第18話 実るほど、こうべをたれる稲穂かな


 学内広報誌の記事を作るには、当然のことながら取材が必要になる。

 単純に、イベント当日だけの取材が必要なもの、イベントに向けての何回かに分けた継続した取材が必要なものに区別される。学内広報誌は「保護者が立ち入れないイベントでは、何やってるの?」ということを重視している。


 だから、割付表を作成するにあたって、ネタになりそうなイベントをピックアップして精査して取材するという流れは前期と変わらない。中には前期から積み重ねてきた継続取材の記事が後期に組み込まれることもある。

 結局、割り振りできる人員のこともあって取材対象は2つに絞り込まれた。


 その一つは、学内の有志が集まって、テーマで研究してみよう、という内容で、1月に研究発表会となるもの。

 もう一つは、学校の卒業生が部活動で指導する姿を追いかけるというもの。これは、学校側が卒業生とコラボした企画で、3月には発表会を行うものだった。


 オバ・ハーンが担当したのは、卒業生と学校がコラボしたもの。学校側も初めての企画だったし、コラボ相手が卒業生で、初の一年間公式プロジェクトということもあって教師も生徒も気合が入っていた。


 オバ・ハーンとしては、相手が校長だろうが理事長だろうが、卒業生だろうが、フラットに取材してフラットに記事を書く、そんなつもりだった。


 ところが。

 この取材が山あり谷ありで。実施時間が放課後で、しかもいつ、学校に来て指導してくれるのか、なんて情報はなかなか入ってこない。部活動で指導するので情報が入ってこないという部分もあるが、オバ・ハーンとしては予定が組みにくいのだ。

 そして当然のことながら事前に取材許可が必要だとのたまう。


 結局、あちこちに問い合わせて、保護者情報網を総動員して、やっとのことで学校側の取材許可を頂いた。

 だが。

 もうはっきり言う。

 この卒業生、次回はいつ、と約束してくれない。自分も仕事をしているから仕方ないと思う。だったら、次回については〇〇に連絡する、〇△先生に聞いてくれ、とか、問い合わせ先を教えてくれるなり、方法はいろいろあるだろうに、それすらもしない。

 そして突然「今日取材に来てOKだよ」ということが何度かあったが、当日取材は学校側は許可しないのだ。こちらがどんなに都合をつけても、その都度取材許可を得るように。当日取材は不可、というお達しが学校側からある以上、フットワーク軽くこちらは動けない。

 けれど、卒業生にしてみれば「取材に来ないじゃないの!」ということで、大変へそを曲げられた。何度もそのシステムは説明したし、学校側も説明した。

 だから気にしてくれたのかもしれないが、やっとのことで学校側に取材許可を取り付けると、当日は本人が「今日は来れない」なんてこともしばしばで、お互いに「ドタキャン」じゃないのかー!ってな具合。

 あんまり良好な関係を築けなかったということもあって、セッティングがうまくいかなかった。

 そうして、ようやく取材だと思ったその初日。


 部活動時間、まるまる1時間半、説教で終わった。


 何があったのか、同指導するのかは卒業生と顧問の先生と生徒の間の話なので私たちは干渉しない。しかも、練習風景を取材したいので説教タイムを取材する気はない。だから、説教が終わるまでじっと待っていた。

 そうしたら。まさかの部活動時間の1時間半、説教で終了。

 仕方ないから、紹介写真として使う写真を撮影させてほしいとお願いした。

 が。


「今日はここまでやろうと思っていたのに、全然できなかったじゃないですか。それにこんな顔で紹介写真なんて撮影しないでください」

 と言って帰られた。


撃沈チーンである。


 後日、これもやっとの思いでアポを取って、写真も撮影した。

 継続取材のはずが、たった2回の取材である。しかも生徒への簡単なインタビューも禁止。発表内容も「まだ考え中です」な仕上がり具合で、記事にできそうにない状態。取材したのはミーティング風景と集団居動作の練習。

 仕方ないから、発表会をすることを目的にこういったことをしています、主導しているのはOGのこの人です、の記事にしかならない。だって発表会の内容を教えてほしいといっても、まだ大枠しかできてないから、という返事。じゃぁ、その大枠の内容しか書けないでしょ? ずいぶんもっさりとした記事になった。


 こちらで原稿を書き、版下を作った段階で、例によって例のごとく、ベーダーはもんんんのすごく、ごねた。

 曰く、卒業生自身のの記事の扱いを、もっと増やせ。

 はい、最大限努力しました。ぎりぎりまで。写真もご本人のもの、大きくしましたし。ご本人のいろいろも書き込んでおります。発表会の内容を詳報できませんからね。

 それから、ご本人と約束した「原稿チェック」が入った。


「なんでこんな記事なんですか。私の取り上げ方が少ないし、写真も小さいし、私がセンターにいないじゃないですか。こういう風に記事を作って」

 って、真っ向からクレーム。つまり、生徒を指導している姿は自分をクローズアップしてなきゃいけなくて、生徒の姿は文字だけで良いんだと。

 そして、再度書き直した記事に関して「発表会の内容がない」とクレームをつけられ、こちらが直します、という前に「自分で書きます」と切り口上で言われ、写真もご本人持ち込みの、お気に入りの写真を掲載することになった。


 正直、卒業生ご本人が書いた記事に、チョイスした写真に、オバ・ハーンは何も言わなかった。

 記事を見た途端、ああ、そうですか、と一瞬にしてオバ・ハーンの熱が冷めたのだ。

 何度も足を運び、何度も連絡ミスで空振りに終わった。

 最低限の礼儀と、最低限の視点を持ってほしかった。これでオバ・ハーンよりも一つ上の御年。


 学内広報誌は、学校に来られない保護者のために、ウチの子は学校で何をしているのか、という保護者最大の興味を満たすための紙面であるべきだとオバ・ハーンは思っていた。

 けれど、初めて公式の一年間の継続プロジェクトであることや、この卒業生がその道のエキスパートだというから、オバ・ハーンとしては、かなり各方面のメンツを立てて媚びを売るような記事を書いた。オバ・ハーンの母校だって卒業生をこんな取り上げ方にはしない。彼女の取り扱い方は、かなり、ぎりぎりの「学内広報誌」だと思っていた。


 ジェニーさんは「書き直せばまだいけるよ、いいの?」と言ってくれたが、何度も各方面に頭を下げていろいろ取材手配してくれたことを知っているオバ・ハーンはこれ以上は無理だと思っていた。

 だって、大本営&学校チェックが三日後。

 書き直せと言われれば書き直すが、完全にゴキゲンナナメの卒業生ご本人には気に食わないことはわかっている。オバ・ハーンにはこれ以上は書けない。

「誰が読者なのか」

 である。学内広報誌で、ちゃらけた卒業生をバーンと紹介したくはない。そっちはその道のエキスパートかもしれないけど、こっちは学内広報誌のシロウトだ。売り込みをしたいなら商業週刊誌でやってくれ。一寸の虫にも五分の魂。


 余談だけれども、オバ・ハーンの母校はミッション系の女子高でありながら、事あるごとに聖書や仏教を解き、ことわざを解き、各方面の著名人の座右の銘を引っ張ってきて訓話を垂れるのが好きな、結構なんでもありな学校である。

 それに倣って、言ってやろう。


「実るほど こうべをたれる 稲穂かな」(読み人知らず)


人生、こうじゃなくっちゃね


以上

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