第9話 天の声事件
今回はチョー大事件発生。
簡単に言うとね、オバ・ハーン、原稿依頼をしたものの、タイプミスで原稿の分量間違えて大失敗。
気が付いた時には依頼はしているけれど、原稿は到着前、ということで、ちょっとでも少ない文字数なら助かるなぁ、とか思っていた。
原稿到着を待ちながら、該当部分の紙面割をはらはらしながら見守って。でも、部員さんががんばってくれて、400字で全文掲載できますよ、って返事が来たの。
当初は、適正文字数350字だったんだけど、私のミスで400字。
痛恨のミスだったわ。
その紙面割作業の後で依頼していた原稿が届いた。
原稿は580字来たのよ。どどんと。
はぁ?でしょ?
すっごくありがたいんだけど、ちょっと戸惑った。
いっくら編集の段階で部員さんが頑張っても、580字はもうどうにもならない原稿量。これは紙面割にも影響するので、編集作業しながら切り落とすか(抜粋するか)なんて話してて。
でも原稿を書いてくれた先生の許可なしにそんなことはできなくて、まずは元締め先生にお伺い立てないとねぇ、でも今は授業中だよねぇ、土曜日だから放課後少しくらいは在校するよねぇ、状態になった。
当の元締め先生が来たのはその編集作業の真っ最中で、お昼ご飯が終わった一時ごろ。間違いない。
だってね、ナントカスクールとかで子供たちは下校になってるの、短縮授業で。
で、その場で、念のため、元締め先生に400字くらいに抜粋しても良いですか?ってお伺いを立てて、OKもらった。
そこまでは普通の話。私のミスはリカバーできた。良かった。
で、土曜日入稿したの。15時くらい? これで版下(印刷前の原稿)が出来上がってきて、校正や調整かけて版下完成、1ページ分、という流れになる。
問題発覚は月曜日の早朝。ウチの部員の一報をエクセルさん経由で。
「学年便りの原稿がそっくり広報誌の原稿なの」
は?学年便りで先に発表しちゃったの?
それって先生側のミス?こっちのミス?
同じ原稿だと先生はわかっていてこっちに出したの?
意味が分からなくて言葉がなかった。
転載することは否定しない。先生忙しいもん、そういう時だってあるわな。
それでも、
こっちでも使うよ。
その一言が何故言えない?
混乱のモトになるってこと、わかんないかなぁ。
これって学校の常識?
まぁ、常識云々は横に置いておいて。
寄せられた原稿を使ってよいのか、間違いなのか、コトの審議をしなきゃウカウカこの原稿を使えない。
さぁ、こっからが大変だ。
まず、本部にお伺いを立てる。
転載OKなの?いいの、いいの、いいのー?
掲載GOなの?いいの、いいの、いいのー?
本部回答(回答者ダースベーダー)
木曜日の1通目。
GOかなNOかなー。
GOとも言えるしNOとも言える。
みたいな、良くわからん返答が来た。
政治家か、あんたは。
本部とやり取りしているジェニーさんも困惑するような内容で。先生とのやり取りがあるから即答できるわけはないとはわかっていたけれど、時間かかることかかること。
ようやく木曜日にこの返事が来たわけだが、続いて別立てできたメールには驚いた。
女ダースベーダからの直接の「お呼び出し状」
「土曜日に、ちゃんとお話しましょ?会議と会議の間、昼休みに」
バーン・バババーン、ババ・バババババーン
頭の中でダースベーダーのテーマ曲が鳴り響く。
最強のベーダーちゃんモードが登場するのか?
呼び出しって、校舎の裏なのか?
だがしかーし。
そんなことに怯んでいられないのが「締切」と言うマジックである。ドーピング剤である。いや、麻薬だ。あれはブラックホールに落ちちゃう麻薬だ。
「締切」はわれら編集部員にとって最強の、キラキラした麻薬でもある。
締切はキラキラしている。キラキラ宝石よりも、子供たちよりもまずその母親を魅了するイケメンスーパー戦隊よりもキラキラしている。繁華街の欲望を隠したキラキラネオンサインよりも、だ。
あれは麻薬である。勝てるのは泣く子と現金くらいか。
それから比べると、ダースベーダーはキラキラしていない。キラキラしていないから麻薬じゃないし、魅了もされない。ネオンサインにも負ける。ワタシ、全然怖くない。ペンは剣よりも強しだ!それより締切だ!
