第2話 キイテナイ その1


キイテナイ事件は複数あるのですが、当時を振り返ってわかりやすいように時系列に並べてあります。




 前回、よっぱらって仕事を請けた私が陥った落とし穴。

 東ハルちゃんママ改め、東抹茶さんのスカウトトークにより私はその年の「PTA保護者総会以後」にめでたく広報部副部長としての任をいただく予定となった。


 「スカウトマン抹茶」さんによって一本釣りされた私は、保護者総会からの「承認」を頂くまでは「準備委員会」の一人として世間一般にPTAの会、保護者の会、親の会とか称される、この学校では「椿会」の「発足準備委員会」の一人として椿会室での仕事をおおせつかった。


 なぜに「椿会」なんじゃ?

 なぜに「発足時準備委員会」なんじゃ?


 まあ簡単にいうと、椿女子学院だから保護者の属するPTAの集まりは「椿会」なのだ。そして、この椿会の直下にいろいろな部署があって、割り振られた仕事をするのだ。

 私が割り当てられたのは広報紙を作る部署の「広報部」さん、会長や副会長や書記やら会計やら、椿会の根幹活動を取り仕切るのは「本部」さん、在籍生徒の保護者対象としたイベントなどの福利厚生などの取り仕切りに「厚生部」さん、「文化部」さんは、文字通り文化祭に参加してPTA枠のバザーやら、休憩所を運営したりするらしい。

 そのほかに、男親だけの「ファザーズの会」というものがあって、イベントを不定期で開催したり、文化祭での設営、撤収関係の力仕事を担ってくれているという。

 女子の中高一貫校、しかも一学年に6クラスから7クラス編成の6学年というマンモス校なのでPTA組織としても役員として名前を連ねているのは130人はいるという、それなりに大きい「椿会」なのだった。


 だが、この椿会、任期は一年、都合上は4月に各学級から役員が選ばれて、5月にPTA総会が行われて、会長と三役が承認されて初めて今年度の椿会の活動が始まる。それから5月末に椿会総会が行われて各部の部長選出が始まって活動を始めるという「足回りが遅い組織」なので、7月に前期広報誌を発刊しなきゃいけない我々にはこの2か月のタイムラグは非常に活動に響く。


 別に広報部だけの問題じゃないけど、空白はダメなわけで。


 だから「大丈夫なら2年やってくれないかなぁ? もちろん、2年目は別の部署になるわけだけど」作戦が毎年秘密裏に進行している。


 密室政治バリバリじゃんか!


 もちろん、一年で退任することも可能で、無理強いはしないという約束だ。

 そういう背景があるから、正式に次の後任が決まるまで「準備委員会」の名前の元に、各部の引継や、各仕事の準備が行われるのだという。


 電話スカウトから数日経った3月のある日、仕事内容の確認と広報部の部長ともう一人の副部長との顔合わせも兼ねて、私はPTA「椿会」のお部屋に呼ばれた。「お部屋に呼ばれた」のである。


 招集ではない。「お部屋に呼ばれた」のである。


 放課後、体育館の裏に来いというそういったノリの女子高版である。女子高のアヤシイ雰囲気が満載されているではないか。縦カールクルクルの「悪役オネエサマ」が出てくる少女マンガのノリなのか。思わず戦々恐々としてしまう。



「失礼します」

「あ、いらっしゃーい」

 予想に反して、明るい声で迎えてくれたのは、抹茶さん。やはり彼女はその名の通り、一服の清涼剤である。

 はぁ、抹茶は美味しい。

 その抹茶さんは、二人いる副会長席の、一方に座られるんだそうな。もう一人は高校2年生のママさんなんだとか。


 椿会のお部屋は正味20畳くらい。片面収納ロッカーがびっしりと並べられ、机と椅子が整然と並んでいるだけのミーティングルーム然としたお部屋である。

 そこには、現部長や副部長と言った面々と、今日都合のついた新部長や副部長がいて、その中には同じ学年のママさんたちも数人、同じクラスのピアノ演奏の上手な娘をもつピアノさんもいた。去年と今年一緒のクラスだった顔見知りさんだ。ただし名前は知らない。お子様の名前は知っているが。


「会ったことあるかなぁ?一緒のクラスにはなったことないよね、部長をやってくれることになった同じ学年のママさんで、ジェニーさん。それから今中学一年生のママさんで、エクセルさん」

 抹茶さんはそう言いながら二人を紹介してくれた。

「今度副部長を担当してくれる、オバ・ハーンさん」

「あー、知ってます。娘が話してくれたから」

 ジェニーさんはうんうん、と頷いた。何?この反応。

 つか、ジェニーさん、某アメリカ人形みたいにウラヤマシイくらいの背の高さをしている。これぞ八頭身キャラではないか。あはは、私ってチビでブスなわけで。

 対するエクセルさんは、理知的で静かなお方。話せば明るいキャラなのだが、声が落ち着いているので静かな印象を受ける。こちらは優等生タイプの八頭身日本美人か。


「お嬢さん、勇気あるって言っていたわ。この間の生物の時間で先生を言い負かしたんだって?」


 ひー、なんだよムスメ、何かやらかしたのか?聞いてないけど。


「私、知らないんだけど、ムスメ、何かやったの?」

「いや、先生の授業に問題がありますって意見したって聞いたわ」

「何か問題があるなら言いなさい、って先生が言ったから、娘さんがそれならこうですよって言ったらしいわよ。そうしたら、じゃぁ後で職員室にいらっしゃいと言われて職員室に行ったとか」

 ピアノさんがそう言った。


ひゃーーーーーー!

キイテナイ キイテナイ キイテナイ

ムスメ何やったのーーーーー!

この超保守的な「椿」の学校で何してくれてるのーーーーーー!


「ほら、ムスメちゃんはあんまりそういうことを言わない子だと思っていたから、うちの子は驚いたみたい」

「え?何それ?私聞いていないわ。ハレ娘は何も話してくれなかったわ。なにそれ教えて」


 抹茶さん、その話に乗らないでください。

 そう思いつつ、記憶のノートをひっくり返す。

 えええええ、キイテナイよ。

 えええええ、お願いします。もっとヒントください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る