北の戦場②

 ガルガンを討ち取り蛮族の前線部隊は壊滅したが、依然敵の数は不明である。


 てつく前線に後続の蛮族が押し寄せてくる。


「おい、ザーフィア。その好機とやらはまだなのか」


「まあ、待ちなさいって」

 ザーフィアはそう言うと、右手をかざす。


幻影師団ファントムパレード


「うぉっ!」

 俺たちの目の前に突如、フェリン軍の大軍が出現した。


「では、全軍突撃!」

 ザーフィアの掛け声と共にフェリン軍を模した謎の師団が蛮族の側面から奇襲を仕掛ける。


 突如、大軍に横槍を突かれ蛮族は混乱に陥っているようだ。


 …しかし、どうやらまぼろしたぐいで実体はないようだ。


「ほら、にいちゃん、何をぼさっとしてるんだい。今こそ好機だよ。俺のまぼほしが戦場を掻き乱している間に攻撃なさい」


「お前、そう言う事は先に言えよ!」

 俺は慌てて飛び出し幻影師団の後に続く。


「皆の者、私に続けー!」

 事前にザーフィアと示し合わせていたのか、

 リーナ師団長の掛け声と共に第二師団、第十二師団の混合部隊も突撃する。


 リーナ師団長は前線で蛮族どもを斬り伏せていく。

 アイナはその後ろから光の矢を放ち的確に蛮族を射抜いていく。


 遠目にアミーラが後方で必死に飛び跳ねて、回復支援をしているのが見える。


 俺も負けじと風を纏ったハチェットを投げ蛮族を蹴散らしていく。


 北の戦場はこのままフェリン軍の勝利かに思えた。

 次の瞬間、濃霧の中から前線で停泊していた船の何十倍もの大きさの巨大船が突如顔を出した。


 黒鉄の巨大船は氷漬けの船を蹴散らし、遂に加護領域かごりょういきに衝突する。


 物凄い衝撃と共に足元が波打つ。

 黒鉄の巨大船は尚も止まらず少しずつ押し進み、加護領域かごりょういきへ負荷をかけていく。


 そして船の甲板かんぱんから無数の巨大な生物が降り立つ。


「オーガだ!」

 リーナ師団長が叫ぶ。


 オーガと呼ばれた生物は通常の蛮族の5倍程の体格で、黒っぽい緑色の肌にゴツゴツの皮膚。上半身は裸で腰には巨大な布を巻いている。


 手には巨大な体格に見合う、棍棒やナタのような武器を携えている。


 彼らは次の瞬間、一様に足元の水面に武器を振るい始める。


「まずい奴らの狙いは加護領域かごりょういきだ!」


 足元の波紋が大きくなる。


 リーナ師団長は蛮族の間を切り抜けながら、オーガ目掛けて突っ込んでいく。


 俺もそれに追従すべく、目の前の蛮族をハチェットで切り倒していく。


「くそっ…数が多すぎる!」


 師団兵たちも奮闘するが蛮族が数では圧倒している。


 ふと後方を見るとザーフィアが戦況を遠目で見渡している。


「おい、ザーフィア!このままじゃリーナ師団長がヤバい、お前も何かしろよ」


「何かって言われても、俺は攻撃が専門じゃ無いからねえ」


「でも、このままじゃ加護領域かごりょういきもヤバいんだろ?」


「そうだね。加護領域かごりょういきが破れたら敵が海都の庭アクエガーデンに自由に出入りできるようになるだろうね。ただ、周囲の水が落ちてくる心配はないよ」


 ザーフィアは危機的状況にも関わらず何故か落ち着き払っている。


 リーナ師団長がオーガの頭上に飛び上がる。


氷剣招来ひょうけんしょうらい徒花あだばな


 オーガの頭上に突如巨大な氷の剣が形成され、そのままオーガの肩口に突き立てられた。


 直後、氷の剣は一瞬にして砕け散りオーガを骨の髄まで凍結させる。


 次にリーナ師団長は手にしていた白の直剣を黒鉄の巨大船へと投げつける。


花葬かそういばらの森”


 白の直剣から無数の茨が出現し、巨大船に絡みつく。

 リーナ師団長は巨大船の進行を止めようとしているみたいだ。


 …しかし、武器を手放したリーナ師団長をオーガが掴む。

「ぐっ!」


「リーナ!」

 アイナが叫ぶ。


 オーガはリーナをそのまま握り潰そうと力を込める。

「ぐぁぁぁぁぁ」

 それと同時にリーナの悲痛な叫びが聞こえる。


幻影竜群ファントムダイブ

 ザーフィアが巨大なドラゴンを複数召喚してオーガ目掛けて突撃させる。もちろんまぼほしだろうが…。


 オーガや蛮族は突如現れたドラゴンに気を取られ、一瞬の隙と混乱が生じる。


「切り落とせー!」

氷斬アイスラッシュ


 リーナを掴んでいるオーガの手にアイナが放った矢が刺さる。次の瞬間、オーガの腕に氷の軌跡が走り、切り落とされる。


 リーナ師団長は水面へと逃れたが、オーガの足元にいた蛮族たちに囲まれて絶対絶命だ。


「くそっ!間に合え」

 俺は何か蛮族を押しのけてリーナ師団長の元へ向かう。


 リーナ師団長に凶刃が振るわれる。


「リーーナ!」

 俺はリーナ師団長へと手をかざす。

 リーナ師団長の周囲に風が起こる。


 すると蛮族共が振り下ろした武器はリーナ師団長の体を避けるように地面へと空振る。


 隙のできた蛮族共を俺はハチェットで吹き飛ばす。そのままリーナ師団長を抱え一旦後退する。


「まったく、リーナ師団長はいつも無茶をしますね」


「済まない…クロム」

 リーナ師団長はそれだけ言うと照れ臭そうに目を逸らした。




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