第15話 キイテナイ  その2

キイテナイ事件は大きく2つ。

今回のキイテナイ事件は二つ目のお話。そしてこれは学内広報誌のお話ではなく、椿会として子供たちの文化祭をサポートするというお話です。


 ひらったくいうと、文化祭は各クラスに「出し物」を決めさせて、「出し物」によってお金を一律予算配分してあとは子供たちに自由にやらせて、はいおしまい、が普通だと思っていた。

 だって、私の周りのママさんたちはそう言っていたし、私自身も文化祭は各クラスの予算はいくらいくらね、禁止事項はこれねって学校通達がありました。話し合い中や作業中は監督の先生が常駐していたけれど、教材研究やったり、試験の採点やったりと担任といえども、加わることナシ。だったから。


 それに比べると、ムスメ・ハーンの学校ははるかにかけ離れている。さすがお嬢様学校ねぇ、くらいの感覚だ。


 模擬店に関しての規定は、出店できる学年制限や人数制限があり、出店数もその内容も制限されている。出展内容が重複することもなく、「競争とは?」状態の4店舗認定。

 模擬店の内容は、「既に製品化されてあるもの」を販売し、食堂化した「教室内」で食べてもらう、それだけに尽きる。それ以外は認めないというもの。


 椿会が口を出すのは、この模擬店の「金勘定」と「衛生管理」である。

 衛生管理はわかる。学生が手が回らないことは自明の理のような人数で運営しているから。


 問題は、この「金勘定」部分。

 商品を販売することに関しては、事前に学校側と物品販売会社の間で数量交渉が行われる。これは模擬店担当教師と会社側との交渉。販売数の決定はこの担当教師と模擬店運営担当学生にある。(椿会に口出しする権利はない)

 椿会は、この商品の搬入立ち合いと代金支払いという、何とも変な分担になっている。

 そして、椿会側から、一商店につき、会計担当者として副部長以上の人間が会計担当者として張り付き、売り上げを一時間ごとに集計し、本部に現金とともに報告せねばならない。


 なんじゃこりゃあ


 コンビニの自動集計システムかい!

 いや、人間手動集計システムだけどさ!


 いろいろ言いたいことはあったが、まぁ仕方ない。本部から割り振られた仕事なので唯々諾々と従う。従うしかない。


 まぁいいや。


 私とエクセルさんの担当はアイスクリームになった。


「はい、これね」

と文化部の部長さんから渡されたのは、去年の、椿会からの申し送りファイルである。


 去年のアイスクリーム販売に関しての歴代のノウハウや、反省などなど、いろいろ書かれている。


 アイスクリームはその場で食べる分のみの販売。

 ほかの場所で食べてはならない。


 教室内に手洗い場がないので、そういった場合の衛生管理の話やら、販売場所と食べる場所が一緒になるので、動線をどう確保するのか、などなど。学校側からのルールも多い。

 面白いのは、在校生の違反者がいた場合は、その場で没収するとのこと。

 先生到着前に食べちゃうよねぇ。



 二日間の販売予定数は、15ロット、総数900個が一日目、二日目は12ロット総数720個。ワンロット60個単位の発注となる。それは去年とおととしの販売と同じだった。


 一方、去年の販売実績と売れ残り実績は椿会に報告書として残されている。

 初日の販売数初日793個、二日目680個。


 げっ、去年実績で初日に107個、二日目で数を減らして40個も売れ残ったのか。で、これはどこに行ったわけ?

 残数は椿会が引き取り、ってことは?


「ああ、椿会と先生方が自腹で買い取ったの。去年は数が多くてね、大変だったわ。まだ冷凍庫にあるわよ、ずいぶん減ったけれど、食べて良いからね」

 とは事務さん。

 言葉通りに冷凍庫を開けてみれば、およそ一年越しにが数個転がっている。

 この正体がなんとなくわかった。去年からここにいる遠慮のかたまりなのね。


 ということは、単純に今年は減らせばよいわけだ。

 単位はワンロット60なので、今年は初日840で良いよね。二日目はそのまま720で良い。

 去年はね、まれにみる暖冬というか、暑い夏というか、そう言う年だったから、11月末の開催でも売れたんだよね。でも今年はさ、近年まれにみる冷夏で雨が多い年なのよね。長期予報も寒いですって言っているわけで。


ぜーーーーったいに売れ残る。



 それから数日後、学生からの食堂の見取り図やら、販売計画が届いた。回覧形式の連絡用の交換ノートみたいなものと思ってほしい。


 当然、模擬店担当の先生もこれに目を通してハンコを押しているし、コピーは学生たちと先生と椿会に保管されているので情報はシェアできている。

 椿会から具申するときもこれが元になる。バージョンアップするたびに、書き加えたことを含め日付を記入してゆく方式。


 学生の報告

 営業時間は学校の規定通り、一日5時間、食堂の座席は35で計画。


 担当教諭の書き込み

 アイスクリームの種類についてはどうなってる? 去年と同じ種類と個数で注文して良い?


