14

「それじゃあ、先輩は私とキスがしたいですか?」

「う、うん……」

「ダメですよ先輩。それはズルいです。ちゃんと言葉にしてくださらないと」

「っ……き、キリちゃんにキスして欲しい、です」

「ふーん、先輩はキスするんじゃなくて、キスしてほしいんですね。甘やかして欲しいってことですか?」

「えっ、そ、そんなことなっ――」

「違わないですよ。受け身のキスが好きってことはそういうことなんです。それとも、先輩からキスのリードをしてくださるんですか?」

「うっ、そ、それは……」


 無理だろう。

 無理であることをわかっていて訊いているのだ。


「だからほら、ちゃんと言葉にしてください。いっぱいキスで甘やかしてほしいって」

「で、でも、それはさすがに恥ずかしいし……」

「私は先輩とキスがしたいです。たっくさん先輩にキスをして、先輩を気持ちよくしてあげて、甘やかしてあげたいです」

「うぐっ……」

「さあ、先輩は?」

「っ……ぁっ……うぅっ……!」

「先輩?」

「っ……~~っ!」

「きゃっ!」


 突然、先輩がしがみついてきた。

 私の胸に顔を埋めるようにして、ぴったりと体を寄せてきた。


 おそらく、顔を見られるのが恥ずかしいからなのだろうが、この格好の方が恥ずかしくないだろうか。

 動揺しすぎてパニックになっているのかもしれない。


「あっ、ああぁっ、甘やかして……き、キスしてほしい……っ!」


 先輩の様子は半ばヤケクソ気味だ。


「ふふっ、ありがとうございます。先輩に言葉にしてもらえて、私とっても嬉しいです」


 胸にしがみつく先輩の頭を撫でる。

 指の一本一本に髪の毛を絡めるようにして、その頭を愛でていく。


「先輩がしてほしいのは舌を絡めるキスですか?」

「う、うん」

「淫らなキスがお好きなんですね。私と同じです」

「みっ、みだっ!?」

「ほら、言ってみてください。それとも、淫らなキスが好きなのは、そういうキスがしたいのは私だけですか?」

「うっ、み、いや、え、えっちなキスがして欲しいです……」


 淫らとえっち。

 どちらの言葉がより恥ずかしいかは、人に依るだろう。


 先輩の感性がそうだったというだけなのだが、私的にはそう言われる方が興奮した。


「この前よりも激しく、先輩を気持ちよくしていいですか?」

「っ……し、して。き、キスで、気持ちよくして……」

「それじゃあ、ほら。顔を上げてください先輩」

「むっ、無理……!」

「無理じゃないですよ、先輩。何も恥ずかしいことはありません。少なくとも、私と先輩の間には。だから、ほら」

「っ!」


 先輩の顔に指を添えて、ゆっくりと胸から引きはがす。


 きっと、これは先輩にとって初めての経験だ。

 こんなにも他人に感情を露出させたことなんてないだろう。


「ふふっ、いい顔ですよ先輩♪」

「そ、そんなに見ないでぇ……っ」

「嫌です。だって、せっかく先輩が素直になってくれたんですから」


 限界まで赤くなった頬。

 激しく呼吸を繰り返す口。

 涙で潤み、揺れる瞳。


 どこまでも愛おしい先輩。

 頑張ったご褒美に、その体に教えて差し上げます。


 素直になれば気持ちよくなれるってことをその体の奥深くまで刻み込んで。

 私の前では一生素直にしかなれない先輩にしてあげますね。

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