3
「私に任せてください。先輩はよがってくれてればそれでいいですから。私がすることを許容してくれれば、満足させてみせますから、ね? そうしたら、私たちはずっと友達です」
顔を上げた先輩の表情に迷いはなかった。
ただ、その瞳からは抵抗と拒絶が消えていて、諦めの色が濃く出ていた。
「じゃあ、さっきの続きをしますね? さ、目を瞑ってください」
先輩は文句を言うこともなく、抵抗もしなかった。ただ、心なしか唇を引っ込めているような気はする。
チロリとその小さな唇を舐め上げると、先輩は震えあがった。
「ふふっ、先輩の唇カサついてます。駄目ですよ先輩、ちゃんと唇のお手入れはしないと。女の子なんですから。可愛い可愛い、女の子」
「べ、別にそんなのっ……!」
「んっ……」
口と口が繋がって、互いの体内を繋げて、心が解け合っていく。
なんて、そんな甘いものではない。
ただ唇を触れ合わせただけ。先輩の唇は固く閉じられていて、この期に及んで頑なな拒絶を感じる。
目を開けると強張る先輩が涙を流しているのが見えた。
「先輩、泣いているんですか?」
「っ……」
「そうですか、そんなに嫌なんですね……」
「だ、だったらなによ……!」
「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」
「えっ!?」
「言ったじゃないですか。先輩の嫌がることはしたくないって。だから、先輩が嫌なのだとしたら、私はそれ以上はしないですよ?」
「……だ、だったら最初から――」
「嫌がることはしないって宣言したのはついさっきですので。次からは嫌だったらちゃんと言ってくだされば控えます」
「……」
先輩からジトっとした疑いの視線を向けられる。
私だってこれで信用を取り戻したなんて思っていない。先輩を篭絡するのは、ここからが本番だ。
「それじゃあ、今日はお開きにしてもいいですか? 本当は先輩と一緒にお話したり遊んだりしたいんですけど……」
「な、なに?」
「いえ、このままお預けをされたまま一緒の部屋に居ると辛いなって。私、早く発散させてしまいたくて……」
「っ……そ、そう……じゃ、じゃあ私は帰るわ」
「あ、でも……最後に一つだけいいですか?」
「な、なにっ?」
「もう1回だけ、キスしてもいいですか?」
「っ!」
「お願いします、1回だけでいいんです。それだけで我慢しますから。だから、どうかもう1回だけ……ね?」
あくまでも下手に、ただし視線に強く圧をかけて投げかける。
「……い、1回だけね」
「ありがとうございますっ!」
先輩は目をぎゅっと瞑ると、口も堅く閉ざした。とてもキスを許容している態度には見えない。
「それじゃあ――」
いただきます。
「っ……」
唇の全体が触れ合うように、優しく押し付ける。逸る舌をまだ早いと押さえつけ、子供のするような、先輩の好むような甘いキスを長く、長く。
性欲を自身の内に押し込めて、愛情と好意を一杯に込めて。
好きです。大好きです。私はあなたのことが好きです、先輩。
「……っぷは」
「ふふっ、もしかして息を止めてたんですか?」
「なっ、えっ、ち、ちがうの……?」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、もしそうだったら長くしてしまってすみません。苦しかったですよね。先輩が許してくれたのが嬉しくて、つい……ふふっ」
「あ……あ、っそう……」
先輩の表情はまだ固く私への視線も厳しくはある。
けれど、私の懇願によってキスを許したというのは紛れもない事実だ。
「……あの、先輩。もう1回ってお願いしても――」
「だ、だめっ、これ以上はだめ! 1回って約束でしょ!?」
先輩はいそいそと立ち上がると小走りで扉に向かってしまった。まるで逃げるように。
「あ、先輩!」
「……な、なに?」
「また明日、部室で」
「……」
「先輩?」
「……そうね、また明日」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます