チェスゲーム

私も彼女らと同じころにチェスに出会い、今でも時折、指すことがある。
辛い体験などはなかったが、それでも作中で指摘されるように、チェスを元から行っている友人とは、なかなか出会えない。

対人ゲームであるからこそ際立つ孤独。
知的ではなく知略が求められ、クールではなく「性格が悪い」という描写。

それでも、独りで両方の駒を動かす、もしくはプロの如くストイックにコンピュータと対戦した経験が各々にあるからこそ、一局一局がかけがえのないものになる。

誰が見ても明らかに分かるチェックメイトではなく、気づけば整っていたような巧みなストーリー性は、どこかステルスメイトを彷彿とさせる。

「賭けをしよう」

彼らは何度もこの言葉を口にする。
賭けられるのは、大きなものから小さなものまで。
それでも、すべてが輝いている。

いや、輝いているのはそれだけではない。
彼らの喜びや楽しみ、悲しみ、苦しみでさえも。

爽やかで温かな読後感の素敵な作品です。