いや、これは私の頭の中だけの話なんだけど。
ダースベーダよりも怖いのは締切なので、ベーダーちゃんは怖くない。
(アブナイアブナイ。かつての、
そういうわけで、ドーピング「締切」の効果をうけた私は俄然、この事態を乗り切る方向に向けて頭をシフトチェンジする。
使命は締め切り厳守だ。ひいては発行厳守だ。ミッションは学内広報誌だ。
ベーダーに何を言われても良いように、何が起きても良いように、あの580字の原稿を使ってそのまま掲載バージョンから原稿使用不可能になった場合の差し替え原稿の文章まで数パターンの対処原稿を作る必要があると判断して半日ほどでそれをほぼ完成させる。
おそるべし、ドーピング「締切」効果。
土曜日にそこの部分だけ対応すれば、このページの版下はほぼ完成する。完成すると全体の進捗が上がる。
土曜日は「会議」が入っているから、あー、明日の取材分の原稿をどうにかしなきゃ、だな。締め切りは来週だけど、写真セレクトして大まかな原稿上げたら土曜日に版下に持っていけるか?そうすると遅れ気味の作業が前倒しできるよな。
なんて、ベーダー対策も考えながら、金曜日の取材の準備もしなきゃならない。そういった大変な時期だった。
そして、土曜日。この日は会議があるから会議と会議の合間、昼休みに「ちゃんとお話しましょ」だったわけだけど。
いっそいでお昼ご飯をかきこみ、指定時間に指定場所に向かう。編集作業をしている部員には悪いけれど、こんなアレコレ部員の前でやりたくない。士気にかかわる。
バーン・バババーン、ババ・バババババーン
うーん、さすが。でも私、バーンスタインの方が好きね、と登場するベーダーちゃんに対して余裕をぶちかます。
映画音楽も良いけど、金管楽器バンバンの交響曲系バーンスタイン先生の「音」が好き。ベーダーちゃんは役不足だわ。とかなんとか頭の中で思っていた。
「じつはですね、いろいろお互いに齟齬がありまして」
とベーダーちゃん。意味わからないんですけど。どこに齟齬がありました?
「いやぁ、先生から締切に間に合わないから、別の予定に使う原稿なんだけど、これをいいように使って、広報に掲載してっていう指示を事務さんから私が受けてて?」
疑問系ですか、そこ。しかも、受けたのはベーダーちゃん?
「忙しくって伝え忘れちゃったみたいで」
メモ取れよ。重要だろうが、そこは。そして1通目のメールの返事の時にどうしてそう言わなかったんだ!
心の中のツッコミは忘れない。
つまりは、そこからはじまった、チョー尻切れトンボのトンダ原稿事件になったのである。
何もいいたくないほど怒りだけが残ったのはいうまでもない。
いや、それもあったけど、一応だまっていた。ほら、ベーダーちゃんは組織上、私たちの上司なわけだし。
そして、原稿は編集部員の努力のたまもの、400字で掲載されることに決定した。ただ、「学年だよりより抜粋」という文言を入れてくれという「天の声」(ジェニーさん発)があったので、ちょっと余分な接続詞には退場してもらった。ごめんよ。あった方がより臨場感があったのにね。
つーか、連絡・相談・報告は絶対だー!!!!!って、普段からのたまっているんだから、ベーダーちゃん、連絡は早くしてくれ。
そしてこの1週間、ベーダーちゃんの「お呼び出し」に至るまでのアレコレに、胃をきりきりさせたジェニーさんの「お怒り」が、あの「天の声」だったことは言うまでもない。
ワタシ? ワタシは呼び出し状プラプラさせながら「校舎裏まで呼び出す度胸がないんだからベーダーちゃん恐るるに足らず」の心境ですよ。
「だってママが怖いのはパパの怒りと締切なんでしょ?」
とはムスメの言葉。
はい、その通りです。
見抜いているあなたが最恐です、ムスメ・ハーン。
以上
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