第5話 クオリティ1
このお話は、「準備委員会」の立場である4月初頭から、記事の仮原稿(版下を作るまえの原稿)の準備のお話から始まっています。時期的には4月のお話。
年に二度、発行する学内広報誌には「定番」と呼ばれる記事がある。特に前期発行の記事は定番と呼ばれるものが多い。
つまり、理事長と校長のあいさつとか、各学年の先生紹介は前期の記事の定番である。なぜなら、「学内広報誌は、学校の様子を知るための保護者のツール」だからだ。
タイムラグは生じるが、常に足を運んで学校に来られない保護者のために、保護者には公開していない学校行事を紹介するために「紙面」を割いているのだ。保護者がほかの保護者と共有するために作っている瓦版のようなものだ。
だから、記事作成や保護者非公開の行事を取材させて頂くにあたっては、「先生方」にとてつもない敬意を払う必要がある。
取材を断られることもあるし、先生たちが「自分たちの今後のために」記録した写真データを提供してくれることもある。そんな関係である。ただ、事前にお願いしておく「写真」もある。
それが、4月に学年団の先生全員で撮影する「学年団写真」である。
3月の顔合わせの後、今後、どういう風に動くのか、ジェニー部長とエクセル副部長と相談した。
一つは、みんなが集まってからあれこれ決めていては物理的に無理があるので、先に取材許可を取らなければならないものは取材許可を取り、原稿依頼をしなければならないことは原稿依頼をしておく、ということである。
学年団写真は、学校側の窓口に当たる担当教員に文書で依頼する。各学年団で一枚、映っている先生方の順番と、担当教科やクラス担任などの資料を添えてほしいこと、である。
4月の末の段階で、各学年団からメールで原稿が届いた。
この段階でもういろいろ、の2つの問題が持ち上がったが、これはまた面白いので後述する。
この段階で、結構私たちは消耗している。
で、メールで届いたデータを印刷した段階で、シナシナしてしまった。萎えたのである。
菜っ葉に塩でも良いし、白菜に塩でも良いし、キャベツに塩でも良い。結構頑張って太めの芯がある私たちでもシナシナしてしまった。
それは、ある一学年の学年団「だけ」が、非常に「ピンボケ」写真だったのである。
誰がどう見てもお話にならないクオリティで。確認してすぐ、まだ学年団のすべてが出そろっていない時点で再度データ送付をお願いした。
写真は、新年度初日、桜の木下で撮影したものでシチュエーションは最高なのだが、これがまた目に余るというか、ボケボケすぎちゃって、他の写真のほうが良いと思うんス、他の写真はないんですか? いかがっすか? と、やんわりやんわり、下手に出て下手に出て問うてみて、この写真含め3枚の写真のメール送付を受けた。
ピロロン、と軽快な音と共に開かれたファイルに乗っかってたのは。
どれもピンボケじゃねぇかよ、これどうすんの、な写真3枚。
たとえて言うなら、ピンボケ過ぎて没写真にしちゃうくらい。
顔がはっきりわからないから、顔を出したくないとき、目の上に入れる「目線」が必要 ない くらい。
手元の写真でそれなんだから、少し大きくすることになる「記事用のサイズ」に写真を引き伸ばしたりすればもう、完全なる「ザラザラ紙質の白黒週刊誌の小さい顔の集合写真」状態。
一番映りの良い一枚を写真編集ソフトでかなり加工してあれこれしたんだが、これまたかなり疲れるくらいのピンボケ素材だったからどうにもならなかった経緯もあり、違うデータを送ってほしいと依頼を出したんだけれど、出てきたデータは、それ以上ピンボケの写真で、どうにもならんで賞、という金銀銅のそろい踏み。
他学年の写真と比べてあまりにも見劣りがあるのでPTA椿会の事務さん経由で再度写真の取り直しは可能でしょうかという問い合わせをかけた。
事務さんからの回答。
結論からいうと、ピンボケの写真のことは承知しています。それで出してください。写真の撮り直しはしない。現行の写真で、最良のものを使用して欲しいとの希望がありました。
事務さん本人もこの写真の出来は知っており、いろいろと骨を折ってくださり、交渉してくださいましたが学年団の返事として、「桜の下の写真≪が≫良い」とのことで、撮り直しの協力はいただけない。
そして事務さんの見解として(今後の椿会活動のことも含めて)
ドレスコード含めて全員集合はかなり難しいので集合写真撮り直しは不可能であること、そして、学年団の写真というのは先生から「ご提供」されたものであって、こちら(椿会)がどうの、と強く出ると次回から「協力しないよ」って話に至る可能性もあり、あまり強くプッシュできない。
じゃぁ、このままGOサインですかい?
GOなんですか? そうなんですか?ええ、そうなんですか。
写真提供「学年団」って入れてよいですか?
先生方の写真を、たとえば学校出入りの業者が撮影していたらなその写真が欲しいと思います。棒読みで突きつけてやろうか、窓口の先生に!(実際、卒業アルバム用に撮影しているのだが、使用に関しては不可能 そりゃ、写真屋さんに版権があるからね)
4月初旬の時点では広報部としては動けないので先生の写真に頼らざるを得ないジレンマもある。部長と副部長が判明しているので動けると言えば動けるが、あくまで「準備委員会」のメンバー扱いなので取材や撮影の権限はないのである。
写真提供は「学年団」と入れろよ、ごらぁ
と、脅したくなったのは内緒の話。
もちろん、後日配布された学内広報誌の中でこの「学年団だけは」非常にピンぼけな写真でしたですとも。
苦肉の策で、ギリギリ大きく出せるサイズまでにして、そのほかのスペースは教員紹介に費やした。
だから例年、「〇組、氏名」で終わるところを、「〇組副担任、氏名、担当教科」までバッチリ補足した。
「どうして今年は副担任まで書くんですか? 教科担当まで書いてる! 親切! ありがとう!」
って、新任の先生はじめ、イロイロを知らない先生には驚かれたわけだが、広報部員は親切なのでにっこり笑って「どういたしまして」で笑っていた。いや、目は笑っていないよ、全員。
裏話には「お口チャック」が処世術。
PTA活動って、ホント、にっこり笑ってブラウザバックだわ。
顔と本心が一致しない。心の余裕がないとやってらんない。
そう思う、オバ・ハーンでした。
以上
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