第10話 会議とは

 前回、第9話ともリンクしている「会議」のお話です。

 そして「会議」ですので長いです。


 通常のPTA活動においても、報告・連絡・相談は必要なわけで、会長以下本部三役と、各部部長が出席する「大本営会議」と、会長以下各部副部長までが出席する「全員集合会議」が定期的に開催される。

 両者の差は、副部長が出席するか否か、である。


 その土曜日、大本営会議は午前中90分予定、昼休憩をはさんで午後からは全員集合会議となっていて、1日で終了させるタイトなスケジューリングだった。

 で、両方の会議の差が、副部長の出席というくらいだから、そこまで区別しなきゃならんほど重要な会議なんだ、と思った。すくなくとも、ジェニーさんもエクセルさんも私もそう思っていた。思っていたのだが。




 午前中、ジェニーさんはちょこっと編集会議に顔出しして、本当に必要な伝達と指示を出して会議に向かわれた。颯爽と。やっぱかっこいいなぁ、仕事が出来る女は違うなぁ、ってくらいだった。

 部員たちとは、後ろ姿に惚れ直したねぇ、って冗談を言いつつ、和やかに作業が進む。


 例の原稿(第9話参照)の絡みもあるし、取材した記事の編集もいろいろあって、私たち部員も山盛りになっている仕事を片付ける。丁寧に、慎重に、そしてスピーディに。


 印刷会社の人(通称、印刷会社氏)が13時に原稿を取りに来るから、午前中は超特急状態。もしもその時に私たちがいなくても原稿を渡せるようにと、士気は高い。

 皆すばらしい。ビバ!編集部員!


 思った以上に仕事が進んだので昼食を取る時間が出来そうだった。印刷会社氏が来る時間に合わせて、原稿事件の決着をつけるべく大本営ベーダーとの話し合いがその前の12時30分とセッティングされた。幸いにも、体育館の裏ではなかった。

 わが校の体育館裏は明るいゴミ捨て場だが。


 作業の進捗は順調、とは言えないけれど、それでも平均すると全体的な作業は遅れてはいないけれど、少し前倒ししたいというくらい。逆算した締切からすれば、作業進捗はまずまずだった。


 戻ってきたジェニーさんと、士気が高い私とエクセルさんでベーダー事件の決着をつけるべく、決戦に挑み、そしてがりがりと神経を削られた。

 がりがりと、容赦なく。(これが第9回の話)


 そして13時少し前、印刷会社氏がやってきた。学校内の他の印刷物を扱っている関係で、このあとまた校内の関係部署を周回してから、もう一度14時半か15時くらいにここに戻ってくる予定だと。とりあえず、今までの分は渡して、戻ってきたときに原稿があればそれを回収して帰るという段取りになった。

 部員は版下校正に手を付けるよりも、版下作成のほうに注力しているので当然と言えば当然だが。


 それとは別に、ベーダー事件の一連の原稿が出来上がっていない。多少の修正が必要だし、「天の声」もあったわけで。

 できればキリ良くこの原稿を印刷会社氏に渡したい。文章を「トリミング」して注釈を入れる作業は、当然最初にミスをした私の仕事ともいえた。

 せっかくスペースを作ってくれた部員に報いたいもの。


 けれど、自分が出なきゃいけない会議がせまっている。いろんな作業をしながら原稿を書きながら部員から相談された原稿を手直ししたり、口出ししたり。


「図ると測ると、計ると謀るを使うときは間違えやすいから誰かに諮ること」

 なんて言いながら、

「んがー、これぞ締切」

アドレナリン放出しながら原稿を書く。乗ってきた乗ってきた、波に乗ったよ、ワタシ。



「会議の時間だから行って。印刷会社さんには大変申し訳ないけど」


え?印刷会社氏は放置プレイですか?

今一番ピークが来てるのに、会議ですか?

んももももももうううううう!

て、気分で会議に出た。



 レジュメが配られて、淡々と話が進んでゆく。レジュメを追いかけながら会議に出て、メモを取る振りしてノートには原稿のコメント考えている。


 隣でジェニーさんとエクセルさんが何をやっている? そんなにメモすることある? と覗き込んでくるが、私の頭は原稿ちゃん。


 そう、ナントカスクールの報告会だとか、歓送迎会の感想だとか、活動報告とか、実にくだらない内容なのである。いや、くだらないは失礼だが。ちょっとなぁ、と思ったのだ。

 それがとても建設的ではない。しかも建設的な意見を言う場でもないような会議内容というか、雰囲気。


「こういう困ったことがありました」

「ふーん」


で、終了である。建設的な意見はないんかい?と思うのだが、実はその意見も出せないほどの報告なのだ。


 その困った内容の報告というのが、

「駅から学校まで、子供の足でどれくらいの時間がかかりますか?という質問をされちゃいました。答えられなくて」(てへぺろ)


????????(てへぺろ、って歳か、双方ともに)


 それは、懇切丁寧に、質問者の人の、自分の足で歩いて何分、自分の子供と一緒に歩いて何分、ってやったら良いだけの話で、そもそも質問するべきことじゃないだろうが。第一、学校案内に、駅から徒歩何分て書いてあるじゃん! あなた、今日駅から歩かなかったの? とか思わないのか?