 椿会(私たち)の書き込み

 アイスの個数については、去年と同じでは売れ残りが多すぎるので減らして発注してください。去年の発注実績は一日目900個ですが販売実績は一日目793個、二日目は720個発注実績で680個販売です。売れ残り数が多いと買取になるので1ロッド分を減らして、一日目840個、二日目660個あたりが良いと思います。(赤線で強調してある)



 はぁぁぁぁ、とため息をついた。

 ちょっと算数の話。

 営業時間は5時間と決められている。そして食堂の座席は35席。

 初日、900個のアイスを完売させようとすると、席数から割り出すと1時間当たり180個販売しないと完売しない。

 35席だから、5回転しなければいけない計算になる。つまり、一人当たりの食べる時間は10分弱ということになる。結構強気な計算だ。

 もっと言えば、アイスを手に取ってから席に案内されて座って食べ終わるまでの時間が約10分ということだ。

 満席が5時間、客滞在は10分ほど。朝10時から15時まで。

 二日目、720個のアイスを完売させようとすると、一時間当たりの販売数は144個の販売。35席だから一人当たりの食べる時間は15分くらい。ただし、営業時間は終わりの後片付けを含むとされているから、実質営業時間はもっと短い。


 無理だろ。危険だろ。文化祭二日目は客足が落ちるし、客足が落ちなかったとしても営業時間が短い。

 どこで食べても良いです、投げ売りー!!!!!ってやれば達成できるかもしれない。

 けど、誰がどう考えたって無理!

 5時間、開店からずっと満席なんて考えられる?

 天気良くって、カンカンに暑かったら売れるとは思うけど。

 「そうよね、毎回毎回大変なのよ、引き取りが!」

 事務さんのぼやきにも拍車がかかる。


 連絡ファイルで席数と滞在時間から割り出して、適正な発注数を確保するようにアドバイスした。


 


 私、エクセルさんと相談してわよ。



そうしたら。

ガン無視しやがりました。学生も、先生も。

ガン無視です。


学生と担当教諭の書き込み

「椿会さんへ。去年と同じの発注数で良いと思いますので、そのつもりでいてください」


商品搬入と同時に支払う予定なのでそう連絡してました。


「もう一回考えて!減らさないと売れ残ります」

 発注締切日前に、担当学生と先生に面会してお願いしました。


連絡ノート書き込み(発注締切時間後の報告)

担当教諭

「一日目が900個、二日目も900個で~す。椿会さんの搬入担当者と会計さんに連絡しておいてくださ~い~」


あーなーたーにーはー、目が付いてるんか? 頭が付いているんか、耳が付いているんか? 脳筋なのかそうなのか先生! 教科関係なく教師は脳筋なのか、そうなのか、やっぱり脳筋なのか!

それともこれは学校特有の理不尽なのか!

(阿鼻叫喚の椿会の様子を実況してみた)



椿会含め、我々は

キイテナイどころの話ではない。


そして当日、二日間とも雨が降った。

二日間とも最高気温15度、最低気温8度前後。

前日の気温の予報が出た段階でジェニーさん了解のもと、広報部の部員たちに緊急メールを飛ばした。ジェニーさんは他部の部長に頼んで全部員あてにメールを飛ばし、お手伝いに来ていたクラス委員さんには口コミで、アイスを食べに来てくれるようにお願いした。


 11月の雨のさっむい日に、アイス食べろなんてどんな苦行なん? 新興宗教でもあるまいに。


 実績からいうと、模擬店販売はご想像の通りである。店頭販売実績で言うと、例年になく「売れなかった」が、「保冷バック部隊」の活躍によって、在庫数はゼロ。何とか何とか完売した。


 誰のための模擬店なんじゃろうかのう?

 そうか、これは理不尽か。天気も理不尽だ。


 ハーン家の冷凍庫に鎮座した10個余りのアイスクリームは、落ち着き先を見つけてようやくほっとしたような顔をしていた、に見えた。

 だが、

「今度は失敗しないでね」と哀愁をただよわせながら、私とムスメ・ハーンに語り掛けている。


 反省を踏まえて、エクセルさんと一緒に反省文というか、改善書を提出した。それをジェニーさんが活用してくれたのか、どうかは知らない。ジェニーさんが口にしてくれたって、あの理不尽会が「そうですか」と簡単に言うはずがないことを知っているからだ。



 翌年も、アイスクリームの発注数は900と900だった。


 椿会も理不尽だが、脳筋先生も理不尽である。

 でもその理不尽をどう潜り抜けてスキを突いてゆくか。


 なかなか、現実は面白い。


 以上

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