北の戦場③

 一方、北海ノースダークの海中では、二人の青年が城門に繋がる道を逢魔おうまの襲撃から守っていた。


 第一師団長のジークと第十二師団副官のヨアン・ギュンターである。


 既に幾度か襲撃があったのか、彼らの足元には逢魔の肉片が散らばっていた。


「ジーク師団長。上は大丈夫ですかね」

 ヨアンは不安げに頭上の水の膜を見上げる。


「ザーフィア殿もいるから大丈夫だとは思うけど、加護領域かごりょういきがそろそろ限界だね。流石に全方面からの攻撃には耐えられないか」


「勉強不足で申し訳ないですが、加護領域かごりょういきが破られた場合は周囲の水が押し寄せてきたりしませんか?」


「それは大丈夫だよ。水光神みひか様は加護領域かごりょういきが完全に破壊される前に、加護の運用を水の膜の維持のみにして、加護領域かごりょういき自体は物体が自由にすり抜けれるようにして下さるから」


「その代わりに敵も自由に往来できるということですね…」

 ヨアンはジークの説明を受けすぐさま仕組みを理解する。


「とにかく後はリーナ師団長とアイナ師団長、あと…クロムくんに任せて我々はここを死守するよ」

 ジークがそう言い終えると、加護領域かごりょういきを破り三体の半魚人マーマンが侵入してきた。


「おや、たった三人で大丈夫かい?」

 ジークは半魚人マーマンに対して余裕の態度を見せる。


「マー・サーリンを倒したのはどいつだ!」

 三体の内、真ん中に立つ朱色の紋様が額に刻まれた半魚人マーマンが怒りを露わにしてジークたちに問いかける。


「それは私だよ。君は?」

 ジークはロングソードを構え返答する。


「私はマー・サーリンの息子のマー・オルカスだ。父の仇を討たせてもらう」

 マー・オルカスがそう告げると加護領域の周辺に何十匹もの逢魔が押し寄せてきた。


「まずい、このままじゃ加護領域かごりょういきが食い破られる。ヨアン副官、加護領域かごりょういきに穴を空けて今いる逢魔を全て引き込むよ」


「御意」

 ヨアンの体に黒いもやまとわりつく。


 およそ50匹もの逢魔がなだれ込んできた。


“アイギスの盾”

 ジークがロングソードを地面に突き立てると盾の紋様が刻まれた巨大な魔法陣が宙に浮かび上がり。

 数多の逢魔をき止める。


 しかし、二人の半魚人マーマンが既にジークの背後に回り込んでおり、黒く硬化した腕でジークの背中に刺突を繰り出す。


「ぐっ…バカな…」

 二人のマーマンの腕はすんでのところで止まっていた。


 ジークの足元から伸びる影から二本の黒い槍が飛び出し二人の半魚人マーマンの腹部を貫いていた。


 そして、身動きの取れなくなった半魚人マーマンの背後から、ヨアンが手刀で二人の頭をぐ。


 半魚人マーマンを仕留めたのも束の間、ヨアンの背後にマー・オルカスが回り込んでおり、硬化した腕で背後からヨアンの心臓を貫く。


「まずは一人」

 ヨアンは脱力し地面に倒れ込む。


「くっ…」

 ジークは逢魔の軍勢を抑えるためロングソードにマナを注ぎ込んでいるため身動きが取れずにいた。


「こうもあっさり英雄の一角が落ちるとは。拍子抜けだな」

 マー・オルカスはジークの背後からゆっくりと歩み寄り、硬化した右腕を振り上げる。


 直後、マー・オルカスは何かを察したのか横に飛び退く。次の瞬間、マー・オルカスの立っていた位置に黒い軌跡が通り抜ける。


 ジークが見るとヨアンが手刀を振り抜いていた。

 マー・オルカスも完全には避けきれず。右腕を切り落とされる。


「ヨアン副官。私は身動きが取れない。マー・オルカスはあなたに任せます」


「御意に」

 ヨアンとマー・オルカスが対峙する。


「せっかく、配置されてる兵の情報を得てるのに無策で私が攻める訳が無かろうて」

 マー・オルカスがそう告げると、再び加護領域かごりょういきの外から逢魔の軍勢が押し寄せてきた。


「ジーク師団長!」


 ジークはここである二択を迫られていた。


 一つ目は、このまま加護領域かごりょういきを維持して、領域内にいるマー・オルカスと逢魔の軍勢を先に始末する。その後領域外の逢魔を引き込み同様に対処する。

 この場合は領域外の逢魔が加護領域かごりょういきを食い破る前に、マー・オルカスと領域内の逢魔仕留めなければならない。加護領域かごりょういきが食い破られれば、海都の庭アクエガーデン全土の加護領域かごりょういきが一時的に機能を失う事になる。

  

 二つ目は、北海ノースダーク側の加護領域かごりょういきを解除して追加の逢魔の軍勢と“アイギスの盾”で抑えている逢魔たち、そして、マー・オルカスを同時に相手取る。


 この場合、いつでもに北海ノースダーク加護領域かごりょういきを復活されるが、解除している間に逢魔が海上の蛮族に加勢する可能性や現在の帝都である市街地、レイトールに逢魔の軍勢が流れるリスクもある。


「ヨアン副官…私も攻勢に転じます」

 これは、ジークが前者を選択したことを意味する。

 その一言でヨアンはジークの意図を理解し、加護領域かごりょういきが破壊される前にマー・オルカスと領域内の逢魔を狩るべく、攻めの姿勢を取る。







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