第19話 心の中に中指を


 後期の発行に関して、ベーダーちゃんと表立ったあつれきはなかった。いや、あったけれど「なくす」ことに全力を注いだ。

 なぜなら、いちいちイチャモンをつけてくるのは彼女だけで、その内容が建設的な意見ではなく、私の時はこうだったという「この字数え」の時間になってしまってロスが多い。

 非常に意味なく精神的にがりがり削られる。

 部長や副部長の立場としては、ベーダーちゃんが文句を言ってくるのは仕方ないかと思うことはあっても、それが部員に波及してはならない。

 だって部員にはキャッキャウフフで紙面を作ってほしいから。雑事は「役職」の仕事だからね。


 まず。編集作業をベーダーちゃんの前でしない。

 アレコレ口出されるのはごめんだ。勝手にやってきて茶々入れてかき混ぜられるので非常に消耗戦になるからだ。まだ編集段階で定規持って一センチ!なんてのは論外だ。


 そのために、オバ・ハーンはノートパソコンを新調した。軽量かつ必要最小限の機能に絞ったもの。みんなが使いやすいように、機能を絞ったもの。

 部員たちも努力を惜しまない。

 写真に関して、事前にある程度セレクトした写真を用意し、写真データを事前にジェニーさんかエクセルさん、オバ・ハーンに送信することを覚えた。

 記事も、携帯電話のメールを活用してでポチポチ送ってくることもある。

 PCがないなら、PC保有者にメールで送ってしまえ、の理論である。

 そこから先の作業は、集まった時にPCを使ってみんなでできる。とにかく効率化を図ろうというわけだ。

 ノートパソコン保有者が何人か持ってきてくれて、自前であれこれするようになると作業効率はがぜん上がった。


 そんな彼らに記事を任せ、ジェニーさんとエクセルさんは文化祭の写真編集に忙しい。

 そう、あの前期の編集チェックの時の「いろいろと平等に扱ってね」の一言にかっちーんときた、ジェニーさんなりの復讐の始まりである。


「たくさん写真がありますよね、でもこれ、一枚に集約すると一枚分の印刷なんですよ」

 印刷会社氏、悪魔のささやきを試みたのだ。


つまり、一枚の写真でいくら、とカウントするので、その一枚の写真に3枚の写真を突っ込もうが、8枚の写真を突っ込もうが、一枚の写真になれば一枚分の値段だというのだ。


 人はそれをコラージュ写真という。


 前期発刊の時、一センチからミリ単位まで指摘され、学年によって写真の数が違うとまで酷評された「写真」でのリベンジだった。

「ああ、コラージュすれば発注する写真枚数を抑えられるね」

「どれくらいいけそう?」

 なんて、ジェニーさんが作業しながら、その隣でエクセルさんが電卓でぱちぱちやりながら枚数を数えている。


 あの時、キッツいことを言われ、悔し涙を流しながらこの二人はココロの中では中指を立てていたのだ。オバ・ハーンとともに。

 その日々を知っている印刷会社氏は、そっと、そっと悪魔のささやきをしたのだ。「コラージュすれば?」と。

 グッジョブ、印刷会社氏。


 学内広報誌は、確かに素人の発行物ではあるけれど、みんな内に秘めたるものを持って発行に携わっている。


以上

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