、って何でいえないの?



「この塾に通っているんですが、どんな勉強をしたら良いのか教えてください、という質問がありました。答えられなかったです」


???????????


 あたりまえだろう!アンタの子供の成績を知るわけじゃないし、そういう質問を一介の父兄に質問するほうもおかしくないのかって言えよ。在校生の父兄と話をするという企画に、そんな質問するほうがおかしい。それより進路指導の先生と話をしてくださいとなぜ言えない? 受験に関する諸々は先生担当の進路指導に回せ、わからないことは先生のところに行けという通達があっただろうが。


 ああ、ツッコミどころ満載な質問と、ツッコミどころ満載な答えだ。割れ蓋に綴じ蓋、目くそ鼻くそ、何なんだこの時間。


 はっきり言ってやれ。


「自己解決するような質問を、学校の一介の父兄にぶつけんな。建設的な質問しろよ」


と思った。



 でもまぁしかし、私もこそこそこの年になっても内職しながら会議に参加しているわけで、五十歩百歩か、と思いながら耳だけは会議を追いかける。


「PTA保険に入りましたので、説明します」


 レジュメには、「保険に入りました」の一文だけ。は?どういう保険なのか、申請条件やら保障内容とか大事なのに、レジュメはその一言だけ?

 重要なことを書くのがレジュメじゃないのかい?


 保険が降りる条件も金額も口頭報告。


 はぁぁぁぁぁぁ、レジュメの紙の無駄だ。会議内容の「目次」をレジュメと言うな。会議に間に合わないなら別紙対応しろ。(レジュメのメモは保険の項目以外、真っ白である)

 コピー枚数削減に協力を、じゃないんだよ、「必要なところに紙つかえ」だよ。



「広報部の報告をしてください」


 あー、これこれ。この報告があるから私席を立てないのよ。


「カメラの三脚か一脚の購入の話が出ましたが、どうして?」


「ああ、じつはこうこうあれあれかくかくしかじか、っていう撮影条件がありまして。例えば、二階から一階を撮影するにはカメラ位置が高い位置にないと撮影できません。説明したとおり、ほぼ、アングルがプロと一緒にとっている状態ですから、こちらも同じ状態にならないと写真がうまく撮れない状態になります。ところが、三脚があればカメラ位置が高くて安定するので撮影できるんですが、備品にはなくて、私は私物を持ち込みました。ほかにも、カメラが安定するので便利です。メリットがあるんです」


 この時点で、卒業アルバム制作用の写真撮影プロは三脚を使った、私は私物の一脚を持ち込んだ。バリエーションが増えるので撮影には必要じゃないかと思う、と説明した。もしも三脚や一脚がなかったら、例えに出した撮影条件の場合、撮影するには身を乗り出して、非常に不安定な格好で撮影しなければならず、写真がぶれるのだと説明した。

 だから、運動会などのイベントや、今後の活動でも必要なので三脚の購入を検討してほしい、取材に行ったことで感じた改善点というか、要望です、という話をした。


 ほかの人たちはうんうん、それ良いね、賛成するわ、状態だったのだが。


「え?そんな危険な撮影だったんですか?」


 ダースベーダー爆弾が落ちた。直撃である。






言葉を失った。


「あなた、人の話聞いてましたか?理解力ありますか?」

(例え話で身を乗り出すような感じ、ってことは言いましたが、私自身はアクロバットして撮影したなんて一言も言ってない)

真顔で聞けばよかった。後悔した。


ココロガ、ポッキリオレタノモ、タシカダッタ。


ワタシ、コノヒトトイッショニ、シゴトシテユク、ジシンガナイ。


ソウカ、ワタシガ、ウチュウジンニナレバイイノカ。


スベテ、ボウヨミデ、トーソウ。


クトウテン、オカシクナイカ、マアイイカ、モウムシダ。ムシダ。ムシダ。



 私のポッキリぶりに、部長があわててフォローに入ってくれた。

 部長が例え話ですから、とやんわりと言ったのに、「撮影が危ない撮影だった」とそこにこだわる。

「いやいや、そうじゃないって、たとえ話でしょ? オバ・ハーンさんは私物の一脚を持ち込んだといったでしょ?一脚って、一本足のカメラスタンドのことですよね?」

 見かねた抹茶さんが助け舟を出してようやく理解してくれた。

 そうか、三脚を知っていても一脚を知らないのか。


 私がまだ立ち直れないまま、次の議題に進んでゆく。

 そして、本日決定的だったのは。


「文化祭に関して、PTAから学校側に提案していきたいと思っているので何か案はありますか?」


 そんなの事前に周知しろよ、考える間もないじゃないか。羞恥プレイか?


 それでも、雑談ぽく、こういうの良いかも?なんて意見がちらちら上がる。


「そういうのはお金がかかるから無理です」


「そういうのは学校側が認めないからだめだと思います」


 て、そう言ってことごとくベーダーちゃんは却下していく。


ワケワカラン!


「魅力ある学校づくりに必要だからと思ったからです。協力してください」

そう言いながら、ベーダーちゃんはことごとく却下していく。


 魅力ある学校にしたいと思うなら、学校に対して耳の痛い提案することも必要なんだよ、良好な関係を維持したいというのは、どういう意味なの?

 触れられたくない部分もガン無視して、学校側がやりたいようにやらせるのがPTAの活動の意味なの?

 時には、耳の痛い提案を物申すことも必要じゃないのかい? その先、学校側がどんな反応をするのかはわからないけど、少なくとも「学校を良くしようという気持ち」は一緒じゃないのかい?

 耳の痛い提案を言ってくれる保護者がいるのに、それを職権で抹殺していくばかりで建設的に物事を考えない(学校に迎合する意見しか採用しない姿勢)というのは、はっきり言って組織の私物化だし、硬直化を招くだけか、硬直しすぎてもう末期症状かどちらかだ。


 この場を仕切っているベーダーちゃんの立ち位置を考えたって、一旦みんなの意見を飲み込んでから学校に提案しようという気は、全くない。


 実現しようがしまいが、そういうことじゃなく。


 学校の意向がこうだとか、ああだとかは関係なく。


 とりあえず、全部吸い上げて、それから学校側とこういう話が出ましたよって、提示できないのかなぁ?


 どんな小さな意見であっても取り上げて検討しようという意思がない。


 出された意見をフリーディスカッションでまた建設的に発展させるという手法もある。それすらもしないというか、出来ないというか、だめですね、無理ですね、っていってばっさり切っちゃうんだもの。職権力のもとに。


 一生やってろ。そんなんじゃぁ発展性はないよ。


 学校側には、ダメモトで提案するんだからダメモトでOKくらいの余裕がない。意見を発展させようという意思もない。学校の方針と相反するからやめようというそれだけである。



 はぁぁぁぁぁ

 複数意見のうち、通したい案件が5個並んでいたら、プラス2つくらい否定的な意見を混ぜるって事をしろよな。


「私は会社でも管理職ですから」

 って、胸を張ってココ(椿会室)でも威張ってらっしゃるが、いやいや、私は信じないぜ、と言いたいくらいの職権乱用ぶりがある。

 もしかして、みんな定年退職しちゃったから順番に年功序列で役職が回っている会社(失礼)なのか? と思ってしまうほど。


 交渉のために賛成意見と反対意見を混ぜるとか、考えないの? というか、出る芽を最初から全部刈り取っちゃって、意見がないとプンスカ怒るのはやめてくれ。


 肝心なのはみんなの「こう思ってる」ってことを引き出すのが重要でしょ?

 完成された意見が欲しいなら3分で出せなんて無茶振り言うなよ。しかも時間を与えない横暴さだし。私たちはカップラーメンとは違うねん!



 もう、ここにいても仕方ないと判断して席を立つ。


 意味ないじゃん。

 一人ぽつねんと放置プレイされた印刷会社氏と黙々と仕事してたほうがまだやりやすいよ。

 彼は、会話が続かないからちょっととっつきにくい人なんだけどさ。

 時々さらりと毒を吐くから内心くすっと笑って「見てるな、こいつ」って思うんだ。いい味出してるんだ。そして意外と仕事師なんだ。的確ちゃん。


 彼と仕事してるほうが、建設的。


 そして、本題が終わったので、編集作業があるからと、われわれ副部長は部長を人質に差し出して会議を抜けた。



 その部長が会議終了後、作業中のわれわれの元に戻ってきて一言。


「午前中とほぼ一緒だったんだけど」


………ジェニーさんは、なまじ、仕事が出来る人ゆえに、その背中の哀愁は凄まじいものがあったとは、いえないのでここに書いておく。消耗戦に人質として出てくれてありがとう。


 つまりはあれだ、リピート・アフター・ミーか、ウィー・ウィル・バックか、いやちがう、バック・トゥ・ザ・モーニングだ。

 その日の仕事終わり、感謝を込めてジェニーさんに甘いコーヒーをごちそうした。

 疲労には、甘いものだよね、ってのは、ジェニーさんの言葉。


以上


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