北の戦場④

 ジークは“アイギスの盾”を解除する。

 それと同時に堰き止めてられていた五十程の逢魔おうまが勢いよく雪崩込なだれこんできた。


重装陣形ファランクス

 ジークは左手にロングソードを右手に光の盾を持ち攻防一体で逢魔群れに突っ込む。


 ジークは防御面に優れた戦士である。彼を殺そうと思ったらエウリオ軍の英雄ダルホスであっても難しいだろう。


 ただ、攻撃面に関しては各師団の副官の方が勝っている場合が多い。


 そのため今回は攻撃面を補うためにヨアンが同行していた。


 ジークは攻勢に転じた事を失策しっさくだと思いながらも、他に選択肢は無く押し寄せる逢魔の頭部を手早くロングソードで両断する。


 ヨアンは背後に迫る逢魔の軍勢に動じる事なくマー・オルカスの出方を窺っている。


「いいのかね?ジークとやらを助けなくて」


「私の任務は貴方を殺すことです」

 ヨアンはそう言い切ると足元の影から一本の漆黒の槍を引き抜く。


 それと、同時にマー・オルカスは切断された右腕の断面が発火する。

 マー・オルカスの鱗が赤く活性化し、失った筈の右手から赤く燃え上がる矛が生えてきた。


「さあ、死合しあおうぞ」


 ヨアンとマー・オルカス、互いの矛がぶつかり合う。


「契約成立」

 ヨアンがそう呟くと、マー・オルカスは足元にある自身の影に呑まれていく。


「くっ、なんだこれは!」

 マー・オルカスは突然の出来事に動揺を隠せずにいる。


 ヨアンも後を追うように自身の影に呑まれる。


 ヨアンとマー・オルカスは薄暗い大理石できた正方形の大理石の上に降り立つ。


「ここはどこだ、貴様何をした?」

 マー・オルカスがあたりを見渡すが四隅に大理石の柱が設置されているだけで、それ以外は闇に呑まれていた。


「ここは私の加護領域かごりょういきの中です」


「待て…加護領域かごりょういき加護星かごぼしか神々にしか使えない筈!まさか貴様は…」


「どのみち決闘を始めるには名乗りを上げる必要があります。私は死神タナトスの加護星、ヨアン・ギュンターです。貴方は?」


 マー・オルカスは不思議な力に抗えず自身の名を告げる。

「私はマー・サーリンの長子…マー・オルカス」


「敗者は夜女神ニュクスへのにえとなります。いざ尋常じんじょうに…」

 ヨアンの掛け声と共に決闘の火蓋が切って落とさる。


 仄暗い闇の中でマー・オルカスの炎の矛が火花を上げて、漆黒の影とぶつかり合う。


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 ジークは光を纏いひたすら逢魔との戦いに専念していた。何とか数は減らしているものの、まだ半数以上の逢魔が暴れまわっている。


 ジークが限界を迎えるよりも先に、加護領域かごりょういきの限界が訪れた。


 水の膜が大きくゆれ、その振動で大地が震える。


「くっ…間に合わなかったか」

 ジークにいつもの余裕は無く、周囲は逢魔の残骸で足の踏み場も無い。


 加護領域かごりょういきが破れたら事により、領域外にいた逢魔の追加の軍勢が侵攻を開始した。


「ジーク師団長、申し訳ございません。遅くなりました」

 声と共にジークの付近の小さな影溜まりからヨアンが姿を現した。


 ヨアンがここにいるということは、マー・オルカスとの勝敗は決したということ。


「私こそすまない。守りきれなかった」


「いえ…他の拠点も攻撃を受けてますから、遅かれ早かれどのみち加護領域かごりょういきは破られていたでしょう。とりあえず水光神みひか様の加護領域かごりょういきが復活するまでここを守りきりましょう」


影の軍勢ファントムドール

 ヨアンは自身の影から複数の分身を作り出し、逢魔の軍勢へ攻撃を仕掛ける。


「第十二師団の拠点はルイスくんが守っているから多少逢魔が流れても対処してくれるだろう」

 そう言ってジークも引き続きロングソードを構え、逢魔を次々に仕留めていく。


 加護領域かごりょういきの消失により、

 東西イーウのツララ山の山の民が侵攻を開始。


 同じく、サースの第五、第六、第七師団拠点の前のダルホス率いる黄刻騎士団おうこくきしだんが侵攻を開始した。




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