捧ぐ
月明かりを水の膜が屈折させ、散りばめられた月光が流れ星のように降り注ぐ。
俺は第二師団の宿舎前の広場で答えを出せずに地べたに寝そべっていた。
「クロム…行っちゃうの?」
声のする方に目をやると、不安そうな表情をしたラウラが俺を見下ろしていた。
「ラウラ…俺…」
「グラースさん、まだ目を覚まさないの。ルイスは相変わらずなに考えてるかわからないし。サリーだって強がってはいるけど、お父さんやお母さん、村のみんなが殺されて…ホントは泣き出したくて仕方ないと思うわ」
そう呟くラウラの声は震えていた…。
「…すまない」
「謝らないで…奥さんと娘さんをエウリオ軍に殺されたグラースさんがあんたを許したのよ!私が許さない訳にはいかないじゃない」
「すまない…」
「ねぇ…クロム…私は正直エウリオ軍が憎い。あんたの事も心の底では赦せてないわ…」
ラウラはそこまで言葉を吐き出すと、軽く深呼吸をして俺の隣に座った。
カリアの花の香りが俺の鼻を撫でる。
「でもね、復讐心でホントに大切なモノを見失ってはいけないの…私はサリーが大事。妹をなんとしてでも護らないといけないの。そのためには仇のあんたにだって頭を下げるわ…」
そう言ってサリーは言葉通りに頭を下げた。
「お願い…サリーを護って…私の家族はあの子だけなの…」
俺はその瞬間、心の底に
俺がダルホスを憎んでいたように、俺自身も誰かにとっての憎しみの対象になっていた。
でも…ラウラは俺とは違い、復讐心を圧し殺して大切なモノを見定めている。
そんなラウラを尊敬すると同時に、自分自身がどうしようもなく恥ずかしくなってきた。
「おねえちゃん…おにいちゃん…なにしてるの?」
サリーが眠そうに目を擦りながらこちらへと歩いてきた。
「ラウラ…頭を上げて。あとサリーもこっちにおいで」
俺はラウラとサリーを目の前に立たせると、片膝をつきハチェットを両手で持ち2人に捧げる。
「ラウラ、サリー、このハチェットに誓う。何があろうともキミとサリーは護る!」
俺の言葉を聞いた瞬間、ラウラの頬が彼女髪の色と見分けがつかないくらい紅潮する。
サリーもまた驚いたように目を見開く。
「この不潔野郎!」
次の瞬間、ラウラの拳が俺の頬に炸裂する。
後々知ったのだが、どうやらフェリン帝国では、
男が女に武器を捧げると言うのは結婚の申し込みらしい。
そんな大事な儀式にも関わらず、
あろう事か俺は2人の女性の名前を挙げたのだ。
フェリン帝国では一夫多妻制が認められているものの、結婚の申し込みを同時にするのは禁忌とされている。
あくまで、それぞれに剣を捧げ無ければならないのだ。この時俺は心に誓った。他国に赴く際は事前にその国の文化を学んでおこうと。
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翌日、まだ腫れが引かぬ左頬を抑えながら第2師団の食堂にてカタリーナに今後の意向を伝えていた。
「カタリーナ第二師団長。俺の全てを捧げますのでここに置いて下さい!」
「ちょっと、あんたいったい何人に告白してんのよ!」
俺の発言を聞いてたラウラが冷めた目で俺を見ていた。
「なに?貴方、真面目そうに見えて女性を
「いえいえそんな事はありません。俺は真剣です」
「何よ昨晩、私とサリーに同時に結婚を申し込んでおいて、今度はリーナさんを狙ってるじゃない」
「ちょっ…変な誤解を生むからやめてくれ」
ふとカタリーナ第二師団長へ視線を戻すと、俺を見る目が汚物を見るそれへと変わっていた。
「すまない。今日はこのくらいにしておこう。私は不誠実な人間は大嫌いなんだ!」
カタリーナはそう吐き捨てると席を立とうとする。
「サリーはにいちゃんと結婚するよ」
ラウラの後ろに隠れていたサリーが会話に加わってきた。
「ちょっ、サリー、そんなのお姉ちゃんは許さないからね!こんな女の敵に大事な妹はあげられないわ」
「おにちゃんと結婚するの!おねえちゃんは黙ってて」
そんな姉妹喧嘩を見ながらもカタリーナ第二師団長の俺を見る冷たい視線は変わらなかった。
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