
カルロスは冗談っぽく笑った後に急に真剣な表情になりツヴァイトに向き直る。
「ツヴァイト…後先考えずにに任せて暴力を振るうな。振るうならその結果何が起こるかをよく考えなさい」
「……」
ツヴァイトは不貞腐れたように顔を背ける。
✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦
「つっ…」
翌日、ツヴァイトは昨日殴られた頭の痛みで目を覚ます。
「おにいちゃん…大丈夫?」
「メリル…大丈夫だよ」
ツヴァイトの横で妹のメリルが心配そうな表情で見ていた。
彼には二つ下の妹がいた。彼と同じ艷やかで長い黒髪をしており、五年前に兄妹そろって奴隷として帝国に売られたのだ。
彼の出身国であるドルディヤーガでは女性は平均十人以上出産しその半数以上は口減らしのため奴隷として売られていく。
ドルディヤーガ人の特徴である黒髪は奴隷の象徴として、このフェバリー大陸では深く根付いている。
ツヴァイトとメリルが朝の支度をしていると、けたたましく作業開始の鐘が鳴る。
「さて…本日も働きますか」
ツヴァイトは軽く、背伸びをして発掘現場へ向かうのであった。
骸骨を乞う 那須儒一 @jyunasu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。骸骨を乞うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます