第3話 続・キイテナイ その1


 抹茶さんが興味津々の話題、「あー、もしかして」の心当たりがある。ありすぎるほど、ある。生物の、例の授業のことか?

 ごめんムスメよ、聞いていたかも案件だわ。 


「オバさん、お嬢さんから聞いているでしょう?」

「あー、だからね、とある授業がウルサイという話は聞いているわよ。日によっては半数以上が寝ちゃっていたりするの。だから先生が注意する時間がすごく長くて、それに時間を取られるから授業は他のクラスに比べて遅れているのよね。試験前は既定の単元を勉強しないまんまで受けることがあるくらい。先生はうるさい、寝るな、とは言うんだけど、娘に言わせれば授業のやり方に問題があるからうるさいし、皆寝ちゃうんだよって。家では何度も言う話だから、じゃぁ先生に意見すればって言ったことはある。こういうやり方がうるさくなる原因なんだから、こういう改善すれば静かになるんじゃないのかって、寝なくなるんじゃないかって、対案持っていくのがコツだよ、って話したことがある。そう言えば、ちょっと前に先生と話したとかなんとか言っていたか…」


 実行に移したのか、ムスメよ。一体どんな対案を持って行ったんだ?


「なんかねぇ、先生が注意をすることによって授業が遅れるから先に進めてくださいって言ったらしいの。そうしたらそれがまた注意の対象になったとかで、話があるなら授業後にいらっしゃいと言われて、娘さんは先生のところに行ったらしいわよ」

「ひゃぁぁぁぁぁ」

 ママさんたちが驚嘆の声を上げる。

 ああ、あれか、と思う。


「いや、普通だと思う」

 私は思わず真顔でそういった。


「普通じゃないって」

 コーラスのように返事が返ってきた。

 なぜ?


「だってその先生、授業のしょっぱなから20分か30分くらいエヌの教育放送のビデオ流して、それが終わったら補足説明を書いたプリント配ってこれ読みなさいっていう授業だもの。先生自身の解説は黒板に向かってぼそぼそしゃべって5分か10分くらい。何を言っているのかわからなくて、結局隣の席の子にこれ何なの、って尋ねると、それを先生が注意する。静かになるわけじゃないから、余計注意する、ざわざわしている、の悪循環。そりゃぁ、ビデオ中は寝るし、そのあとの授業がざわざわするわよね、だから注意する時間が長くなる」


 いやいや、そんな授業で「授業」と呼べるのか、生物の先生よ、と私は言いたいのだが。

 そんな授業なら(教員免許のない)私にだってできるではないか。解説プリントと言ったって、教科書の内容に、副読本の該当箇所の重要単語を付け足したような内容だ。それを授業中に黒板に向かって読み上げているだけ。プリント教材と教科書と副読本を見たが、ほへ? な授業だと思ったのは内緒。

 授業内容のエッセンスはまとめられているけど、これ、生徒が理解するかどうかはまた別の話だよね、ってな内容。

 言うなれば、「試験に出る生物用語」をまとめただけ。どう理解するか、どう活用するかは生徒に丸投げ。

 どう理解するのか、どう理解させるのかが授業のアプローチじゃないの? 活用のヒントを与えるのが「先生」職の仕事なわけで。 これ見て読んでおいてね、って、通信教材と一緒じゃん。わからないなら聞きにおいで、と言っておきながら講師職のその教師はコマが終わるとすぐ次の学校に行く。

 質問時間はない。

 物理的に質問できない先生ならば、先生の方式を使ってプリントで完全解説しちゃえば良いわけなんだが、それも穴だらけの解説なのである。(だったら〇川の用語集を使わないのかよ、とかは私の心の声だ※)


「は?」

「それって、娘の話を聞く限り、授業の運び方が悪いわけです、それは先生が改善しない限りみんな寝ちゃうし、おしゃべりしちゃうよって。別に分かり切ったことじゃん。だから先生がキレて文句があるならあとでいらっしゃいって言われたときに、ムスメは嬉々として行ったって話よ。まぁ、論破したって言っていたから先生も思うことがあったんじゃないの?」

 そうそう、そんなことを言っていたなぁ、2か月くらい前。1月に入ってすぐくらいか?


