北の戦場①

 アイナが放った光の軌跡はガルガンの目の前でかき消される。


「うそ…どうやって止めたの」

 アイナは自身の魔法が防がれた事に驚きを隠せずにいる。


「アイナ師団長。あなたは千里眼に頼りすぎているが故に、人の本質を見抜けない。だからあなたは俺の力量を見誤るんだ」

 ガルガンがそう話し終えると、突如霧の中から何十隻もの船が姿を現した。

 それも見えている範囲での話だ。霧の中には更なる増援が潜んでいる可能性もある。


「…まさか貴様、蛮族とも手を組んだのか?」

 リーナ師団長が白の直剣を抜く。


「そうだ…逢魔、蛮族、エウリオ軍。そして、山の民。これだけの勢力に同時に攻められれば流石のフェリン帝国も勝てないだろう。あの馬鹿な総帥が反乱など起こさなければ、こんな事にはならなかったのになあ」


 船からは幾人もの蛮族が降り侵攻を開始する。

 蛮族の見た目は人と変わらず、大半が厚手の毛皮の衣服を着ている。


「ザーフィア、ガルガンの奴、山の民がどうこうって言ってなかったか?」


「もしや、ツララ山の民も謀反を起こしているのか。確かにツララ山は犯罪者の流刑地として使われてた歴史があり、山の民はフェリン帝国に恨みを持っている者が多い。その事を戦に利用したのかもしれぬ。ガルガンめなかなかの策士だ」


「関心している場合じゃねえだろ。ツララ山ってフェリン帝国の東と西に分かれる二つの山だよな?片方の山は第二師団の拠点の近くじゃねえか。ラウラとサリーを助けに行かねえと」

 俺は慌てて第二師団の拠点へ向おうと走りだす。


「待ちなさい、今はここを抑えることが先決だ。第十二師団の拠点が陥落すればいずれ第二師団の拠点にも侵攻が及ぶ。東と西、それぞれ合わせても山の民の兵力はせいぜい一万程度だろう。拠点にいる兵で充分対処できる」


「でもラウラとサリーと約束したんだ!」


「にいちゃん、大局を見なさい。逢魔はジーク師団長が食い止めてくれてる。でも蛮族を片付けて加勢に向かわねば流石の“光の盾”でも厳しいかもしれない。とにかく俺に着いてなさい」


「くそっ」

 俺は諦めてザーフィアの指示に従うことにした。

 その間も絶え間なく蛮族が船から飛び降りている。


「…んで、どうすんだよおっさん」


「少しは辛抱なさい。物事には好機というものがあるんだよ」


 ザーフィアの魔法の望遠鏡の窓に目を向けると、ガルガンとその兵士たちは、蛮族と共にリーナ師団長とアイナが率いる第十二師団、第二師団合同部隊へ攻撃を仕掛けようと距離を詰める。


「リーナ師団長、あなたは美しいから俺のめかけにしてやろう。アイナは俺の奴隷にして死ぬまで犯し尽くしてやる!」

 ガルガンは下品な笑みを浮かべながら、リーナ師団長目掛けて突っ込んでいく。


 リーナ師団長は特に慌てた様子もなく臨戦態勢を取る。

「ガルガン…貴様はアイナ師団長に物事の本質を見抜けないといったな。私たちがどうして、内通者と疑っていた貴様をここまで泳がしていたと思う?」


「…まさか」

 ガルガンは何かに気付いたようで歩みを止める。


「もう遅い、そこら一帯に私の花を仕込んでいる。濃霧でよく見えなかっただろう?」


花葬かそう銀世界ぎんせかい!」

 リーナ師団長の言葉と共に大量の白い花びらが水面から舞う。


 次の瞬間、花びらが弾け一瞬にして蛮族が船ごと凍りつく。


 どうやらリーナ師団長は蛮族の侵攻を既に知っていたようだ。では、先ほどの反応は敵を乗せるための罠か。


 だが、ガルガンの部隊や前線にいた蛮族は白い花びらからは逃れたようだ。


「くそ!小娘がやってくれたな」

 ガルガンは怒りに任せリーナ師団長に突っ込んでくる。


 アイナがすかさず間に入り先ほどと同じ呪文を唱える。

「光明よ意を示せ“光陰矢の如しライトシャドウ”!」


「無駄だ!」

 ガルガンは先ほどと同様にアイナの光の矢をかき消し…いや、何故かアイナの矢がガルガンの胸を貫いていた。


「ぐ…馬鹿な」

 ガルガンはそのまま地面に膝をついた。


「本質が見えてないのはあなたも同じね。今の矢は氷の矢アイスアローを発光させたに過ぎないものよ。先ほどの千里眼であなたが反魔法アンチマジックを使ってるはわかったわ。反魔法アンチマジックは強力だけど対象の魔法の属性、性質を把握する必要があるの。あなたも私がここまで魔法を自在に操れるとは思って無かったみたいね」


 ガルガンは既に事切れておりアイナの言葉が届いたかは定かでは無かった。




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