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 放課後の哲学部の部室。

 いつも一番に来るのは後輩ちゃんだ。

 私と先輩が来る前に部室の掃除をして、持参した紅茶の準備をしてくれている。


 掃除はともかく飲み物まで用意するのはやりすぎだと思うのだが、家に余っているとかで毎回用意してくれている。


「せ、先輩? あ、あの、紅茶、おいしくなかったですか?」

「え?」

「そ、その……渋い顔をしているので」

「い、いや、そんなことは――」

「大丈夫ですよコウちゃん。今日もいつも通り美味しいです」


 部活中、先輩の様子は少しぎこちなかった。

 ちらちらと私の様子を伺い、目を合わせれば慌てて伏せるということを繰り返している。

 幸い後輩ちゃんには深くは気にしていないようだが、どう見ても挙動不審だった。




 部室から一番最初に退室するのも後輩ちゃんだ。どうやら門限があるらしく、いつも名残惜しそうに最初に帰っていく。


 そして、先輩と私のふたりきりになった。

 部室という密室の中で、昨日と同じようにふたりきりだ。


「先輩、ふたりきりになりましたね」

「ぴっ」

「そんなに怯えないでください。言ったじゃないですか、先輩の嫌がることはしないって。さっきまでだって、お利口にしていたでしょう?」

「ち、近いわよっ! そ、そんなにくっつかなくても――」

「先輩、私ご褒美が欲しいです……。待てをがんばったワンちゃんにはご褒美をあげるのが躾というものですよね?」

「ご、ご褒美って、な、なに?」

「先輩とキスがしたいです」

「き、昨日もしたじゃないのっ! それに1回だけって言ったでしょ!?」

「でも、私昨日からずっと我慢してて……。本当は大好きな先輩ともっと色々したいんですけれど、先輩が嫌なことはしたくないから……。キスをさせてくれたら、私また我慢できます。先輩の嫌なことは絶対にしないって我慢するためにも、飴をいただけませんか?」

「っ……で、でも……」

「先輩……」

「……っ、1回だけ! それは絶対だから!」

「ありがとうございます!」


 これで1日1回。


「それじゃあ――」


 いただきます。


「んっ」


 先輩との3回目のキス。唇が触れ合うだけの、私にとってはなんてことのない接触。

 でも先輩にとっては違う。


 同性で、後輩で、自分を慕う相手とのキス。

 まだ固さの取れていない、拒絶の意思が感じられるキス。


 それをほぐすように、唇で愛撫した。


「んむっ!?」


 揉みほぐすように優しく、柔らかく。


 先輩は驚いてはいるようだが、私を突き飛ばすことはしなかった。

 最も、突き飛ばしていても私が先輩の肩掴んでいるためそれは無意味だったが。


「ふふっ、ありがとうございます、先輩。私とっても嬉しくて……これで我慢できます!」

「ちょっ、ちょっと、い、いまっ」

「はい? どうかなさいましたか?」


 なんでもないという風に振る舞う。

 明らかに昨日とは違うキスをしたが、それが当たり前とでも言うように。


「い、いやっ……な、なんでも……ない」


 キスに慣れていない先輩は思惑通りに閉口してくれた。


 これで、また一つ先輩の壁が取り除かれた。


「それじゃあ先輩、また明日」

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