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「私に任せてください。先輩はよがってくれてればそれでいいですから。私がすることを許容してくれれば、満足させてみせますから、ね? そうしたら、私たちはずっと友達です」


 顔を上げた先輩の表情に迷いはなかった。

 ただ、その瞳からは抵抗と拒絶が消えていて、諦めの色が濃く出ていた。


「じゃあ、さっきの続きをしますね? さ、目を瞑ってください」


 先輩は文句を言うこともなく、抵抗もしなかった。ただ、心なしか唇を引っ込めているような気はする。


 チロリとその小さな唇を舐め上げると、先輩は震えあがった。


「ふふっ、先輩の唇カサついてます。駄目ですよ先輩、ちゃんと唇のお手入れはしないと。女の子なんですから。可愛い可愛い、女の子」

「べ、別にそんなのっ……!」

「んっ……」


 口と口が繋がって、互いの体内を繋げて、心が解け合っていく。

 なんて、そんな甘いものではない。


 ただ唇を触れ合わせただけ。先輩の唇は固く閉じられていて、この期に及んで頑なな拒絶を感じる。


 目を開けると強張る先輩が涙を流しているのが見えた。


「先輩、泣いているんですか?」

「っ……」

「そうですか、そんなに嫌なんですね……」

「だ、だったらなによ……!」

「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」

「えっ!?」

「言ったじゃないですか。先輩の嫌がることはしたくないって。だから、先輩が嫌なのだとしたら、私はそれ以上はしないですよ?」

「……だ、だったら最初から――」

「嫌がることはしないって宣言したのはついさっきですので。次からは嫌だったらちゃんと言ってくだされば控えます」

「……」


 先輩からジトっとした疑いの視線を向けられる。

 私だってこれで信用を取り戻したなんて思っていない。先輩を篭絡するのは、ここからが本番だ。


「それじゃあ、今日はお開きにしてもいいですか? 本当は先輩と一緒にお話したり遊んだりしたいんですけど……」

「な、なに?」

「いえ、このままお預けをされたまま一緒の部屋に居ると辛いなって。私、早く発散させてしまいたくて……」

「っ……そ、そう……じゃ、じゃあ私は帰るわ」

「あ、でも……最後に一つだけいいですか?」

「な、なにっ?」

「もう1回だけ、キスしてもいいですか?」

「っ!」

「お願いします、1回だけでいいんです。それだけで我慢しますから。だから、どうかもう1回だけ……ね?」


 あくまでも下手に、ただし視線に強く圧をかけて投げかける。


「……い、1回だけね」

「ありがとうございますっ!」


 先輩は目をぎゅっと瞑ると、口も堅く閉ざした。とてもキスを許容している態度には見えない。


「それじゃあ――」


 いただきます。


「っ……」


 唇の全体が触れ合うように、優しく押し付ける。逸る舌をまだ早いと押さえつけ、子供のするような、先輩の好むような甘いキスを長く、長く。

 性欲を自身の内に押し込めて、愛情と好意を一杯に込めて。


 好きです。大好きです。私はあなたのことが好きです、先輩。


「……っぷは」

「ふふっ、もしかして息を止めてたんですか?」

「なっ、えっ、ち、ちがうの……?」

「いえ、大丈夫ですよ。ただ、もしそうだったら長くしてしまってすみません。苦しかったですよね。先輩が許してくれたのが嬉しくて、つい……ふふっ」

「あ……あ、っそう……」


 先輩の表情はまだ固く私への視線も厳しくはある。

 けれど、私の懇願によってキスを許したというのは紛れもない事実だ。


「……あの、先輩。もう1回ってお願いしても――」

「だ、だめっ、これ以上はだめ! 1回って約束でしょ!?」


 先輩はいそいそと立ち上がると小走りで扉に向かってしまった。まるで逃げるように。


「あ、先輩!」

「……な、なに?」

「また明日、部室で」

「……」

「先輩?」

「……そうね、また明日」

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