逢魔が刻④

 …俺はまた救えないのか。

 ようやく俺を認めてくれたリーナ師団長、ルイス。

 そして、俺を受け入れてくれたアミーラ。


 俺が全てを諦めていると、金髪で純白の鎧を身に纏った何者かの後ろ姿が視界にいっぱいに入る。


「よかった…ギリギリだったね」

 青年は半魚人マーマンを光輝く盾で弾き飛ばしていた。

 盾をよく見るとロングソードから五芒星の光が放たれ光輝く盾の形状へと変形していた。


「あなたは、ジーク第一師団長!」


「ほほう、彼の高名こうめいな“光の盾”ではありませんか」

 半魚人マーマンは余裕を見せ、優雅に話し掛けてきた。


「君そこ有名なマー・サーリンとお見受けする」


「君みたいな若者にまで知られていて光栄だよ」

 ジークはマー・サーリンと呼ばれた謎の半魚人マーマンに対して平然と言葉を交わす。


「幾多にも散りばめられた凍星いてぼしよ、その名を以て私の敵をぶっ飛ばせ!氷塊流星群スノーシャワー!」


 若干違和感のある詠唱と共に無数の矢がマー・サーリンの元へ飛んでいく、矢が着弾した地点から巨大な氷塊が出現してマー・サーリンの周囲の空間を埋めていく。


「アイナ師団長、ヨアン副官!」

 アイナとヨアン副官も出口方向から駆けつけていた。


「おっと」

 マー・サーリンは氷塊を避けると、合間を縫ってアイナの元へ詰め寄る。

 すかさずヨアン副官が間に入り、彼の素手が墨のような…液体のようにも見える物体で黒く染まりマー・サーリンの刺突を受け止める。


 そのままヨアン副官が反撃して、マー・サーリンの右腕が切り落とされる。


「ぐっ…流石に部が悪いですね。退かせて貰います」

 マー・サーリンは全身の鱗が黒く染まり、加護領域かごりょういきの外へ逃げようと水の膜に突っ込む。…しかし、膜が破れる事は無くマー・サーリンは押し戻される。


「まったく…舐められたものだね。私とアイナ君で既に領域は強化しているよ。残念ながら君は逃げる事も増援を呼ぶこともできないよ」


 ジーク師団長は既に盾をロングソードに戻しておりマー・サーリンへと詰め寄る。


「ヨアン!リーナたちをお願い」


 ヨアンはアイナの指示で「御意に」とだけ

 返答すると足元から影のようなものをリーナ師団長、ルイス、アミーラの元へ伸ばし、3人は影の中へと沈んでいった。


 ヨアンも影の中へ沈むとそのまま影だけが残り、出口に向かって素早く動き始めた。


「私の弓はすごく強い!この矢は超絶痛いわよ。光陰矢の如しライトシャドウ


 またまた変な詠唱でアイナが巨大な弓の弦を引く。

 すると、つがえた矢が発光する。


「まずい…」

 マー・サーリンは横に飛び退こうとするが…。


六芒魔封陣ヘキサゴルサクリファイス

 ジーク師団長が剣をかざすとマー・サーリンの足元から六芒星の魔法陣が浮かび上がり天まで光が伸びる。


「くっ…結界か!」

 マー・サーリンは結界に閉じ込められ身動きが取れずにいた。

 そのままアイナ師団長が眩い光の矢を放ち、ジークがタイミングを見計らい結界を解除する。


「餓鬼共が!」

 マー・サーリンの胸に巨大な穴が開く。

 しかし、致命傷ではないようでマー・サーリンはジークへと詰め寄る。


 ジーク師団長はカウンターを狙ったのかマー・サーリンの刺突に合わせてロングソードをマー・サーリンの頭部目掛けて突き出す。


 しかし、次の瞬間、マー・サーリンの腕の鱗が活性化して槍のように形状を伸ばした。


 まずい、このままじゃジーク師団長の剣よりも先にマー・サーリンの矛が届いてしまう。


「ジーク師団長!」

 俺は叫びながらジーク師団長へ手をかざす。


 この時、リーナ師団長の言葉が脳裏を過ぎる。

 加護星かごぼしの強みは他者に加護を分け与えれる事にある…。


「よくやった」

 ジーク師団長がそう叫ぶ。

 マー・サーリンの矛は風の力により逸らされ、ジーク師団長の脇腹をかすめる。

 そしてジーク師団長のロングソードはマー・サーリンの頭部を貫く。


 …そのままマー・サーリンは脱力し動かなくなった。


「ふぅ~間一髪だったね」

 ジークはさほど慌てた様子もなく、言葉とは裏腹に落ち着いている。


 俺は力が抜けてその場にへたり込んだ。


 すると…背後から突然誰かが抱きついてきた。

「あんたやるじゃない!」


 アイナが背後から抱きつきながら、俺に頬ずりをしてきた。


 あれ…アイナって意外と胸がある。


 そんな事を考えるとアイナは立ち上がり俺の頭を叩いてきた。

「あんた今いやらしい顔をしてたわね」


「いやいやしてないですよ。それに後ろから俺の顔なんて見えないでしょ」


「あんた、あたしの千里眼をなめないでよね!」


「まったく、君たちは…結構な死闘だったというのに元気だねえ」

 ジーク師団長は呆れたようにため息をつく。


 こうして逢魔の襲撃をなんのか防いだ。

 しかし、この襲撃は壮絶な戦争の序章に過ぎなかった。






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