第7話 事務室の謎 その1



 わが椿会には、ちゃんとPTAが活動できるように椿会室と呼ばれるPTA専用部屋が校内に常設されていて、専属の事務員さんが交代で二人、詰めている。開室日は週に4日間と決まっているが。


 恐らく、PTAとしちゃ、破格の待遇なんだろうと思う。世の学校には、PTA会室はあっても、専属事務担当員はいない。


 まぁ、中高一貫校であるだけに、総勢50人以上の「おかー様たち」を率いていくので普通ではない組織でもある。


 で、各部に分かれていろいろな仕事をこなしているわけだが。



ちょっと脱線話。

 ワタシは結婚してすぐ家庭に入ったから、イマドキの会社がどういう風に動いているのかは詳しくは知らない。それでも、イマドキの大学が「授業で使うから」って理由で「こういうPC準備してね」って入学者に対してPCを購入しろだとか、個人の学内メールアドレスを与えたりするとか、そのメールで個人を大学に呼び出したり、学内ICタグで出欠管理したり、近所のバーガー屋の売り上げ管理がIT化されていることは知っている。


 まぁ、何が言いたいかというと、コンピューターという存在が私たちの生活に入りこんで久しいってこと。一家庭に一台のPC、もしかしたら家族の数だけタブレット端末やPCがあったり、そういうシステムがもう身近にあるってこと。

 自宅にはなくても、職場にはほぼほぼPCやタブレット端末があるんじゃないだろうか。


そんな中で。

一般的に、PTA活動はアナログである。それは知っていた。


 例えば、小学校の時の緊急連絡網はいつだって「自宅の固定電話」でなけりゃいけなかったし、学校側は「自宅の固定電話」にこだわった。

 共働きの時代にはそぐわない。

 オバ・ハーンの体験だけで言うなら固定電話「のみ」を使った緊急連絡網は今のライフスタイルにそぐわないことは確かで、クラス委員はじめ、保護者の協力さえあれば、「だったら、自分たちの裁量でなんとかしちゃえば良いわけじゃない?」という工夫ができたのである。


 こうして、小学校でのPTA活動は連絡網含めて「出来る人がやれば良いじゃん?やるべきことが、がっちりやれれば良いんだし」の、終わり良ければ総て良し、タイプの人たちがたくさんいたおかげで、役員でもめることも連絡網でもめることもなかったのである。アナログとデジタルをうまく使った結果の話であって、「デジタル仕事はできないよ」と言えば、「私、それできるからこっちのアナログ仕事してよぅ」なんてことが普通にできたのだ。

なのだが。


 椿会室の事務関係、魑魅魍魎だった。

 

 脱線話を元に戻すと。


 その日、広報以外の各部の人たちも集合してて、皆忙しそうに仕事をしていた。


 広報部の全員活動日は土曜日。フルタイムで働いている人が多かったし、土曜日休みではない人に関してはその人が休みの日に学校行事があれば、優先的にその人に取材仕事を振り分けた。学校行事が入っていないときは、基本の編集作業をやってもらって終了。学校に来る必要があるならそうしてもらったけれど、編集作業の中でも、校正作業なんかはメールでできるので在宅作業にして出席はなし。

 つまり、見えない部分の仕事が結構あった。

 そして家でできることは家でしておいてね、なんてシステムを取っているのは広報部だけではない。


 みんないろいろな事情を抱えて仕事をしながらPTA活動をしている。


 椿会開室は週に4日しかないから、ジェニーさんとエクセルさんはフルタイムで働いって土曜日日曜日が休みの仕事だから、土曜日以外に通うことはできない。

 私は基本、不定期の仕事をしているから平日でも動くことはできるので取材要員として学校に通うことになる。それでも、自分の仕事が入れば学校には行けない。できるだけ、土曜日の他に一日は学校に通えるようにスケジュールを調整していたけれど、その一日はほぼ取材だ。

 それが、特別特殊だとは思っていない。


 そりゃ、皆さん仕事抱えているんだもん、仕事しに来ているわけで遊んでる人はいない。働いている人だっているから、週に一度の活動しかしない部だってある。

 ジェニーさんもエクセルさんもワーキングマザーだから土曜日は活動タイムだ。

 開室日には毎日出勤してくる人もいれば、そうじゃない人もいる、それがPTAというものだし、「出勤」がなくたって、在宅でできる仕事はみんなに振り分けて仕事をしてもらっていた。


 だから、各部の部員の出席者が、かなり集まっていて、人があふれかえっているような状態。学校から会議室を借りて、各部が活動しているようなものだった。


 集まってくれた部員たちが編集作業している間、ジェニーさんやエクセルさん、私もだけれども、作業が円滑に進むように気を配りつつ、まだ集まらない原稿を確認するべく、PCに飛びつこうとするタイミングを計る。

 そう、PC争奪戦の始まりである。


 編集作業未経験の部員達には、まず私がどんなものか簡単に説明して作業をやってもらう。だから私はほぼ、戦力外。


 ジェニーさん、エクセルさんがタイミングを図る。


が、しかし。

他の部が使っている。


 5分後トライ!


が、しかし。

他の部とは違う他の部が使っている。


さらに5分後。

今度は他の部とは違う他の部と、その他の部とは違う部が使っている。


さらに15分後。

一番最初に使っていた、他の部が使っている。


おわかりだろうか。

つまり、PTAで使えるPCは、1台しかない。


PCは、1台しかない。


外部との交渉が必要なことは、メールとファックスと椿開室の固定電話一回線。


椿会の全部署に対してPCは1台である。

もちろん、メールアドレスも1つしかない。


大事なことなので、胸を張っていいます。


PC1台、アド1つ。


事務室の謎はつづく。



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