「え、え、え」

「やるぅ」

「何?ビデオ流してあとで解説するだけ?」

「娘の言葉を信じるならそういうことよ。教科書の内容に、副読本の該当箇所付け足したようなプリントを読み上げるのよ、黒板に向かって。だから、どこを読んでいるのかわからないから、隣の子に今どこ読んでるのって聞くでしょ? それが注意の対象。それって、教師がもう少し大きな声でしゃべるか、少なくとも黒板に向かってしゃべることじゃないでしょうに」


「それを、先生に言ったわけ?」

「らしいわよ。ビデオ見せてプリント読むだから寝ちゃうでしょう? だからプリントを虫食いプリントにして作業させるとか、黒板に向かってしゃべらないとか、先生が改善しないと授業は変わらないと思いますって対案出したと言っていたわ。ああそのことね」

「ひゃー」

「あ、そのあと2、3回は変わらなかったんだけど、この間の授業は虫食いプリントになってたって言ってたな」


「勇気あるわぁ」

 抹茶さんもピアノさんもジェニーさんもムスメちゃんに対して称賛の声をハモらせている。

 いや、お三人さんのハーモニーが見事。


 そして、この「先生へのご注進事件」はムスメ・ハーンの武勇伝として後々語られるのである。クラス替えのたびに、「ああ、あのご注進事件の」と言った具合に。

 ご愁傷さまだ、ムスメよ。


 こうして、新部長と新副部長の顔合わせを終え、各部のスリートップたちとの顔合わせも終了した。

 学年をこえての仲間ではあるが、広報部の二人と、各部スリートップの方々とすぐに仲良くなったのは言うまでもない。




 そして余談のキイテナイ事件

 PTA定時総会終了後、会長やら副会長やらの本部役員と、各部の部長や副部長が紹介される総会後の話。

 副会長から各部の部長と副部長の紹介があり、同時に所属学年の代表を務める学年代表なるものの発表もあった。

 今までの学年代表は各クラス選出の「ヒラ」本部委員さんが兼務されることになっている。

そして、

「オバ・ハーンさんには、学年代表を兼務していただきます」

副会長、さわやかに言い切りました。


「!!!!!!!!!!!」

(キイテナイ キイテナイ キイテナイ)

 大事なことなので、心の中で3回唱えました。


 顔はにこやかに緊張で引きつった顔、の演出をしながら、よろしくお願いしますと頭を下げている。さすが、私の外面は完璧である。顔を上げるときは大役終わったん!のほっとしたような顔まで作って。


しかし腹の底では

「そんなん聞いてねぇぞ。よっぱらった勢いで忘れたか、私」

と怒り狂いながら自分の記憶の手帳を猛烈な勢いで過去に向けて捲りあげている。を繰り返していた。


 その後、紹介してくれた副会長が「緊張してたでしょ?」なんて気を使って声を掛けてくれたんだが、愛想笑いしか出来なかった。

 ごめん、緊張の顔じゃなくて、あれは「怒りの」顔である。心配御無用である。自分に怒り狂っていただけなんだから、副会長の責任はない。どパニック起こしていただけである。


 そういうわけで、私は晴れて? 広報部副部長兼高校1年役員代表兼高校1年ムスメ組本部委員となったのである。



 で、広報部前半の出版日は7月半ばだって、正気ですか?

 私的に、6月末に印刷入れないと仕上がらない計算なんですが。 今、5月中旬(ほぼ下旬)なんですけどね。

 これ、デスマーチじゃん!


 以上本日の報告終了



※〇川の用語集……某有名出版会社の用語集。「これ一冊で用語の解説と補足ができる、受験教科必携の用語集」なのでオバ・ハーンにとってはバイブルともいえる一冊。

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